トークン化と現実資産(RWA)が主役に躍り出る

資産のトークン化と現実資産(RWA)の領域は2023年、プロが運用する金融商品とデジタル資産を使った仕組みがうまく組み合わさっていることから、個人および機関投資家の注目を集めた。これまで40社以上のクライアントにトークン化戦略やトークン化商品の発行についてアドバイスしてきた弊社では、2023年第3四半期にトークン化市場で以下のようなテーマが浮上していることを目の当たりにした。

ブロックチェーンによる効率化と収益改善

この分野に参入する投資家にとって、最大の効率化はエンド・ツー・エンドのデジタルシステム、つまりオンチェーンライフサイクルによってもたらされる。それは、従来のプロセスと比較して、コストや手作業にかかる時間を節約することができることを意味する。以下、いくつかの実例を見てみよう。

  • ゴールドマン・サックス・デジタル・アセット・プラットフォーム(Goldman Sachs Digital Asset Platform:GS DAP)は、1億ユーロ(約163億円、1ユーロ163円換算)のデジタル債券発行で15ベーシスポイントのコスト削減を実現し、その結果、15万ユーロの追加リターンが唯一の買い手であるユニオン・インベストメント(Union Investment)に還元された。
  • J.P.モルガンのオニキス・デジタル・アセット(Onyx Digital Assets:ODA)は、2023年末までに1兆ドル(約150兆円、1ドル150円換算)のトークン化されたレポ取引高を見込んでおり、2000万ドルのコスト削減を見込んでいる。
  • ブロードリッジ(Broadridge)の分散型台帳レポ(Distributed Ledger Repo:DLR)は、ソシエテ・ジェネラル(Societe Generale)のようなセルサイドの顧客に対し、レポ取引10万件あたり100万ドルのコスト削減を実現している。
  • Equilendは分散型台帳ベースの証券レンディングソリューション「1Source」を立ち上げた。証券レンディング業界で削減される総コストは1億ドルと推定される。
  • ストラクチャードファイナンス(仕組債)のサービスプラットフォームであるIntainは、ハイパーレジャー(Hyperledger)とアバランチ(Avalanche)のブロックチェーンソリューションを使って、中小企業のローンライフサイクル手数料を150ベーシスポイントから50ベーシスポイントに削減し、100ベーシスポイントの手数料削減を実現している。
  • バンガード(Vanguard)は、Grow Inc.を通じてR3のコルダ(Corda)を活用し、ストレート・スルー・プロセッシングを実現することで、週に100時間の労働時間を削減している。
  • Liquid Mortgageは住宅ローン担保証券(MBS)のレポートをステラ(Stellar)ブロックチェーンを使い、55日から30分に短縮した。

マネーマーケットと国債から

資産運用会社や発行者は、マネーマーケットや国債関連の商品を試すことで、トークン化のワークフローに慣れ親しみつつある。これらのトークン化資産は、完全にオンチェーン化され、顧客に還元できる利回りを生み出す。

オルタナティブ商品への取り組みが進む一方、マネーマーケットは年率最大5%の利回りを低リスクで実現している。この資産クラスは、2023年第3四半期末までに約7億ドルのオンチェーン資本を蓄積し、年初来約520%増加した。

オンチェーン化された国債の時価総額と月間成長率(緑)
(RWA xyz)

機関投資家を通じたトークン化商品の流通

従来のトークン化業界の弱点のひとつは、実際の商品流通と資本シンジケーション。金融機関は、単に運用や効率化のために資産をトークン化するだけでなく、トークン化された商品を自らの顧客を買い手として提供し始めている。

シティは、シンガポールのBondbloXを通じて、東南アジアのプライベートバンキングとウェルスマネジメントの顧客にデジタル社債を提供している。UBSは以前、富裕層顧客向けに4億ドル超のデジタル社債を発行したことに続き、同じくシンガポールでイーサリアムベースのマネー・マーケット・ファンドを発行した。

JPモルガンやゴールドマン・サックスのような金融大手がさまざまなデジタル金融商品の開発を続けるなか、プライベートバンク、ウェルス&アセットマネジメント、オルタナティブを手がける企業が、個人投資家向けブローカー・ディーラーがアクセスすることに苦労している相当な量の資本を解き放つ販売チャネルとして機能することが予想される。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Tokenization and Real-World Assets Take Center Stage