MMFのトークン化に注力する英資産運用会社と取引所──TradFiのトークン化競争が進展

マネー・マーケット・ファンド(MMF)の所有権を表し、利回りを生むステーブルコインのように機能し、取引の担保にもなるトークンを想像してみてほしい。

イギリスの投資会社アバディーン(abrdn)と取引所Archaxは、伝統的な資産をトークン化する競争に参加している。

英金融行動監視機構(FCA)の規制を受けた最初の暗号資産企業のひとつであるArchaxと、6260億ドル(約94兆円、1ドル150円換算)の運用資産残高を持つアバディーンは10月、機関投資家グレードのMMFトークンの運用を開始した。両社は現在、このトークンを活用し、新しく柔軟な資本配分方法を求める顧客を集めている。

大手金融会社は、ブロックチェーン上で資産を表現することに多くの運用効率やコスト削減効果を見込めることに気づいているが、概念的なテスト段階を大きく超えている企業はほとんどない。

Archaxの最高マーケティング責任者サイモン・バーンビー(Simon Barnby)氏はインタビューで、顧客は自らオンボードし、ウォレットをホワイトリストに登録しなければならず、トークンはプロの投資家しか利用できないと語った。

MMFをトークン化

しかし、ブロックチェーンとしてヘデラ・ハッシュグラフ(Hedera Hashgraph)を使ったアバディーンファンドのトークン化MMFは5000ドルから購入可能であり、顧客が新しい投資家層に広がる可能性がある。

「およそ4億ドル規模の潜在的顧客資産があり、彼らの興味は徹底的にかき立てられている。多くの決済企業や、USDCUSDTのような利回りを生まないステーブルコインを保有している人たちと話をしている。金利が低かった頃には、企業の財務部門は資金がどこにあるのか、リターンを生むのかについてそれほど気にしていなかった。しかし今、彼らは資産を有効に活用したいと考えている」とバーンビー氏は語った。

高金利環境の到来は、イノベーションのパターンを変えつつある。国債のような扱いやすい資産に焦点を当てたトークン化計画が加速しているだけでなく、DeFi(分散型金融)からも反応を得ており、利回りを生むステーブルコインの新しいモデルがトレンドとなっている。

Archaxは来年初め、アバディーンMMFトークンとビットコイン(BTC)の取引ペアを導入する。つまり、ユーザーは米ドルやUSDCに対してビットコインを取引するのではなく、米ドルMMFトークンに対してビットコインを取引することができるようになる。

担保としての利用へ

両社はまだ公にしてはいないが、次のステップは明らかにMMFトークンを担保として利用することだ。

「これはDeFiの世界で起こり得ることで、資産を担保に借りたり、資産を貸し出したりする」とバーンビー氏は言う。

「MMFの所有権を表すトークンは、規制されたDeFiのような分野で担保として使われる可能性がある。我々はそのような分野を2024年に向けて注視していく」

やや縮小傾向にあるDeFiの世界は興味深いが、伝統的な市場の規模に比べればわずかな規模に過ぎない。

アバディーンにはトークン化できる金融商品が数多くあると同社オルタナティブ投資リーダーのダンカン・モア(Duncan Moir)氏は指摘。暗号資産ネイティブの投資家向けであることを想定し、すでに需要がある「わかりやすいもの」から始めたかったと述べた。

「5%の利回りを生むようなステーブルコインの代替品は、簡単に思いつく商品だった」とモア氏。より多くの金融機関と議論した結果、担保のために使うことがより大きなユースケースになる可能性があることが明らかになったと付け加えた。

「スワップディーラーはMMFを受け入れているので、例えばスワップ取引で証拠金を差し入れるために使うことができる。将来的には、トークン化された証券の決済に使えるかどうかに興味がある。トークン化されたファンドが他にも存在する未来は確かに想像でき、これを現金資産として取引することはきわめて理にかなっている」

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Asset Manager Abrdn, Crypto Exchange Archax Strive for Pole Position in Race to Tokenize TradFi