ビットコインは何に対するヘッジなのか?【Future of Bitcoin】

また始まったようだ。ビットコイン(BTC)が本当にリスクヘッジになるのかどうか、人々が再び議論している。

イランによるイスラエルへのミサイル攻撃を受け、ビットコインが約7万ドルから6万2000ドル以下へと10%近く急落した4月13日から、このような議論は始まった。

これを受けて、週明けにはいくつかのコラムが発表され、フォーチュン誌のジェフ・ジョン・ロバーツ(Jeff John Roberts)記者は金の17%上昇と関連づけ、Blockworkのケーシー・ワグナー(Casey Wagner)記者は中東の危機時にガソリン価格がどのように動く傾向にあるかを考察するなど、洞察力に富んだものも見られた。

たしかに攻撃後、原油と金は売り手より買い手が多く、ビットコインは買い手より売り手が多かった。そのため、前者は上昇、後者は下落した。

しかし、ビットコインのようなボラティリティの高い資産の日中の値動きは、ほとんど意味を持たないというのが私の考えだ。悪いニュースとしては、金は(リーマンショック後のように)上昇を続けているが、ビットコインは14日に少し上昇した後、今週はどんどん下落し、6万ドル台前半まで下がっている。

第三次世界大戦の脅威がビットコインに水を差しているのかもしれないが、連邦準備制度理事会(FRB)から発せられる、経済が好調であるため金利を予想よりも長く高めに維持する可能性があるという示唆に市場が反応しているのだろう。

とはいえ、ここ数年、明らかにテック株のような動きを強めているビットコインが、本当にヘッジになるのかという疑問を投げかけることは間違っているように思える。

ビットコインは、パンデミック以前はS&P500とほとんど相関がなかった。そのため、景気サイクルに逆行する資産となることは明らかだった。

ボラティリティの低下

問題は、当時と現在で何が変わったのかだ。また、ビットコインは一体何をヘッジするためのものなのか?株式? インフレ? 米国債? 政治的混乱? ビットコインはあらゆる場面で経済的なセーフヘイブンとなるはずなのか?

ビットコインの流通量の増加、保有者とクジラ(大口保有者)の数など、さまざまな要因があるだろう。しかし、ある意味で答えははっきりしている。ビットコインの機関投資家への普及が進んでいる。1月にビットコイン現物ETFがローンチされた頃、投資専門誌のバロンズ(Barron’s)が次のように報じた通りだ。

「ビットコインのボラティリティは、10年以上前の誕生以来、着実に低下している。Bauerによれば、現物価格に連動するビットコイン先物が導入されて以来、ボラティリティ(1日の価格変動の100日平均を%で表したもの)は4.5%を超えていない。2021年にビットコイン先物ファンドのプロシェアーズ・ビットコイン・ストラテジーETFが発売されて以来、この指標は3.5%を超えていない。過去1年間、ボラティリティは2.6%未満にとどまっている」

ボラティリティがすべてではない(そして、ビットコインは伝統的な株式よりもかなりボラティリティが高いままだ)が、ボラティリティはビットコインの特徴だ。少なくとも、そのように考えられてきた。

人々はビットコインが永遠に変動し続けると考えたのだろうか? コロンビア大学ビジネススクールのオースティン・キャンベル(Austin Campbell)准教授は先日、「新しいものからメインストリームへと成長する市場は、流動性と規模が大きくなるにつれて、小さな特異な出来事を原因としたボラティリティが減少する」と語った。

今年最も急成長した金融商品となったビットコイン現物ETFのリリースは、この傾向を加速させる可能性がある。参入障壁が下がり、ビットコインが一段とメインストリームになるにつれ、ビットコインの株式との相関性が強まる可能性がある。

現在、ビットコインを購入している同じ人々やファンドマネージャーが、S&Pを購入しており、投資家センチメントは収束しつつある。

実際、「ハイパービットコイナイゼーション」の理論は、ビットコインの普及が進むにつれて価格変動がなくなり、実際に現実的な交換の手段になるという考えに基づいている。

問題なのは、この考えが、広範に広がった循環するビットコイン経済が成長するにつれて、法定通貨システムが凋落するという考えを前提としていたことだ。別の言い方をすれば、ビットコインはボラティリティが低くなり、相関性がなくなるはずだった。それがビットコインのヘッジだった。

デジタル・ゴールド神話

これは、ビットコインが「デジタル・ゴールド」であるという、ビットコインの根源的な神話のひとつに由来しているのかもしれない。しかし、この比喩には欠陥がある。金との関連付けは、ビットコインが価値を持つ可能性を示すという意味では良いが、ビットコインがどのように振る舞うかまだ誰も知らない時期に、間違った期待を抱かせるという意味では良くない。

デジタル・ゴールドという表現が一般的になったことが、今日のビットコインに関する考え方が次のように混乱している理由だろう。

ビットコインはヘッジであり、価値の保存手段であり、決済手段であり、ベータ取引であり、法定通貨に相対する賭けであり、そしてますます開発プラットフォームにもなっている。誰もがビットコインが一挙にあらゆるものになることを望んでいるが、実際には過去10年半の間、ビットコインは基本的に1つのことだけをうまくやってきた。過剰流動性の吸収だ。

窮地に立たされたらビットコインがどのようなパフォーマンスを見せるのか、我々にはほとんどわかっていない。S&Pのアナリストはマクロ経済が暗号資産に与える影響についての2023年のレポートで、「2008年9月以来、世界中の中央銀行による前例のないレベルの金融緩和は、マネーサプライを記録的なレベルまで増加させた」と述べ、ビットコインが成長したのは通貨供給量が増加したからだと示唆している。

そうなると今のところビットコインは、他の資産に倣って変動し、経済全体が成長すればビットコインも成長し、経済全体が下落すればビットコインも下落するのかもしれない。しかし、ビットコイナーが実際に待ち望んでいるヘッジは、もっと際立ったものだ。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:engin akyurt/Unsplash
|原文:What Is Bitcoin Meant to Hedge?