「ウォレット・アウェアネス」がなければ、我々はWeb2を開発しているに過ぎない

Web3には欠けているものがある。我々が作ってきたサイトやアプリには、Web3が独自に提供できるはずのパーソナライゼーションやリッチさに欠けている。Web3は、分散化、主権、プライバシーの強化といった基本的なイノベーションを達成したが、この分散化エコシステムを使ってみると、まだWeb2とほとんど同じに感じられる。

ウォレット・アウェアネス(Wallet awareness:ウォレット認識)は、デジタルアドベンチャーを強化するだけでなく、Web2と一線を画すものにするための鍵。ウォレット内のリッチな匿名情報を活用して、ユニークなインタラクションを作り上げること。

だが残念なことに、ウォレット・アウェアネスはWeb3にはまだ著しく欠けており、真に没入的でパーソナライズされたデジタルジャーニーの可能性にギャップを生んでいる。

現在、ウォレットはWeb3を差別化するものだが、従来のログインのように機能している。ユーザーはウォレットに接続し、トランザクションにサインして、コンテンツにアクセスするが、サイトはウォレットが持つリッチな情報には反応しない。このため、ウォレットはデジタル体験を向上させることなく、単なるアクセスポイントに限定されてしまう。

この「ウォレット・アウェアネス」の欠如は明白だ。真のWeb3コンテンツはウォレットデータに反応し、ダイナミックでパーソナライズされたインタラクションを生み出すべきだ。

Web2では、すでに一部のサイトがユーザーデータに基づいてカスタマイズされた体験を提供している。Web3はそれをさらに押し進めて、ウォレット情報を利用して、キュレートされたコンテンツ、ターゲットを絞ったおすすめ情報、パーソナライズされたグロースマーケティング、そして実用的なインサイトをデフォルトで提供すべきだ。

ウォレットには、我々の興味や欲望を反映した膨大な匿名データが保存されている。ウォレット・アウェアネスはこれを活用し、高度にパーソナライズされたデジタルジャーニーを提供する。Web3をWeb2から真に差別化するイノベーションだ。そして、オンチェーン・グロースマーケティングは、最も近い将来に普及する分野のひとつとなるだろう。

ウォレット・アウェアネスは未発達

その可能性にもかかわらず、ウォレット・アウェアネスに基づいたWeb3インタラクションは依然として少ない。

ウォレット・アウェアネスが最も一般的なのはDeFiの分野で、アプリとやり取りするために頻繁にウォレットに接続する。しかし、パーソナライズされたレコメンドは滅多にない。DeFiアプリは取引要素が強く、ウォレットはリッチでパーソナライズされたジャーニーへのゲートウェイではなく、単なるアクセスポイントに留まっている。

さらに大きな問題は、ウォレット・アウェアネスが(ベーシックな形であっても)最も普及すべき場所に存在していないことだ。DeFiアプリ以外では、暗号資産(仮想通貨)は大規模なウォレット・アウェアネスを欠いているようだ。

ユーザーは、プロジェクトの発見から投資、資産のステーキングまで、意思決定のプロセス全体でウォレット・アウェアネスに一度も遭遇することはない。ウォレット・アウェアネス体験はコミュニティポータルに埋もれており、そこでもまた、役割を割り当てたり、チャネルに配置するためにウォレットを活用して短時間で取引を行うだけだ。

本来輝くべきところに、ウォレット・アウェアネスは著しく欠けている。いくつかの暗号資産リサーチサイトを訪れ、それぞれのサイトでウォレットを接続したときに、あなたの保有資産に関連する情報が掲載された「For You」ページが表示されることを想像してみてほしい。これが普通であるべきだ。

完全なウォレット・アウェアネスを達成するには、Web3開発の新しいアプローチが必要だ。Warpcastのようなアプリや、Spindl、Serotonin、Addressableのようなグロースマーケティングツールは、何が可能かを示し始めているが、まだやるべきことは多い。

ウォレット・アウェアネスは野心的だが、真にユニークなインターネットを作りたいのであれば、Web3開発者として我々がコミットしなければならないものだ。

Web2の限界や侵略的な手法を超えて、分散型テクノロジーの可能性を解き放つために、我々はウォレット・アウェアネスを優先しなければならない。そうすることで、過去とは一線を画す、よりパーソナライズされ、ダイナミックで魅力的なWeb3を創造し、より明るいデジタルの未来への道を切り拓くことができる。

前進の道

Web3の成功は、単に分散化やプライバシーの強化だけに依存しているのではないと考えている。Web2と真に差別化するには、ウォレット・アウェアネスを取り入れなければならない。つまり、デジタル体験が一人ひとりに合わせてカスタマイズされたインターネットを開発することを意味し、ウォレット内のリッチなデータを活用することで、Web3独自のものを作り出すことができる。

あらゆるやり取りがパーソナライズされたように感じられ、ウォレット内の匿名データに基づいてコンテンツがあなたのためだけにキュレーションされるウェブを想像してほしい。

遠い夢ではなく、今すぐ実現可能な目標だ。ウォレット・アウェアネスを備えたWeb3は、デジタル世界との関わり方を変え、より有意義で、各ユーザーのニーズや好みに合わせたものにすることができる。

ウォレット・アウェアネスがもたらす効果は、オンサイト体験だけでなく、ユーザー獲得方法にも及ぶ。オンチェーンマーケティングは、ウォレット・アウェアネスを利用して、ウォレットのアクティビティに基づいてパーソナライズされた広告を配信できる。

このアプローチは、匿名データを使用することでユーザーのプライバシーを尊重し、ユーザーの個人的な経歴を詮索しない。ウォレットデータを利用することで、オンチェーンマーケティングは尊敬と実用性の上に築かれた広告主とユーザーの関係を構築し、ユーザーの関心や保有資産に合わせた関連性の高い、有益な広告を提供できる。これにより、Web2.0の押し付けがましい手法とは一線を画した、より魅力的で有意義なマーケティング体験が実現する。

Web3の開発者であり、イノベーターである我々には、限界を押し広げ、漸進的な改善以上のものを目指す責任がある。我々は、単に分散化されただけでなく、深くパーソナライズされ、ユーザーに反応するウェブを創造しなければならない。

そうした潜在能力が完全に発揮されたWeb3への道のりは現在進行中で、ウォレット・アウェアネスはその旅路における重要なステップだ。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Coinbase
|原文:Without Wallet Awareness, We’re Just Building Another Web2