コロナ危機にリーマンショックの考え方は通用しない

コロナ危機にリーマンショックの考え方は通用しない

ジル・カールソン(Jill Carlson)氏は無料かつオープンな金融システムの権利を目指す非営利の研究組織Open Money Initiativeの共同創業者。また、スロー・ベンチャーズ(Slow Venures)でアーリーステージのスタートアップへの投資を行っている。

300万人以上が失業申請

3月26日、アメリカでは1週間で328万人が失業申請を行ったと伝えられた。この数字は、約100万人という公式の予測のみならず、世界金融危機(日本では、リーマンショックと言われる)などで過去に伝えられたあらゆる数字を大きく上回った。

また、この数字は1週間の間に仕事を失った人の数をすべて網羅しているわけではないだろう。混乱、悪い情報、お役所仕事……そして、こうした人の多くは初めて失業申請を行うという事実もあり、実際の失業者数はより多い可能性がある。

それでも、失業申請数の発表から数時間後に、アメリカの株式市場は4%上昇し、業界の多くの人が3日間の「連勝」と呼ぶものをさらに引き延ばした。

しかし、明確にしておこう。この危機の真っ只中に勝者などいない。

トランプ大統領は、早期の経済活動の再開に対する希望をいち早く表明した。ウォールストリートは「V字回復」、つまり底値からの素早い回復を叫び続けている。

ヘッジファンドマネージャー、政治家、評論家が毎日、テレビやツイッターに登場し、何が可能かを伝えて我々を安心させようとしている。

金融市場が頼りにできるものはなく、こうした心理にしがみついている。深呼吸。すべて大丈夫。いつか終わる。祈りを込めて。

エコノミスト、アナリスト、そして大手銀行のCEOたちは、恐れるものは何もない、今回は2008年とは違うのだからと我々に語りかける。今回はシステム破綻のリスクはないと。

こうした主張について、3点、提起したい。

1. システム破綻のリスクを退けるのは時期尚早

システム破綻はほぼ本質的に、事前に、あるいは発生中であっても見極めることは難しい。次々と連鎖する影響を正確に予測することはほぼ不可能だ。

いかなる危機においても、俯瞰的な視点という特権を持つ人はほとんどいない。我々は戦線を率いる将軍ではなく、戦いの混乱の中にいる歩兵のようなもの。そのため、システム破綻がどのように進展し、システムの他の部分、そして他のシステムにどのような影響を与えるかを見通すことは恐ろしく難しい。

すべてを見渡せる立場の人にとってさえ、難しいことが多い。塹壕にいる将軍のように、地上の現実から切り離されてしまうことは簡単だ。

銀行は今回、十分な資本を持っている。そのため、金融システムの観点からは、特定のシステムリスクはもはや無関係のようだ。

しかし、現在プレッシャーを受けている問題は他にも数多くある。特に、世界中の中央銀行はここ10年、簡単な通貨政策ばかりを推進してきたため、成長を刺激するための伝統的な選択肢はほとんど残されていない。

2. 土台そのものが崩壊している場合、構造を破壊するために相次ぐシステム破綻は不必要

新しい種類の危機に直面した時、政治リーダーたちが心地よい、旧式の枠組みに依存することはよく知られた現象だ。

アメリカとヨーロッパのリーダーたちは1950年代と1960年代、第2次世界大戦の枠組みを、そうした思考がもはや当てはまらない地政学的状況に当てはめることで、その傾向を示した。冷戦時の論法に頼って、9.11(同時多発テロ)に対応したアメリカのリーダーたちにも、同じことが言える。

同じことが現在、2008年に言及する政治、経済のリーダーたちに起きていると私は考えている。「システムリスクは存在しないため、景気低迷は抑制できる」と2008年式の論法は主張する。

しかし、1週間で300万人以上が失業している時に、紛れもない景気低迷を知るためにシステムリスクは必要ない。金融危機ではないかもしれないが、間違いなく経済危機だ。

3. 金融システム内でシステム破綻が起きていないからといって、システム破綻が起きていないわけではない

医療システムを見てみよう。

2008年、銀行は資本不足だった。それが発生したシステム破綻の根本原因だった。今回、病院がオーバーキャパシティに陥っている。

おびただしい数の新型コロナウイルスの重症患者が、世界中の病院のリソースを圧倒している。人工呼吸器、防護服、そして医療従事者自体が突然、きわめて不足する事態になっている。

これは新型コロナウイルスの患者のみならず、あらゆる理由で治療を必要とするすべての人に影響を与える。妊婦、銃撃の被害者、骨折した子供たち、普通のインフルエンザが悪化した高齢者、全員が影響を受ける。これがシステム破綻だ。

投資における最も危険な言葉は「今回は違う」、という古い格言を私は概ね支持している。しかし今回は、本当に前回の危機とは違う。

事実、あまりに違っていて、2008年のように見えないという考え方に逃げ込むことはできない。その現実は、慰めや癒しとしてではなく、我々への警告として使われるべきものだ。

2008年のように思えるとすれば、少なくとも既知のものに対処していることになる。そうではなく、我々は未知のもの、そしてそれに付随するあらゆる未知の未知のものに直面している。

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:CBP/Wikimedia Commons
原文:Don’t Apply 2008 Thinking to Today’s Crisis

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