認め難い真実:Web3と生成AIの知られざるミスマッチ

生成AI(人工知能)とWeb3の融合は、暗号資産分野における最も興味深いトレンドのひとつだ。生成AIが次世代のWeb3テクノロジーで役割を果たす可能性が高いことは多くの人が認めるところだが、その具体的な内容は明らかとは言い難い。

結局のところ、AIはWeb3の重要な構成要素と考えられたことはなく、さまざまな世代のレイヤー1(L1)とレイヤー2(L2)は、AIのワークロードを実行するように設計されていない。

Web3を生成AIテクノロジーに適応させることを想定したとき、Web3開発者が直面する現実は、データと計算要件の圧倒的なミスマッチだ。生成AIのワークロードは、高度に並列化可能なGPU上で実行され、演算集約的に設計されている。一方、ブロックチェーンの処理能力は、データと演算能力の点でかなり制限されている。

同時に、Web3がWeb2に追いつくためには、生成AIの機能を取り入れる必要がある。そうなると、次のような当然の疑問が浮かんでくる。生成AIとWeb3の統合はどのように実現するのだろうか?

生成AIのトレンドの中で、ブロックチェーンの機能を取り入れることに理想的と思われるものがひとつある。それは偶然にもOpenAIが先日開催した「Developer Days」での発表を通じて、メインストリームの注目を集めたものだ。

ここでは、2つのポイントを探りたい。

  • ほとんどのWeb3の機能が、現在の生成AIソリューションの進展にわずかな利益しかもたらさない理由
  • 自律エージェントが、Web3機能を取り入れることができる生成AIのトレンドのひとつである理由

ミスマッチ

我々は、ブロックチェーンと生成AIテクノロジーがいかに相性が良いかについて、誇張された主張を定期的に目にする。そのような記述はニュースにするには良いが、2つのテクノロジーの現状を理解するという技術的な厳密さを欠いている。Web3と生成AIのインテグレーションの可能性を深く理解しようとすると、非常に困難な状況が見えてくる。

生成AIとWeb3の潜在的なインテグレーションについて考えるために、第一原理的アプローチに従うと、我々は次の2つの基本的な次元を考えることができる。

  • 生成AIの能力を活用する新世代のWeb3テクノロジー
  • ブロックチェーンテクノロジーを組み込むことのできる生成AIソリューション

最初のベクトルは非常に不可解だ。一方では、生成AIを活用したインテリジェントな機能を組み込む、新世代のDeFiプロトコルやブロックチェーンの動きは明確に想像できる。他方では、そのようなユースケースは非常に初期段階にあるか、ほとんど存在しない。

2つ目のカテゴリーは、より幅広い機会を提供するが、同様に難しい。心理的には、ゼロ知識演算のような最新のWeb3の機能を、生成AIソリューションのための分散型スタックに適応させようとすることは非常に魅力的だ。ゼロ知識(zk)スタックや生成AI向け分散型スタックを目にする機会が増えていることは、驚くべきことではない。だが確かに興味深いが、これらのソリューションは、現在の生成AIスタックの波とはかなりミスマッチのようだ。

例えば、ゼロ知識演算は、生成AIにおける透明性という点で、いくつかのユースケースを可能にする可能性はあるが、その演算コストから、大規模なトランスフォーマー・モデルの規模で適用することは極めて非現実的だ。

同様に、分散型GPUアーキテクチャは、GPU間で非常に高速な通信バスを必要とするため、生成AIモデルの事前学習や微調整には非現実的だ。

生成AIとWeb3テクノロジーのギャップを埋めるには、技術的な能力が一致すること以上に、これらの能力が両方のテクノロジースタックの現在のユースケースに適合していることが必要だ。その意味で、Web3スタックに最適と思われる生成AIのホットなトレンドがある。

