デジタル人民元、ハードウエアウォレットも準備か──4段階の利用制限も

中国が開発を進める中央銀行デジタル通貨「デジタル人民元」が導入されると、ユーザーはその保管と取引にモバイルアプリだけでなく、ハードウエアウォレットを使うことが可能になりそうだ。中国の大手銀行が準備した利用規約で分かった。

中国4大商業銀行のひとつである中国建設銀行(CCB:China Construction Bank)は先週、中央銀行デジタル通貨(CBDC)、いわゆる「デジタル人民元」の試験運用を進めるうえで、一般ユーザー向けにモバイルアプリ内でウォレットサービスを一時的に公開した。

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銀行口座を持たない、あるいは十分な銀行サービスを受けられていない多くの人がインターネットを通じて金融サービスを受けられる「金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)」を実現するために、多くの国がCBDCの可能性を検討している。世界第2位の経済大国・中国は法定通貨をデジタル化する最初の国になろうとしている。

中国では、デジタル人民元の試験運用が複数の都市で行われている。中国建設銀行がモバイルアプリ内のウォレット機能を停止する前、多くがそのウォレット機能に気づき、実際にお金を入金していた。

利用規約を分析

CoinDeskはウォレット機能が停止される前に利用規約のコピーを入手し、分析した。

利用規約の「定義」の箇所には、中国建設銀行のモバイルアプリ内のデジタル人民元ウォレットとは別に、ハードウエアウォレットも準備されている可能性が示されていた。

中央銀行デジタル通貨のメリットの一つは、ユーザーは銀行にお金を預けるのではなく、デジタルに自分のお金を保有できること。

ハードウエアウォレットが追加されれば、ユーザーはサードパーティー製モバイルアプリに頼ることなく、オフラインで多額のデジタル人民元を保管できるようになる。そしてモバイルアプリを使えば、少額取引も可能だ。

中国建設銀行の規約によると、デジタル人民元のハードウエアウォレットは銀行の窓口などで、ユーザーの要求に応じて有効化される物理的な装置だという。

ハードウエアウォレットのアイデアは、物理的なお金を保管する実際の財布と似ている。しかし重要な違いが一つ存在する。

デジタル人民元のハードウエアウォレットは追跡可能であり、ユーザーが最初にウォレットを動作させるためにはIDや電話番号などの個人情報が必要となるため、匿名性という紙幣の特徴はなくなる。

基本的な機能には、支払い、銀行口座への入出金、ウォレット間の取引などが含まれると規約には記されている。

4段階の利用制限

規約によるとデジタル人民元ウォレットは、4階層のシステムで提供される可能性がある。つまり、ユーザーが利用できるデジタル人民元の額に段階的に制限が設けられる可能性がある。

規約によると、例えばティア2(第2階層)のデジタル人民元ウォレットが保有できる金額は最大1万元(約1500ドル、16万円弱)。1回の取引の上限は5000元以下、1日および年間の累積支出額はそれぞれ1万元、30万元(約4万2000ドル、約440万円)が限度となる。

ティア3(第3階層)とティア4(第4階層)のデジタル人民元ウォレットでは、保有できる金額、1日および年間の累計支出額はより厳しくなる。だが、ティア1(第1階層)のウォレットに制限があるかどうかは規約には示されていない。

中国国営メディアによると、週末にデジタル人民元ウォレットに入金していたユーザーには、中国建設銀行がウォレット機能を無効にしたあと、銀行口座に入金した額が戻されたという。

CoinDeskは昨年、中国の大手商業銀行に加えて、決済大手のアント・フィナンシャル(Ant Financial)とウィーチャット・ペイ(WeChat Pay)がデジタル人民元の開発と試験運用に関わっていると報じた。

実際、アント・フィナンシャルは中国でのIPO(新規株式公開)目論見書の中で、過去2年間にわたって開発と内部テストに参加していることを明らかにした。

「中国人民銀行の取り決めに従い、弊社は深せん、蘇州、雄安、成都、そして2022年の北京冬季五輪でのデジタル人民元の内部テストに向けて準備を進めている」とアント・フィナンシャルは目論見書に記している。

翻訳:下和田 里咲
編集:増田隆幸、佐藤茂
写真:Jwh/Wikimedia Commons
原文:China’s Digital Currency May Come With Hardware Wallets as Well