人気メディアのバンクレス(Bankless)とDAOが対立──原因と経緯を振り返る

騒ぎと怒りに満ちているが、実はハッピーエンドを迎えるかもしれない暗号資産(仮想通貨)関連のストーリーがある。人気暗号資産メディア「バンクレス(Bankless)」とその関連組織「バンクレスDAO(BanklessDAO)」が離婚を協議している。そして、離婚はDAOに原因がある。

だが別れが険悪なものになる可能性は低い。影響力のあるバンクレスの共同設立者であるデイヴィッド・ホフマン(David Hoffman)氏とライアン・ショーン・アダムズ(Ryan Sean Adams)氏は、バンクレスDAOに提案書を提出した。今のところ彼らはただ、話し合いたいだけだ。

「今はパラメータ化の段階だ」とホフマン氏はインタビューで語った。プロ・ポッドキャスターのオンライン・インタビューは非常にクリアで、毎週アップロードされる2~4本のニュースやインタビューに時間と注意と資本を注ぎ込んでいる人物らしいクオリティだった。

ホフマン氏とアダムズ氏の知らないところでDAOが提案した資金調達と教育への取り組みによって、ブランド全体で激しい議論が巻き起こった。バンクレスDAOはそのまま、「バンクレス」の名を使い続けられるのだろうか?

暗号資産コミュニティからの反発

具体的には、クリプト・ツイッターの大部分(すなわち、ビットコイン・ツイッターの一部)は、バンクレスDAOがアービトラム(Arbitrum)ネットワークに人々をオンボーディングするための1年間の教育的取り組みの資金として、181万8630アービトラム(ARB)の助成金をアービトラムに要求したことに深刻な不快感を示した。暗号資産アービトラムはほぼ1ドルで取引されているため、要求額は180万ドル(約2億7000万円、1ドル150円換算)に相当する。

「これがクリプト・ツイッターから反射的な反応を引き起こした……、人々はDAOによる資金強奪だと感じた」とホフマン氏は述べる。ホフマン氏によれば、このようなことは過去2年間で5回起きている。

「誰かが何かで私たちに腹を立て、『バンクレスについての不満をぶちまける時が来た』とでも言うかのように、畳み掛けてくる出来事があるようだ」

この提案は、DAOで可決されれば、「多言語マーケティングキャンペーン」、コンテンツ執筆、22のポッドキャスト、50のイベント、85の「ハウツー」トレーニングセッションに資金を提供し、アービトラムのコアテクノロジーとそのツール/プロトコルを新しいオーディエンスに紹介することを目的としている。

それが「資金強奪」かどうかは、分別のある人たちでも意見が一致しない問題であり、アービトラムDAOが投票で決定することになる。バンクレスDAOは過去にも似たような取り組みを行っており、最も関連性があるのは、ライバルのイーサリアムレイヤー2、オプティミズム(Optimism)向けに行ったものだろう。これらの取り組みのほとんどに関しても、ホフマン氏はまったく知らないと主張した。

「私は情報を求めてきたが、何も得られていない」

ホフマン氏に言わせれば、直近の反発はいくつかの要素が絡み合った結果だという。第1にX(旧ツイッター)は「ゆがんだ鏡」であり、「対話には向いていないコンテンツプラットフォーム」だということ。第2に、アービトラムはバンクレスが展開するメディアに広告を掲載するために約50万ドルを支払った。そのため、DAOによる別枠での資金提供要求が資金の強奪に見えてしまうことだ。

線引きに失敗

最も重要なことは、DAOに少しでも時間を費やしたり、DAOを観察したりしたことのある人なら、誰もがよく知っているはずの問題だ。多くの場合、名前や設立者は同じだが、異なる目的のために存在する別の組織の間の「区別の失敗」だ。

例えばバンクレスは、ニッチなDeFiセクターをカバーする定評あるメディアだ。フルタイムの契約社員を含めると従業員は約20人で、ホフマン氏とアダムズ氏が始めた。

ポッドキャストやニュースレターを制作するメディアチーム、広告主との関係などを管理するビジネスチーム、そして足場を固めつつある「ソフトウェア部門」がある。

ホフマン氏とアダムズ氏は、3500万ドルを調達した別の事業体も運営しているが、バンクレスLLC(合同会社)は2020年に法人化し、2人がフルタイムで取り組むようになって以来、外部からの資金を受けたことはない。

一方、バンクレスDAOは、法的に言えば、存在すらしていない組織だ。DAOが設立されたのは2021年、ビットコインが6万9000ドルを記録するような強気相場の最中で、ディスコード(Discord)には約3万人のメンバーがいるが、何人が加入し、何人が抜けたかを判断することは難しい。

ホフマン氏はバンクレスDAOを、コンサルティングや出版に焦点を当てたユニット、オーディオとビデオのギルド、「ファイトクラブ」と呼ばれるものなど、「サブDAO」で構成される「非常にフラット」な組織だと説明した。

「それらはすべて集まり、DAOに統合される」とホフマン氏は語る。ホフマン氏とアダムズ氏はある時、バンクレスのスタッフ2人に「DAOの調整役」という新しい役割を与えた。彼らはCEOという言葉がDAOの世界で意味を持つのであれば、CEOの肩書きを持つことができたかもしれない。

DAOは暗号資産特有のアイデアで、かつてニューヨーク・タイムズ紙は「銀行口座を持つグループチャット」と表現した。

DAOの中には、MakerDAOとMakerのように金融業務を監督するものもあるが、通常はディスコードのチャンネルと、グループへのアクセスを制限し、シード資金として機能するトークンを持つソーシャルグループに過ぎない。そして、ほとんどの暗号資産特有のアイデアと同様、問題を抱えている。

バンクレスの責任は?

