ウラン、原子炉、廃棄物…原発でブロックチェーンが使われ始めた理由

原子力発電に使われる精密部品を製造するアルゼンチンのニュークリアリス社(Nuclearis)が、暗号資産「ビットコイン」のネットワークで稼働するブロックチェーンを利用して、原子炉部品の設計データなどを管理する取り組みを始めた。

アルゼンチンの首都ブエノスアイレスに本社を置き、アメリカと中国にオフィスを構えるニュークリアリスは、このフレームワークをオープンソース化して、他の原子力発電関連企業の利用も可能にしている。

原発の世界でブロックチェーンが使われるのはこれが初めてではない。エストニアのガードタイム社(Guardtime)は、原発インフラへのサイバー攻撃を防ぐ方法として、独自の分散型台帳技術(DLT)を使っている。

ウラン燃料の流通経路の追跡や、核廃棄物のトレーサビリティでブロックチェーンを活用するプロジェクトも存在する。

今後30年で150基が建設予定

原子力発電においては、安全性がすべてに優先される。原発部品の製造が記録された文書・データの移動を追跡する取り組みは、安全性を確保する上で重要だろう。過去には、老朽化した原子炉設備を改修する際に、その手間を省こうと文書が偽造された事例もある。

ニュークリアリスでCTOを務めるセバスチャン・マルティネス氏は、今後30年で約150基の原子炉が製造される計画があるなか、「原子力発電所の運営者に信頼の重要性を植え付けることは重要だ」と話す。

「サプライチェーンには多くの中間業者が存在する。そのなかには依然、紙ベースで業務を続ける企業がある。我々は一部の部品の製造に関わる文書をハッシュ化し、ブロックチェーンにアップロードしている。数カ月後、あるいは数年後に部品を納入した際、発電所はすべてのデジタル情報が一致しているかをチェックできる」(マルティネスCTO)

ハッシュ化:元データから、アルゴリズムを使って規則性のない「ハッシュ値」を求めること。データの整合性の検証などに用いられる。

廃棄部品のトレーサビリティ

アルゼンチンで3つの原子力発電所の運営に協力しているニュークリアリスによると、同国政府と原発運営をするNucleoeléctrica Argentina社がニュークリアリスのブロックチェーンシステムの採用を検討しているという。

コンサルティング会社のIOVラボ(IOV Labs)の協力を得て開発された「RSKブロックチェーン」は、「マージ・マイニング」と呼ばれるプロセスを採用している。ビットコインブロックチェーンでサイドチェーンを動かし、ビットコインのハッシュパワー(計算能力)を利用する。

「ブロックチェーンが提供する不変性とセキュリティは、原子力業界にとって最も重要なもの」とIOVラボのディエゴ・グティエレス・ザルディバル(Diego Gutierrez Zaldivar)CEOは声明で述べた。

RSKベースのプラットフォームは現在、新しい部品の由来を追跡するために利用されているが、今後は部品の廃棄などにおいても活用されるだろう。

「50年にわたって放射能を浴びてきたポンプを取り替える場合、原子炉を停止し、取り出して解体しなければならない。廃棄部品のトレーサビリティは非常に重要で、ブラックマーケットで売られたり、ダーティーボム(放射性物質を撒き散らす爆弾)に使われるようなことがあってはならない」とマルティネスCTOは述べた。

翻訳:石田麻衣子
編集:増田隆幸、佐藤茂
写真:原子力発電所のイメージ(Shutterstock)
原文:How the Bitcoin Blockchain Is Being Used to Safeguard Nuclear Power Stations