金融の裏側に実装されるブロックチェーンの“配管”、実現は数年先か?
  • 主要のブロックチェーンプロジェクトは、証券のポストトレード(取引成立後の各口座への取引配分や取引内容の通知、資金や証券の決済などを行う業務)における処理の効率化を図る。
  • 新たに開発されたシステムは依然としてプロトタイプの段階で、既存のインフラに安全につなげるには厳しい検査を受ける必要がある。
  • システムやソフトウエアの品質保証サービス企業Exactpro(以前までロンドン証券取引所が保有していた)は、分散型台帳技術(DLT)を基盤とするポストトレード・システムの試験開始までは2、3年の時間がかかるだろうと推測する。
  • 結果として、ブロックチェーンを基盤とする大規模なポストトレードシステムはその可能性はあるものの、導入時期はさらに遅れるだろう。

ブロックチェーンが世界の金融をつなぐ新たな“配管”であれば、Exactproはその配管を一本一本チェックする検査役であろう。

以前までロンドン証券取引所が保有していたExactproは、約560名の専門家が働き、証券取引所や投資銀行、証券会社などを対象に取引やクリアリングシステムの検査を専門とする。

同社は特にポストトレードにおける知見を豊富に持つ。ポストトレードとは一般に取引が成立した後のミドルオフィスとバックオフィス業務のことで、各口座への取引配分や取引内容の通知、資金や証券の決済などを行う業務である。

そのExactproは、DLTを基盤とするシステムが厳しいベンチマークテストを受けるまでには数年の時が必要だろうと見ている。実体経済で動くポストトレードを処理するためには、この厳格な試験に合格しなければならない。

「試験フェーズに入るまでに数年」

「技術面を見ると開発の進捗度でまだ差がある。基盤が全てをサポートするとは言えない状況だ」とExactpro共同創業者兼共同CEO(最高経営責任者)のIosif Itkin氏は言う。「プロトタイプからソフトウエアの試験フェーズに向かうには数年はかかるだろうと考える」の述べるItkin氏は、仮に試験フェーズに至ったとしても、最初の試験にパスする可能性は低いと加えた。

Itkin氏の見方が正しければ、ポストトレード領域での利用を狙う野心的なDLTプロジェクトは、実際のシステムの稼働時期を遅らせる必要があるかもしれない。

例えば、ブロックチェーン・スタートアップのデジタルアセット(Digital Asset)は、オーストラリア証券取引所(ASX)のCHESSシステム(証券取引を管理するシステム)のリプレース作業を進めようとしている。しかし、作業は2021年第2四半期に先送りされた。

ブロックチェーンを基盤とするシステムへの移行は、ニューヨークのDTCC(Depository Trust & Clearing Corp)のクレジット・デリバティブ「トレード・インフォメーション・ウェアハウス(Trade Information Warehouse)」でも進められている。稼働時期は今年後半を予定している。また、R3のDLT「Corda」はスイスの取引所SIX Digitalで採用されており、稼働開始は同じく今年中だ。

Exactproは現在、R3、ハイパーレジャー(Hyperledger)、デジタルアセットが開発したDLTのみに着目しており、イーサリアムブロックチェーンのエンタープライズ・バージョンにはフォーカスしていない。CoinDeskはR3、ハイパーレジャー、デジタルアセットへの取材を試みたが、(記事公開時までに)コメントは得られなかった。

システム障害を引き起こす障害点

システム全体が障害となる障害点として最も考えられるのが、既存のインフラとDLTシステムとが接続する箇所であろうと、Exactproは指摘する。同社は、このハイブリッドの金融ソフトウエアに対する試験方法をホワイトペーパーにまとめ、4月に中国で開かれるICST 2019 conferenceで発表する。

Itkin氏は、開発者側はプロトタイプのDLTシステムがどう作動するかを考えるが、ソフトウエア試験の根底にあるものは対照的で、何がシステム障害を起こすかを探求することであると話す。

「ソフトウエア試験の専門家は、まずはシステムは作動しないものだと考える」とItkin氏。

次世代のポストトレード・システムに対する試験方法を考える際、Exactproはシステムの機能スペックをチェックすると同時に、不特定の状況下における能力を精査する。例えば、重い負荷がシステムにかかった状態や、サーバーがダウンした状態、または違うタイプの不具合が発生した状況で、システムはどう作用するのかといった具合に。

つなぎ目が弱点か?

システムの稼働開始時において、問題のほとんどは恐らくDLTとプラットフォームとの境目で起きるだろうと、Itkin氏は予想する。仮想通貨取引所における問題を見ても、やはり同様のことが言える。その多くは取引所とその外とをつなぐ境目で発生している。

DLTプロトタイプを精査する際に、Itkin氏が率いるチームが頻繁に目にするのは、特定のパーツがいまだに実装されていないことである。「ドメインモデルは多くの領域で未開発である。ソフトウエアのデベロッパーは、新たなユースケースに合わせてそれをゼロから作り出さなければならない」とItkin氏。

未開発パーツが何であるかはデベロッパーは理解している。そして、それらは次のバージョンが出るときには準備されている(Itkin氏)。「しかしそれをやり遂げるには開発現場での相当の作業が必要だ」と同氏。

Exactoproは現在、スワップ市場においても事業を進めている。R3のCordaを基盤とする国際スワップデリバティブ組合(ISDA)のコモン・ドメイン・モデルの可能性に着目している。

「我々が見ているのは、次世代の決済・クリアリングシステムの基礎になり得るシステムだ。Corda、ハイパーレジャー、DA(デジタルアセット)は最も有力な候補になるだろう」とItkin氏は語った。

翻訳:CoinDesk Japan編集部
編集:佐藤茂
写真:Machine and pipes image via Shutterstock
原文:Blockchain Financial Plumbing Is Still Years Away, Says LSE Spinoff Exactpro