ビットコインETFは莫大なビットコイン取引の火付け役となる──市場は準備万端

米証券取引委員会(SEC)が期待通り、数日以内に十数社のビットコインETFを承認すれば、暗号資産(仮想通貨)に詳しいかどうかにかかわらず、事実上すべての人がビットコイン(BTC)に一段と簡単にアクセスできるようになり、暗号資産市場に投資資金が殺到することになりそうだ。

そうなると、ETF発行者は、老若男女の市民投資家からの需要の急増を満たすために、数百億ドル相当のビットコイン購入に奔走せざるを得なくなる。

現在、最大のビットコイン投資手段であるグレイスケール・ビットコイン・トラスト(GBTC)と呼ばれる(比較的購入しにくい)金融商品の資産額は260億ドル(約3兆7700億円、1ドル145円換算)、ビットコインに対する投資意欲をある程度感じさせてくれる規模だ。

業界は準備ができているだろうか? 市場関係者によると、ビットコイン市場は、ブラックロック(BlackRock)、グレイスケール(Grayscale)、フィデリティ(Fidelity)、ギャラクシー/インベスコ(Galaxy/Invesco)をはじめとするETF発行企業からの大量のビットコイン購入を容易に受け入れるのに十分な流動性を持っているとのことだ。

指定参加者(AP)とマーケットメーカー

大量の資本を効率的に取引するためには、2つの重要なプレーヤーが介入する必要がある。指定参加者(AP)と呼ばれる取引会社とマーケットメーカーだ。

APはETFのシェアを作成・換金し、投資家の資金をファンドから出し入れする。平凡に聞こえるかもしれないが、ETFの価格がファンドの原資産の価値と密接に連動し続けるためには不可欠な役割だ。

GBTCでは、購入した商品は償還できない。そのため、GBTCが供給過剰になり、価格に下落圧力がかかる可能性がある。実際、GBTCはここ数年、いわゆる純資産価値(NAV)を大きく下回っていた。これはグレイスケールがGBTCをETFに転換したいと考えている理由の1つでもある。

APの仕事は「プライマリー市場(発行市場)」におけるものだが、もうひとつの重要なプレーヤーであるマーケットメイカーは、ほとんどの取引が行われる取引所などの「セカンダリー市場(流通市場)」で必要とされている。

マーケットメーカーは、APの役割を足場とし、他の人たちがETFを売却したいときに購入し、購入したいときに売却する。価格が乱高下した場合には、マーケットメーカーは取引によって価格をもとに戻し、利益を得ることができる。場合によってはマーケットメーカーがAPの役割を果たすこともある。

ウォール街の大手企業数社が、ビットコインETFのAPを務めることに同意している。JPモルガン・チェース(JPMorgan Chase)、ジェーン・ストリート(Jane Street)、キャンターフィッツジェラルドだ。その他の企業も同意する可能性がある。

これまでにビットコインETF発行希望企業が公表しているAP

流動性は十分

取引会社DRWは、世界最大級の流動性プロバイダーだ。同社の暗号資産部門カンバーランドDRW(Cumberland DRW)は、ビットコインETFに向けた準備を進めており、発行企業のオンボーディングやビットコインの調達を行い、新しい投資商品が市場に登場し、APからの注文が入った際に準備万端でいられるようにしていると同社は語った。

何十億ドルものビットコインの注文は、市場が処理するには多すぎるように思えるかもしれないが、トレーダーは、市場はこの規模の取引高を吸収することについて、十分効率的だと確信している。

「需要があれば供給もある」とカンバーランドDRWのリレーションシップ・マネジメント責任者ロブ・ストレベル氏(Rob Strebel)氏はインタビューで語り、次のように続けた。

「流動性の確保に自信がなければ、発行企業や規制当局がこの商品の発売を許可するとは思えない。流動性を確保することはすべての人の利益に叶っており、我々は必要な流動性を提供できると確信している」

ETFが投資家にとって魅力的な商品なのは、比較的簡単にアクセスできるからだ。アメリカでは基本的に、顧客は従来の証券口座を使って、国内で上場されている数千の株式やETFをどれでも買うことができる。ビットコインETFは、アップル株と同じように簡単に購入できるようになる。

もうひとつ、セールスポイントがある。ETFは、保有資産の価値に連動する傾向がある。例えば金ETFは一般的に保有する金価格と連動して動く。その仕組みは、ETF価格を原資産に連動させるためにAPがETFを動的に発行あるいは償還するからだ。

賑わうビットコイン市場

CoinDeskが分析したCoinMarketCap.comのデータによると、過去45日間、主要取引所における1日あたりのビットコイン取引高は平均約220億ドルだが、日によっては約400億ドルまで急増している。ビットコインETFの発行企業の需要を満たすにはそれで十分だと観測筋は考えている。

金融サービス会社CECキャピタル(CEC Capital)のディレクターで、21シェアーズ(21Shares)の元マネージングディレクターであるローラン・クシス(Laurent Kssis)氏はインタビューで「市場はETF市場の新たな需要を吸収できる」と述べた。

新たな資金の波は市場全体の健全性にはプラスに働く可能性があるが、ビットコイン価格そのものに影響を与えるかどうかは不明で、それはETFへの需要とそのスピード次第だろうと同氏は付け加え、次のように続けた。

「すべてのETFが人気を集めるわけではないだろう。投資需要はブラックロックのETFに偏ると考えている」

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Bitcoin ETFs Could Spark Huge BTC Trading. The Market Appears Up to the Task