「非常にエキサイティングな展開」チェイナリシス共同創業者が語る日本のWeb3

各国政府や金融機関などに向けたブロックチェーン分析サービスを手がけるチェイナリシス(Chainalysis)。来日した共同創業者のジョナサン・レヴィン氏に日本のWeb3業界の現状と展望、暗号資産に関する規制、そして犯罪対策におけるブロックチェーン分析の役割などを聞いた。

日本は「規制構築のリーダー」

レヴィン氏は近年、日本政府が経済発展戦略の一環としてWeb3を優先していることから、業界は大きな発展を遂げている最中だと見ている。政策支援を受けて、大手通信会社などの日本企業がWeb3製品やサービスの提供を開始するなど、イノベーションが促進されている点にも注目しているという。

「大規模なコングロマリットが暗号資産業界により多くの注意を払っているのを見るのは、非常にエキサイティングな展開だ」とレヴィン氏は話す。

海外視点だと、日本のWeb3業界はどう見ているのだろうか。

レヴィン氏は、金融庁が暗号資産の範囲の明確化、どの側面を規制すべきなのか、ステーブルコインについての規制整備などに積極的に取り組んでいる点を高く評価し、「日本は暗号資産規制の構築において、世界のリーダー的存在となっている」と述べた。

「まだまだ多くの企業が参入し、さまざまなライセンスを取得することになるだろう。このハッキリとした規制の存在をうまく活用した企業が増えれば増えるほど、業界は成長していくだろう。もちろん市場の成長に伴い、金融庁にも高い監視能力が求められるようになる」とレヴィン氏は語る。

中でも最大の注目ポイントは、ゲームやその他のデジタルコンテンツの知的財産(IP)だという。

この分野がまだ開発の初期段階であると前置きをしつつも、レヴィン氏は「日本には大成功したIPやゲームが多数ある。世界の他の国々は、日本がそれをWeb3やブロックチェーンに移行するイノベーターになることを期待している。業界の関心は強く、熱い視線が注がれている」と期待を込めた。

どんなIPに可能性を見ているのだろうか?

レヴィン氏は「ゲームやアート、その他さまざまなキャラクターに至るまで、デジタルIPはすべて非常に興味深い。すべてに可能性があると思う。日本の大手スタジオの動向にはとても注目している」と述べる。IPビジネスの展開においては、報酬型のプログラムやインセンティブ、ロイヤルティ、ゲーミフィケーションなどを活用するチャンスがあり、それらの仕組みが「暗号資産の活用に非常に適している」のだ。

ゲーム業界やユーザーの一部には、Web3がゲーム体験に悪影響を与える可能性について懸念する声もある。これについてレヴィン氏は「いまはまだ初期の実験段階」としたうえで、今後の方向性を探る実験では「暗号資産の活用ではなく、あくまでもユーザー体験を優先する必要がある」と指摘。ただし、すでに暗号資産を組み込んで成功したゲームも出てきていることから、「Web3での成功事例が積み重なっていけば、だんだんと抵抗は薄れていくだろう」と前向きな見方を示した。

暗号資産が「次第に浸透してきた」日本

日本国内ユーザーの暗号資産の浸透度について、レヴィン氏は「年々普及が進んでいる」とみる。暗号資産の普及度合いを国際比較したチェイナリシスのThe Global Crypto Adoption Indexでも、日本は2022年には世界で26位だったが、2023年には18位まで上昇している。

レヴィン氏が注目しているのがウォレットの普及だ。Web3に取り組む大手がセルフカストディウォレット(資産を自身管理下に置くタイプの暗号資産ウォレット)の提供を進めていることも、暗号資産やさまざまなサービスに対する日本国内ユーザーのアクセス増加につながるだろうとレヴィン氏は考えている。

「日本にはウォレットを持ち、暗号資産にアクセスできるユーザーが数百万人いる。ここから何が起きるのか非常に楽しみだ。新たな暗号資産関連マーケットプレースや、ステーブルコインを通じた決済サービスの開発が進む可能性がある」(レヴィン氏)

いちはやく法制化された「ステーブルコイン」をどう見る?

ステーブルコインをめぐる動向については、どう見ているだろうか?

