独ダイムラーがデータ企業にトランスフォームする──データシェアにブロックチェーン

シンガポールに拠点を置くデータ共有プラットフォームのオーシャンプロトコル(Ocean Protocol)は7月7日、自動車メーカーのダイムラーAGと共同で世界の生産拠点と部品調達パートナーを結ぶサプライチェーンで、販売データや財務データなどを共有する概念実証(PoC)を完了したと発表した。

ダイムラーのシュトゥットガルト本社とシンガポールの製造拠点が参画したこのプロジェクトでは、データの共有が容易になり、今まで見過ごされてきたデータ分析が可能になった。

「我々は分散化した方法でデータの価値を解放するブロックチェーンの特性に期待している。データドリブン企業を目指す我々の取り組みにおいて、オーシャンプロトコルとのコラボレーションは、収益化とデータ活用のための安全なB2Bデータマーケットプレイスの構築を可能にする」とダイムラーのテクノロジー担当バイスプレジデント、ハルトムート・ミューラー(Hartmut Mueller)氏は声明で述べた。

コストセンターからプロフィットセンターに

IT企業のみならず世界中の大企業は、データが地球上で最も価値ある自然発生的な資源であるとしている。ダイムラー、ゼネラルモーターズ(GM)、BMWなどの自動車メーカーは、ブロックチェーン技術の研究開発で最前線に立ち、車両IDから自動運転車のデータ管理まで、あらゆる可能性を追求している。

オーシャンプロトコルの共同創業者ブルース・ポン(Bruce Pon)氏は、過去にダイムラーのIT部門に5年間勤務した経験があり、この規模の企業はソフトウエアやセキュリティ対策を含むさまざまな種類の管理手法の連携のためだけに年間約3億ドル(約320億円)を費やすと述べる。データ共有・照合の透明化によってコストの削減は可能になる。

「社内外のデータ共有が有効であることは証明済み。ブロックチェーンは企業のITシステムをコストセンターからプロフィットセンターに変えることができる」とポン氏は言う。

概念実証を超えて

2016年と2017年、エンタープライズブロックチェーン業界は技術の可能性を煽り過ぎたために、概念実証(PoC)のみが継続されることに悩まされていた。

「確かに2017年は『概念実証病』が起きていた。我々は50あまりの概念実証を行った。ダイムラーも複数行ってきた。当時は誰もが学習だけに専念していた。今では多くがブロックチェーンの機能を理解している。我々は今、このシステムを実行に移す方法を考えている。オーシャンプロトコルを使ってデータを売買する能力はすでに存在している」

複数のシステムを横断するデータの透明性や照合の改善のみならず、オーシャンプロトコルのプライバシー保護機能のポイントは、いわゆる「連合型機械学習(federated machine learning)」を使っていること。このタイプの機械学習はトレーニングデータに直接アクセスする必要がなく、データを企業のファイアウォールの外側に持ち出す必要はない。

オーシャンプロトコルの共同創業者トレント・マコナジー(Trent McConaghy)氏は、オーシャンプロトコルはグーグルなどで人気の中央集権型連合学習を取り入れ、分散システムを強化していると述べる。

自動車2.0

自動車メーカーやOEMメーカーは、自社が持つ豊富なデータとそこから価値を引き出すことの重要性を理解している。車そのものが生み出すデータとユーザーが社内で消費したデータが重要になる。

「分散型データマーケットプレイスは興味深い提案であり、明確な報酬手法を使ってデータを集約するエキサイティングな機会を与えてくれるだろう。オーシャンプロトコルを使って、我々は安全かつ透明性の高い方法で実装していきたい」とダイムラーのシンガポール子会社でテクノロジーマネージャーを務めるフランク・シュール(Frank Schur)氏は声明で述べている。

オーシャンプロトコルはダイムラーと数多くのブレーンストーミングを行ってきた。データマーケットでの最初の報酬は、トラック運送会社や配送サービスの車両で発生するだろうと、ポン氏は予想する。

「ロサンゼルスのDHLドライバーのように、データ全体を証券化する方法がある。これは、自動車メーカーをグーグルやブルームバーグのような企業と同じ立場に置くことができる技術だ」とポン氏は述べた。

翻訳:CoinDesk Japan編集部
編集:増田隆幸、佐藤茂
写真:Uriel Soberanes/Unsplash
原文:Mercedes Maker Daimler Tests Blockchain for Supply-Chain Data Sharing