新型コロナ対策をブロックチェーンで効果的にする──給付金が自動に支払われる未来

新型コロナ対策をブロックチェーンで効果的にする──給付金が自動に支払われる未来

ステファニー・ハーダー(Stephanie Hurder)氏は新興技術の導入に特化した経済的アドバイスを提供するプリズム・グループ(Prysm Group)の創業メンバー兼エコノミストであり、世界経済フォーラム(WEF)に学術面で貢献している。同氏はビジネス経済学の博士号をハーバード大学で取得した。

不確実性が打撃を増大させる

新型コロナウイルスはアメリカ経済を不況に押しやり、数百万もの家庭が失業や仕事の削減などの影響を受けている。労働省によると、3月最後の2週間の失業保険の申請数は1000万を超え、前年比の20倍になった。

4月1日に家賃の支払い日を迎えた企業や住人はパニックに陥った。大学生は大学寮から退去させられ、一部の学生は実家に帰ったが、両親も失業したばかりで、どこでどうやって食料を買えばいいのか考えあぐねている。

議会では、こうした被害を埋め合わせる国家規模の救済策の一環として個人給付金の額をめぐって議論が行われた。

当記事執筆時点で、議会はCARES法案を可決しているが、この法案は失業保険を一時的に増額し、成人には最大で1200ドル(約13万円)、未成年には500ドルを提供する。さらに、この先の「フェーズ4」の経済策も議論が行われている。

大半の家庭にとって、封鎖措置で失われた収入を埋め合わせるには決して十分な額ではない。封鎖による影響の全貌は、この先見えてくるだろう。

経済的苦境と同じくらい厄介なことは、不確実性のコストだ。およそ1カ月にわたって、議会は給付額、頻度、要件など救済策の選択肢について論議してきた。さらに、救済法案が一度可決されても、給付金が実際に手元に届くまでどれくらいの期間がかかるのかは誰にもわからない。

こうした不確実性のため、家庭は可能な限り支出を抑え、パニックに陥り、新型コロナウイルスの影響を抑えるために必要な経済政策の経済的・社会的打撃を増大させる。

コミットメントが鍵

効果的な救済策に必要不可欠な条件は「コミットメント」だ。このような状況では、コミットメントはきわめて大きな経済的価値を持つ。

経済学で「コミットメント」は、個人や組織が特定の行動指針から逸脱できない状態を指す。もし議会が、マクロ経済指標が事前に決められた水準まで悪化した場合に、速やかに個人に給付を行うための条件に事前に合意していれば、家庭の心配は減少する。

家賃の支払いは続けられ、消費者は心配なく支出を続けることができる。政府は給付金へのコミットメントを通じて、差し迫る不況の規模を小さくし、回復スピードを上げることができる。

新型コロナウイルスの検査を行う医療従事者
出典:Shutterstock

コミットメントの経済的効用は経済学者に広く認識されている。そして、経済策の給付金に限ったものではない。

例えば、ユニバーサル・ベーシック・インカムに目を向けると、その恩恵は、個人が無条件で毎月、一定額を受け取ることを保証されていることに依存する。経済学者は、コミットメントが期待できる場合、金融政策はより効果的になり得ることを示してきた。最近では、経済学者クラウディア・サーム(Claudia Sahm)氏は、マクロ経済指標に基づくアルゴリズムをベースに個人への給付を自動的に行う、景気の自動安定化を主張している。

しかし、金融政策から経済対策に至るまで、重要なことは、政府が将来、具体的な行動を取ることに、いかに信頼できる形でコミットできるかだ。

議会が将来の給付金支給を約束する法案を可決したにもかかわらず、後でそれらを撤回、あるいは無効にすることを何をもって防げるだろうか?

