2023年:ステーブルコイン市場の重要な転換点

世界のステーブルコイン市場にとって2023年は、デジタル通貨の未来を形作る、前例のない展開の1年となった。技術的な進展やイノベーションだけでなく、デジタル資産を管理する規制においても大きな変化があった。

複雑な規制環境をサバイブ

2023年のステーブルコイン市場は、規制の大幅な進展によって変貌を遂げた。アメリカが群を抜いたステーブルコインの主要市場であることを考えると、世界的なステーブルコインの取り決めに関する包括的な規制と監視を提唱する金融安定理事会(FSB)の勧告はきわめて重要なものとなった。

これらのガイドラインは、国際金融システム内でステーブルコインを管理するための統一的なアプローチを促進することを目的としており、世界の金融の安定にステーブルコインが与える潜在的な影響が浮き彫りとなっている。

そのほかにも、今年のG20での議論では、特に新興国の間で、ステーブルコインが各国政府の金融政策に与える破壊的な可能性への懸念をめぐって見解が分かれたことが明らかになった。

このため、金融イノベーションと各国の経済的セーフガードとのバランスを取る必要性を反映し、厳格な規制フレームワークを求める声が高まった。G20は10月、ステーブルコインを含む暗号資産の世界的な政策フレームワークを調整するための暗号資産ロードマップを採択。このロードマップは、新興市場への影響も考慮したものとなっている。

各国の規制状況

イギリスでは、金融行動監視機構(FCA)とイングランド銀行(BOE:中央銀行)が2025年までの規制の最終化に向けて取り組んでおり、金融エコシステムにステーブルコインを安全に組み込むことへのコミットメントを示している。

同様に、EUのMarkets in Crypto Assets(MiCA)規制は、発行企業に対する具体的な資本要件と流動性要件を定めており、ステーブルコインの監督に高い基準を設定している。アメリカもまた、ステーブルコインを規制するためのさまざまな提案で立法化を進めている。

アジアでは、日本が包括的なステーブルコイン規制のフレームワークで他の国・地域に先駆けている。シンガポールの金融管理局(MAS)は単一通貨ステーブルコインのフレームワークを完成させ、香港は2024年末までに規制フレームワークを導入する準備を進めている。

激動の1年

ステーブルコイン市場にとっては、ジェットコースターのような1年だった。米ドルと連動したバイナンス(Binance)ブランドのBUSDが発行されなくなり、2024年にはサポートされなくなるという発表から始まり、信頼できる代替オプションを探すことになった。

その後、USDコイン(USDC)やダイ(DAI)を含む主要ステーブルコインが3月の銀行危機の際にデペッグに見舞われ、信頼性に対する懸念が高まった。

バイナンスがBUSDの代わって、TrueUSD(TUSD)とテザー(USDT)を推奨し、規制と透明性にまつわる課題にもかかわらず「信頼できる」ステーブルコインとしての地位を維持したことは市場の進化における重要な瞬間となった。

ムーディーズ・アナリティクス(Moody’s Analytics)は、大規模な法定通貨連動型の主要ステーブルコインが2023年、600回以上デペッグしたという、市場のボラティリティをさらに象徴する事実を伝えるレポートを発表した。

メインストリームの金融業務における採用

ビザ(Visa)、マスターカード(Mastercard)、Checkout.comといった大手企業が今年、さまざまな用途のためにステーブルコインを採用した。

ビザはステーブルコインの決済機能を拡張し、ソラナ(Solana)ブロックチェーンを使用してサークル(Circle)が手掛けるUSDCとパイロットプログラムを開始した。

マスターカードはImmersveと協力し、ニュージーランドとオーストラリアで暗号資産決済を可能にした。

Checkout.comはステーブルコイン決済ソリューションを立ち上げ、加盟店に24時間365日、週末や祝日でも柔軟な決済サービスを提供している。

今後の展望

2023年を経て、ステーブルコイン市場が重要な岐路に立たされていることは明らかだ。世界中の規制環境は、ステーブルコインを金融システムに安全に統合しようとする協調的な取り組みを反映している。

これらの規制の取り組みは、アプローチや範囲こそ異なるものの、関連するリスクを軽減しながらステーブルコインの可能性を活用するという共通の目標を掲げている。

大きな課題に直面しているにもかかわらず、市場はレジリエンスと適応力を示している。ステーブルコインの進化は、規制遵守の強化と、より透明性の高い分散型モデルへの段階的なシフトに傾いているようだ。これは、暗号資産エコノミーの重要なセクターにとって、より安全で安定した未来を約束するものだ。

今年はステーブルコインにとってきわめて重要な年であり、その安定性と安全性を確保することを目的とした、より広範な規制面での後押しが顕著だった。

いくつかの課題や市場の変動にもかかわらず、暗号資産エコシステムと伝統的金融の両方へのステーブルコインの取り込みと統合は、その重要性の高まりと継続的な成長と革新の可能性を示している。

ステーブルコイン市場の軌跡は、ステーブルコインがより広範な金融情勢において不可欠な役割を果たす未来を指し示している。この点で、ステーブルコイン発行企業は2024年、償還の完全性をめぐる信頼と保護措置を強化するために、透明性、リスク管理、適切な管理体制の整備に注力することが賢明だろう。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:2023: A Critical Juncture for the Global Stablecoin Market