RWA・IP・DAOが描くWeb3の未来──半年間の実証成果と社会実装の現在地【経産省×N.Avenue特別イベントレポート】

経済産業省が2024年8月から半年間にわたって実施した「Web3.0・ブロックチェーンを活用したデジタル公共財等構築実証事業」では、Web3の社会実装・社会受容を目的に、RWA(現物資産のトークン化)、コンテンツIP、地方創生DAOなどに取り組む6つのプロジェクトが採択された。期間中には有識者を交えたワークショップや議論が行われ、ユースケースを想定した成果がまとめられた。
N.Avenue/CoinDesk Japanは、本事業の広報とワークショップ運営を担当し、8月20日のキックオフから2025年2月26日の成果報告会までを取材・発信してきた。
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成果報告から約4カ月を経た6月19日には、採択された6事業者と有識者が再び集い、経済産業省とN.Avenueの共催による特別振り返りイベントが開催された。「RWA」「コンテンツ」「コミュニティ」の3つをテーマに、Web3が公共性と経済性をいかに両立できるのか議論された。
開会のあいさつに立った同省イノベーション・環境局イノベーション政策課フロンティア推進室長の吉田修一郎氏は、当初は閉鎖的かと想像していたWeb3コミュニティが、実際には開かれた親しみやすい場であったと回想。「いずれはWeb3という言葉が不要になるほど、日常に浸透する時代が訪れてほしい」との期待を示した。
<事業に採択されたプロジェクトと事業者は以下のとおり>
テーマ | テーマタイトル | 事業者名 |
①-1 | 現物資産や無形資産のデジタル化市場(発行・流通市場)構築(ガイドライン) | 一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会 |
①-2 | 現物資産や無形資産のデジタル化市場(発行・流通市場)構築(実証事業) | 株式会社リーフ・パブリケーションズ |
①-2 | 現物資産や無形資産のデジタル化市場(発行・流通市場)構築(実証事業) | 株式会社NTT Digital |
③ | スポーツ業界における肖像権等の権利管理システム・ルール策定 | 楽天グループ株式会社 |
④ | コンテンツIP保護のためのガイドライン策定 | PwCコンサルティング合同会社 |
⑤ | Web3.0型地方創生・関係人口創出事業のためのガイドライン策定 | 一般社団法人Hiroshima Web3協会 |
※実証実験の詳細については、こちらから確認できる。
実証事業が描いたWeb3の未来像
その後は、RWA、コンテンツ、コミュニティをテーマに、実証事業に採択された事業者の担当者やアドバイザーらが登壇し、成果を振り返るパネルセッションが行われた。
パネルセッションの第1部「日本発“RWA”トークン最前線」には、日本暗号資産ビジネス協会アドバイザー/ユースケース・カストディ部会長の保木健次氏、リーフ・パブリケーションズ代表取締役の中川真太郎氏が登壇。モデレーターは同事業でアドバイザーを務めたEight Roads Ventures Japan ベンチャーパートナー/Kyash社外取締役/AnyMind Group社外取締役の北澤直氏が務めた。

RWAの社会実装に関して保木氏は、「第三者対抗要件をはじめとする制度整備が不可欠」と述べ、実証実験で進めたガイドラインの意義を強調。中川氏は、日本酒NFTを活用した越境販売の取り組みを紹介し、NFTは販路拡大と酒蔵支援の鍵になると語った。
続く「“コンテンツ”の価値最大化──Web3エコシステムの可能性」には、楽天グループのコマース&マーケティングカンパニーエンタテイメントコンテンツ事業部NFT事業ヴァイスゼネラルマネージャー・南部龍佑氏と、PwCコンサルティングTechnology Laboratory/Senior Managerの森寿昭氏が登壇。モデレーターは森・濱田松本法律事務所外国法共同事業パートナー弁護士で一橋大学特任教授の増田雅史氏が務めた。

本セッションでは、日本が強みを持つIP(知的財産)などのコンテンツを、Web3でいかに活用していくかが主要なテーマとなった。南部氏は、楽天チケットで進めるNFTを活用したチケットの二次流通の実例を紹介しつつ、NFTの利用者がまだ限定的であることを普及に向けた課題として挙げた。そのうえで、「夢のような話」と前置きしながらも、IPライセンスをトークン化してファンが出資や制作に関与できる仕組みを構想として示し、Web3が将来的に文化産業のインフラとなり得る可能性を語った。森氏は、ユーザーにWeb3を意識させないUIを備えたプラットフォームの重要性を指摘した。
第3部「分散型“コミュニティ”と価値共創の未来」には、Hiroshima Web3協会理事/CodeFox代表取締役の進藤史裕氏、NTT Digital BD部 Senior Managerの伊藤篤志氏が登壇。モデレーターは、CoinDesk JAPAN編集長の増田隆幸が務めた。

進藤氏は、島根県海士町と広島県三原市でのDAO(分散型自律組織)実証を振り返り、人口減少が進む地域では自治体単独で課題解決を図るのは困難であり、外部人材を巻き込む手段としてDAOの重要性を指摘。住民が主体となって課題に取り組み、貢献度に応じて報酬や意思決定権が与えられる仕組みが、Web3と地方創生をつなぐモデルになると述べた。
伊藤氏は、企業の枠を超えた共創を目指すWeb3プロジェクト「web3 Jam」の事例を紹介。発足時14社だった参画企業が現在は34社に拡大したことに触れ、マーケティング領域での可能性を語った。実証を通じて、ユーザーにWeb3を意識させないUX設計の重要性を再認識したと振り返った。
両氏は今後の展望として、地方でのDAOの広がりやWeb3の非金融領域への応用がさらに進むとの見方を示した。
イベントの最後には懇親会も行われ、参加者は実証事業の歩みを振り返りながら、Web3の社会実装に向けた未来に思いを馳せた。

|文:CoinDesk JAPAN編集部
|写真:多田圭佑