ステーブルコインは最も広く取引されているデジタル資産のひとつであり、国境を越えた支払いにも利用されていることから、チェイナリシスの顧客である取引所、カストディ、法執行機関、規制当局らは皆、ステーブルコインのネットワーク上で何が起きているかを把握したがっていると説明した。

USDCやUSDT、BUSD、日本でもJPYCなど、数多くのステーブルコインが登場している。ステーブルコインをめぐる法規制をいち早く実現した日本では、「用途に合わせた異なるステーブルコインが登場してくるだろう」とレヴィン氏は期待する。

RWAトークン(現実世界の資産をデジタル化し、ブロックチェーン上で取引可能にしたもの)については、「コンサートチケットなどブロックチェーン上での管理に適したものもあるが、RWAをブロックチェーンに乗せる試みは全体として苦戦している。今後拡大はするだろうが、最終的に成功するのはデジタル要素が強い中身のものになるだろう」と予測した。

アジア太平洋地域と日本の暗号資産規制

アジア太平洋地域と日本の暗号資産規制について、レヴィン氏は金融活動作業部会(FATF)のガイダンスに基づくマネーロンダリング対策(AML)のルールについて、前向きな調和が実現していると指摘した。多くの国がAMLの枠組みを強化し、「規制当局が実際に、暗号資産関連のケースを監視・調査し、悪質な行為者を排除する能力を高めている」と評価する。

「この地域の政府は概して、暗号資産を重要な経済成長の原動力と捉えている」が、そのため「規制当局は合法的なビジネスを支援するために、いちはやく実現可能な枠組みを開発しなければならないというプレッシャーを受けてもいる」と指摘した。

「犯罪」とどう戦うか?

気になるのは、暗号資産の価値が上がるとともに、犯罪者たちの手口も巧妙化していることだ。このような状況に、犯罪対策はついていけているのだろうか?

レヴィン氏は「ブロックチェーン分析の主な目的は、人々が暗号資産をどのように、なんのために使っているのかを理解することだ。手口の巧妙化に追いつくためのブロックチェーン分析を我々は適切に行っている」と自信をのぞかせる。

「確かに投資詐欺やロマンス詐欺、ランサムウェアなど、暗号資産絡みの犯罪が数多く発生しているが、そうした犯罪の手口そのものは以前からあったものだ。逆に暗号資産の登場によって支払手段の追跡という、犯罪捜査の新しい手法が登場したとも言える」

チェイナリシスは現在、世界70カ国以上の顧客にサービスを提供しているという。レヴィン氏はユースケースは地域間で概ね一貫しているが、各市場に固有の暗号資産製品、サービス、脅威に関する現地情報を収集するために、現地チームも配置して取り組んでいると述べた。

チェイナリシスのブロックチェーン分析を通じて、各国の法執行機関は、犯罪者がどのようにお金を手にし、資金洗浄したかを法廷で示すことができると述べた。また、同社のチェーン分析を官民両方が活用することによって、共通言語ができ、意思疎通がスムーズになっているとレヴィン氏は強調した。

「犯罪対策」として何が急務なのか?

犯罪者の引き渡しに非協力的な国家もあるが、犯罪資産の差し押さえや資産凍結ができた事例は数多く報告されている。レヴィン氏は犯罪集団の本体には手が届かなくとも、それに協力する関連組織には手が届く可能性があると強調する。昨年には、FBIがチェイナリシスの協力を得て、ランサムウェアの作成者から報酬を受け取っていたカナダの関連会社を摘発することに成功したという。

今後、暗号資産業界の秩序を維持していくためには、法執行機関が個々の犯罪行為に対処するだけでなく、「よりプロアクティブでデータ主導のアプローチを取るべきだ」とレヴィン氏は提唱する。データ分析によって「より多くの犯罪行為を助長する、特定のネットワークを戦略的に阻害するためにリソースを割り当てることで、ブロックチェーンの安全性を大幅に向上させることができる」からだ。

また、業界の安全性を確保するためには、民間の取り組みも不可欠だ。レヴィン氏は「堅牢なサイバーセキュリティに投資して、顧客の資金をリアルタイムでより適切に保護し、犯罪者の攻撃対象をさらに縮小する必要がある」と指摘した。

|インタビュー・文:渡辺一樹
|編集:CoinDesk JAPAN編集部
|写真:多田圭佑