分散型台帳技術(DLT)、いわゆるブロックチェーン技術が登場するまで、この疑問に対する良い答えはなかった。今や議会はDLTを通じてそのコミットメントを示すことができる。

3つの “C”

ブロックチェーン業界が発展するにしたがって、その技術を支える特性やメリットはより明確になるだろう。プリズム・グループでは、これらの今後明らかになる、業界を変革させるものを特定するためのフレームワークを構築した。

我々はこのフレームワークを「3つのC」と呼んでいる。

  • コーディネーション(Coordination):ブロックチェーンは、利害関係者グループが共同利用のために共有されたデータベース上で協調することを可能にする。グループ内で即座に検証できる情報ソースを作り出し、コミュニケーションをとったり、異なる情報ソースのデータを調整するための、しばしば大きたコストを削減する。
  • コミットメント(Commitment):ブロックチェーンは、スマートコントラクトとともに、統一されたコードを使って、参加者が将来のアクションや結果にコミットすることを可能にする。これによって、関係者の1人が以前の合意を守らないリスクや、合意を強制するためのコストといった、契約上の不完全さによって生じる非効率性を緩和する。
  • コントロール(Control):ブロックチェーンは、利害関係者が自らのデータを手元でコントロールできることを可能にし、それによって、参加者間の交渉力の均衡を保つ。利害関係者が自ら生み出した価値を獲得することを可能にし、参加と投資のインセンティブを向上させる。

ブロックチェーンは、自動での給付金支払いに信頼性を加えることができる。

アメリカ政府が許可型ブロックチェーンで運用されるドル連動ステーブルコインを持つ、そう遠くはない未来に存在し得る世界では、政府の給付金支払いにどのように信頼できる形でコミットするかという疑問に対する難しい問題には解決策が見つかる。このコミットメントは、ブロックチェーンの分散型合意メカニズムが提供する追加のレイヤーを伴う、スマートコントラクトの利用によってもたらされる。

スマートコントラクト

仮に議会が、経済が特定のマクロ経済的パターンを示した時に、給付金が支払われることを規定した法案を可決した場合、これらの給付条件は、ブロックチェーン上の公に検証可能なスマートコントラクトを通じて実行できるようになる。ブロックチェーンは個々の受給者が自分のウォレットを持つことを可能にし、労働統計局や労働省といった公平なソースが提供する信頼できる情報をもととなるデータにすることを可能にする。

必要条件となっていたマクロ経済的事態が発生した場合、スマートコントラクトが履行され、給付が自動的に行われる。個人はマクロ経済データをチェックし、危機の際に自分にいつ、どれくらいの給付金が支払われるかを正確に予測することができる。

分散型コンセンサス

単一の人物や組織が一方的にスマートコントラクトを編集、削除できるとしたら、スマートコントラクトそれ自体は限定的な価値しかない。これが、ブロックチェーンがコンセンサスメカニズムを通じて提供するコミットメントの2番目のレイヤーも重要である理由だ。

ブロックチェーン・ノードを圧倒的に占める者は、ブロックチェーンをアップデートすることができる。重要なユースケースにおけるブロックチェーン・ノードは、党派を超え、経済の健全性を維持する責任を負う機関でなければならない。

例えば、各地の連邦準備銀行がノードとなることができる。そうすれば、危機が発生した時に、議会、大統領、その他の単一の人物や組織が、一方的に給付を中止、遅延させることはできない。ノードは、ノードの大半が合意しない限り、土壇場での変更が行われないことを共同して保証している。

もちろん、自動給付の形態と条件は定期的に再検討されなければならない。法案は、再検討のための、慎重に熟考されたプロセスを明記しなければならない。

スマートコントラクトと分散型コンセンサスのおかげで、消費者は自分たちに対する給付金が最も必要な時に突然なくなることはないと安心することができる。ブロックチェーンは不要な社会的ストレスを緩和し、経済の低迷を最小にとどめ、おそらく、より素早い回復につなげることができる。

ブロックチェーンを通じて大規模な政策を実行することは、多くの技術的、政治的な前進が必要とする。ブロックチェーンベースの通貨の大規模な利用への適応は、重要なことになるだろう。

しかし、3月に起きたような不確実な時期における経済的、社会的影響を最小化することは、デジタルドルの導入がもたらし得る、これから明らかになる数多くのメリットの1つに過ぎない。

翻訳:山口晶子
編集:T. Minamoto、増田隆幸
写真:Shutterstock
原文:How Blockchain Tech Can Make Coronavirus Relief More Effective

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