トークン化資産は決済手段になるか

トークン化(トークナイゼーション:tokenization)がメインストリームとなり、さまざまな資産がブロックチェーン上でデジタル的に表現されるようになった世界では、トークン化資産は日常的な決済において法定通貨をリプレースするだろう。

これは、イギリスのデジタルアイデンティティ(DID)と通貨の専門家デビッド・バーチ(David Birch)氏が最近フォーブス(Forbes)で展開した興味深い主張だ。

トークン化資産を決済に

例えば、投資信託を売却してドルを手に入れ、それを車の購入に充てる代わりに、ブロックチェーン上で投資信託の一部をディーラーに譲渡すれば良い。あなたは車を手に入れ、ディーラーはトークン化された投資信託を手に入れ、それを保有し続けたり、在庫補充のために自動車メーカーに譲渡できる。

トークン化資産が増えれば増えるほど、銀行預金や中央銀行デジタル通貨(CBDC)、ステーブルコインなどに換金することなく、決済に直接使用することが簡単になり、取引コストは下がる。

どのような資産でもトークン化し、ブロックチェーン上で分割し、シームレスに移転できれば、トークンが証券やBored ApeのNFTから住宅や航空券に至るまで、何を表すものであっても、いつでも決済に使うことができる。

もちろんこれは、ネットワーク上の誰かは、あなたが保有するトークン化資産を喜んで受け取るという前提で成り立っており、そうなればあらゆる交換が可能となる。

また、スーパーコンピューターとAIは、各トークン化資産の価値を瞬時に判断し、取引相手をマッチングすることで、取引のスピードアップに貢献するだろう。そのようなシステムでは、デジタルマネーは手間を増やすだけで使い物にならなくなる可能性がある。

だが、本当にそうだろうか? 魅力的なアイデアだが、実現には少なくとも2つの大きなハードルがある。

膨大な取引量

第1に、取引が最も効率的なブロックチェーンでも処理が追いつかなくなる可能性がある。アメリカだけでも毎日、ドルを手段として5億5000万件近くの取引が処理されている。

法定通貨という共通手段ではなく、グローバルに取引できるトークン化資産で決済を行うなら、この数字は何倍にも膨れ上がるだろう。

現在、車は1回のドル決済で購入でき、ドルは買い手の銀行口座から売り手の銀行口座に移される。一方、トークン化資産をベースにしたシステムでは、トークン化された証券をビットコインや倉庫の分割所有権をトークン化したものと組み合わせて、車を購入できる。

この場合、1回の購入を完了させるために、トークン化資産の種類ごとに1回ずつ、少なくとも3回の決済取引が必要になる。だが、トークン化資産が異なるブロックチェーン上に存在したり、売り手のアドレスやウォレットが別のブロックチェーン上にあった場合、事態はさらに複雑になる。

ブロックチェーン間の相互運用は可能だが、通常は追加コストとリスクを伴う。トークンをあるブロックチェーンから別のブロックチェーンに移動させるために、ブリッジや何らかのプロトコルを使用しなければならない場合、トークンは盗まれたり、紛失したりするリスクが高くなる。

違法行為を防ぐ門番としての金融機関

トークン化資産が通貨をリプレースするための2つ目のハードルは、法的なものだ。法定通貨はその伝統的な機能に加えて、今日ではコンプライアンスのチェックポイントとしての役割も果たしている。

ほとんどの国・地域において、マネーロンダリングやテロ資金供与の防止は、人々や企業の資金移動を支援する金融機関に委ねられている。

つまり、金融機関はこの取り組みにおいて重要な役割を果たしている。金融機関は顧客を把握し、取引の受け手を特定し、疑わしい取引や不正取引を防止するためのツールを開発し、不審な点があれば速やかに当局に通報しなければならない。

そして、これらの行動はすべて、資金が移動する際に実行される。これは法的・規制的には、資金の流れを促進する機関に依存する戦略といえる。

そうすると、もし日常決済において、法定通貨がトークン化資産にリプレースされることになれば、この戦略は中心的な運用拠点と門番を失うことになる。

特定の機関を経由する共通の資産がなければ、規制当局は必要な情報を収集し、関連するルールを施行することに苦戦するだろう。

ブロックチェーン決済での責任者は?

ブロックチェーン上で決済を行うために、誰もが異なるトークン化資産を使用し、さらには混在させることができる場合、疑わしい取引にフラグを立てたり、ブロックしたりする責任は誰が負うのだろうか? 関与するすべての売り手だろうか?

ブロックチェーンのフォレンジック(違法行為の分析)と自動化された監督ツールは、規制当局がリアルタイムで取引を追跡することに役立つだろう。しかし、法域を越えて毎日何十億、何兆もの決済が行われるなかで、疑わしい取引を一時停止したりブロックすることは、特に特定された当事者によって管理・統制されていない、分散化されたブロックチェーン上の取引では実現不可能に思える。

暗号資産ファンならすでに理解していると思うが、法定通貨に取って代わるのは簡単なことではない。

実用的な理由であれ、法的な理由であれ、現在では多くの代替手段が存在するにもかかわらず、法定通貨は依然として日常決済の頂点に君臨している。トークン化資産が広まったとしても、この現実がすぐに変わることはないだろう。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:How Tokenized Assets Can Replace Money