半自律エージェント

生成AIの分野をフォローしていれば、おそらくAutoGPT、BabyAGI、あるいは発表されたばかりのOpenAI GPTのような半自律エージェント機能に基づくプロジェクトを耳にしたことがあるだろう。半自律エージェントの最も単純なバージョンは、抽象的なタスクを推論し、計画を立て、与えられた環境で実行することができる知的モデルだ。

特定のドメインの市場調査に特化したエージェントを考えてみよう。このエージェントは「特定の製品を調査する」といった抽象的な目標から出発し、適切な情報源を参照し、大規模言語モデルを用いて情報を要約し、異なる関係者に配布する計画を策定できる。半自律エージェントは、メモリ、ツール統合、セキュリティガード、その他多くの機能によって基礎モデルを強化する。

ここ数カ月の間に、半自律エージェントは、目立たない研究トピックから、生成AIの最もホットなトレンドのひとつになった。このテクノロジーはその半自律性によって、ブロックチェーンにとって理想的なものになる。

半自律エージェントテクノロジーの現状では、ブロックチェーンに適した4つの主要なユースケースがある。これらのユースケースは机上の空論ではなく、半自律エージェント・アプリケーションが直面する現実的な課題だ。

  • 透明性: 半自律エージェントの主な価値提案のひとつは、与えられた環境で行動を策定し、実行する能力。ブロックチェーンは、それらの計画や決定の記録システムとして機能できる。
  • 分散型調整: 半自律エージェントの究極の目標のひとつは、特定の目標を達成するために協働すること。このレベルの共同作業には分散型の調整が必要であり、これはブロックチェーンに最適。あるエージェントがスマートコントラクトを通じて他のエージェントの能力を発見し、それらと相互作用するシナリオが想像できる。
  • ガードレール:エージェントが半自律的に行動するようになると、その行動の潜在的な影響を抑制するために、エージェントの周囲にガードレールを設置するという考えがますます重要になってくる。スマートコントラクトは、エージェントの周囲に変更不能なガードレールを設置する理想的なメカニズムだ。
    クレジットの申し込みがあった場合に金融に関する決定を下すことができるエージェントが、出力の一部として機密情報が生成されないことを保証するスマートコントラクトによってガードされていることを想像してみてほしい。
  • 経済的インセンティブ: コラボレーションの文脈では、暗号資産(仮想通貨)は重要な役割を果たすことができ、半自律エージェントの重要な経済レイヤーとして機能する。高価な画像生成モデルを使用して特定の製品のマーケティング資料を生成できるエージェントを例にとってみよう。
    このシナリオでは、エージェントは暗号資産を通じて支払いを受け、自律的に機能を実行することができる。

なぜ半自律エージェントなのか?

Web3テクノロジーへの我々の情熱とは無関係に、生成AIはブロックチェーンのサポートなしでも十分に進化していることは明らかだ。この2つのテクノロジートレンドをマッチングさせることは、それほど簡単なことではない。生成AIのためのWeb3のシナリオは、非常に初期段階にあるか存在しない。

そうすると重要になることは、ブロックチェーンテクノロジーで対処できる生成AIの「現実的な」課題を見つけることだ。「現実的な」とは、理論的な演習から導き出されたものではないという意味であり、現実世界での普及が限定的なテクノロジーと、ここ数十年間で最も急速に成長しているテクノロジートレンドをマッチさせようとすることを念頭に置くことだ。

半自律エージェントは、技術的にもタイミング的にも、ブロックチェーンに最適な組み合わせだと考えられる。このトレンドは、生成AIの次の波のひとつとして広く受け入れられつつあり、透明性、調整、セキュリティの面で、ブロックチェーンに最適と思われる現実的な課題がある。

このインテグレーションが実現するには、両方のテクノロジーにおいて、いくつかの巧妙な技術的適応が必要になるだろう。しかし、ニーズは確かに存在する。半自律エージェントは、生成AIとブロックチェーンの架け橋となるかもしれない。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:A Difficult Truth: The Unspoken Mismatch of Web3 and Generative AI