バンクレスの設立者たちは、当初は守りの姿勢に入り、DAOの行動に対する責任をかわしていたが、現在はXとバンクレスのディスコード・チャンネルでダメージコントロールを試みている。ホフマン氏は「実際に顔を合わせるミーティングもある」と述べた。

バンクレスDAOの主な不満のひとつは、ホフマン氏とアダムズ氏が「傍観している」こと。これは正当な主張だ。

バンクレスの共同設立者たちはDAOを立ち上げ、多くの自社流通チャンネルで宣伝し、一時はガバナンスの決定に関する投票に使われる暗号資産BANKの25%も保有していた(彼らはトークンを売却していないが、「DAO創設チーム」に一部を分配した後、現在は合計で15%未満しか保有していないと述べている)。

バンクレスはまた、2021年の立ち上げ時にバンクレスDAOにIndex Coopと呼ばれる収益性の高いオンチェーン投資プロトコルとブロックチェーン関連のアパレル部門を譲渡した。

バンクレスからDAOへの関与おは、過去は流動的だったが、DAOのメンバーはバンクレスに対する議決権を持たず、「現在のバンクレス社員にDAOの人間はいない」とホフマン氏は述べた。

誰かが、例えばバンクレスの設立者たちが、DAOの運営にもっと関与すべきだったという主張はもっともだ。無定形の社交クラブがバンクレスの貴重な商標を無償でライセンスし、実際のビジネスの利益に重大な影響を与えかねない決定を下していたのだから。

ホフマン氏もそれが間違いだったと認識しており、解決策は組織を切り離すことだと確信しているようだ。アダムズ氏は2023年11月25日に「来週早々に@BanklessDAOにガバナンス案を提出し、組織間のブランド分離を明確」にし、BANKをバーン(焼却)する計画があるとツイートした。正式な提案はなされておらず、さまざまな結果が考えられる。

暗号資産スタートアップの設立者にとって、事業や評判の一部の支配権を外部組織に譲り渡すことの危険性についての教訓がここにある。DAOとリーダーシップの重要性についても教訓がある。そして、個人的にはバンクレスDAOのアービトラム教育提案は妥当だと思う。要求された予算はDAOの報酬とマーケティング施策の両方に沿ったものだが、メッセージについては、より大きなものがあるだろう。

分散化というアイデア

しかし、ホフマン氏にとってバンクレスは「アイデア」でもある。共同設立者たちは当初から、バンクレスを明確な読者を持つ「無駄のない」会社にしておきたいと考えていたが、ホフマン氏とアダムズ氏は暗号資産の真の信者でもあり、メディア運営を「分散化」するというアイデアに心を奪われた。

「多くの人が私たちにDMを送り、バンクレスを助けたいと、関連する分野のサービスや経歴を提供してくれた。中央集権的な会社の中には、彼らの居場所がなかった」とホフマン氏は語る。

彼らのポッドキャストが軌道に乗り始めた頃、DAOは洗練されたテーマだった。例えば、ニューヨーク・タイムズの記者は、合衆国憲法の原本の購入を目指すDAOに参加していた(多くの資金を集めたが、購入は失敗した)。DAOは、バンクレスが実際に巨大化することなく成長できる方法のように思えた。

そしてかなりの程度、それは事実だ。ジャーナリズムの経験のない2人の設立者によって運営されるメディア企業バンクレスは、この分野で最も成功している組織のひとつだ。暗号資産メディアが予算やスタッフを削減し、バンクレスは読者が大幅に減少するなかでも次なる機会を狙っている。

バンクレスに関しては、潜在的な利益相反、過度なポジティブバイアス、広告のようなWeb2ビジネスモデルへの依存に対する不満がある。一方で、人々がうらやむような運営であることも間違いない。

ホフマン氏とアダムズ氏は、自分たちが好きなことを読み、書き、伝えることに時間を費やし、そこから利益を得ている。バンクレスは、私が暗号資産の複雑さを理解したいときによく訪れる場であり、イーサリアムで何か新しいことに足を踏み入れようとしている人々によく勧める場でもある。

同様に、バンクレスDAOはバンクレスブランドを活用することで大きくなり、今ではその生みの親が侮れないほどの力を持っている。参加する価値のある数少ないDAOのひとつであり、問題が浮上する以前は比較的安定しているように見えた。ホフマン氏が言ったように「指導者のいないブランド」だが、彼にはそのようなことを言う権利すらないかもしれない。

暗号資産とインターネットが抱える問題

一部の不満を抱えた人たちが主張しているように、バンクレスが悪質な行為者であったり、「イーサリアムにとって邪悪な存在」だったりするのは、現在の暗号資産自体が問題をはらんでいる限りにおいてだ。バンクレスとDAOが「目指しているムーブメント」と「使命」、つまり「バンクレス」というアイデアは、少なくとも現在利用可能な代替手段から考えれば、ひどいものかもしれない。だがそれでも、素晴らしいブランディングであることに変わりはない。

しかし、バンクレスがWeb3について体現している問題はさておき、この混乱は暗号資産が置き換えたいと考えているインターネットの問題でもある。ソーシャルメディア上では、誰もが文章を書くことができる。だから誰もが、ホフマン氏とアダムズ氏が築いたものは再現可能だと思っている。しかし実際そんなことはなく、仕事と献身とある程度の運が必要だ。

Xのアルゴリズムによって論争が激化するかもしれないが、コミュニケーションの方法はまだあなたが自分で選べる。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:バンクレスの共同創設者デイヴィッド・ホフマン氏(CoinDesk)
|原文:Breaking Down the Bankless Backlash