テザーはドルと完全に同等か?──信用リスクをウォール街が生んだデリバティブ商品で

米ドル連動型ステーブルコイン「テザー(USDT)」が完全に1対1でドルによって裏付けられているか否かは長年、議論の的だった。ここにきてついに、テザーに批判的な人とテザーを支持する人は、言葉だけではなく、実際にお金を賭けることができるようになった。

デリバティブ取引所のオピアム(Opium)は、USDTのクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)を導入。9月3日にローンチされたこの商品は、USDTを発行するテザー(Tether)社が債務不履行に陥った場合のリスクを対象にしたものだ。

このCDSでは、通常時の1ドルからUSDTの価格が大幅に下落した場合、テザー社は債務不履行に陥ったと判断される。例えば、USDTが70セントまで下落した場合、売り手は買い手に30セントを支払うことになる。

CDSは1990年代にウォール街に登場し、2008年の世界金融危機のきっかけになったとして悪名を得た。

しかし、CDSはリスクを管理するために生み出されたもので、その価格はほぼ間違いなく、信用問題に関する警告を早期に市場に与えてくれる。また映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』で描かれた書面での合意とは異なり、新しいCDSはイーサリアムブロックチェーン上でコードによって実行されるスマートコントラクトだ。

「あまり興味はない」テザー社

CDSは「知識と自信がある人から、保険をかけたい人への保険の移転。デリバティブはリスクを移転させるだけのものだ。リスクを取ってお金を受け取りたい人もいれば、リスクを取り除くためにお金を支払いたい人もいる」とオピアムの創業者、アンドレイ・ベルヤコフ(Andrey Belyakov)氏はインタビューで語っている。

投資家は、CDSを購入するためにUSDTを保有している必要はない。CDSはUSDTが債務不履行に陥ることに賭けるために使うことができるが、一方でテザー社がその義務を果たすと信じる人はプレミアム(保険料)を獲得できる。

「暗号資産の中で最も広く使われているステーブルコインのシステム的な不履行から身を守る(あるいは、それに投機する)ためにCDSを使うことができる。USDTのクオリティと持続可能性に賭ける意思があるなら、自らの資金に対する利回りを得ることもできる」と3日に公開されたブログにオピアムは書いている。

テザー社の最高技術責任者、パオロ・アードイノ(Paolo Ardoino)氏は、広報担当者を通じて次のように述べた。

「テザーは支払い能力を持っている。そのため、このソリューションは我々や我々のコミュニティーは、あまり興味はない」

暗号資産取引所にとってのヘッジ

オピアムは8月下旬、分散型マネーマーケットのAaveで、無担保借り入れの一種である「クレジット・デリゲーション」ローンの債務不履行に対して買い手を補償する契約を開始した。

いずれのCDSでも、支払いの引き金となるようなチェーン外での出来事についての情報(この場合は、USDT価格の変化)、いわゆる「オラクル」は、チェーンリンク(Chainlink)によってスマートコントラクトに提供される(チェーンリンクは今年、オラクルサービスの採用が大幅に進んでいる注目のプロジェクトだ)。

完全に担保で保証されたスマートコントラクトは、リスクを取り除いてくれるかもしれないが、一方で新たなリスクをもたらす。ソフトウエアのバグだ。

バグの可能性を抑えるために、セキュリティー企業のスマートデック(SmartDec)は、新しいCDSのコードとオピアム自体を監査した。

USDTへの懸念を解消するのか?

USDTに紐づけられた新しいCDSは、USDTがあらかじめ設定された価格水準を下回るなど、さまざまなシナリオで支払いが行われるようにカスタマイズすることができるとAaveの創業者、スタニ・クレチョフ(Stani Kulechov)氏は述べた。同氏はオピアムにアドバイスも行っている。

「テザー社に対して1カ月間、あるいは3カ月間、保険をかけることができる。そして、さまざまな価格水準で保険をかけることができ、例えば、95セント、あるいは90セントに債務不履行のレベルを設定することができる。もしUSDT価格がその設定レベルに達したら、それは債務不履行に陥ったということになり、CDSの買い手は保証された金額を受け取ることができる」とクレチョフ氏は述べた。

オピアムのブログに書かれているように、USDTは国境のない暗号資産取引所の生命線となっている。法定通貨の価値を維持するように設計されているため、「ステーブルコイン(安定したコイン)」と呼ばれている。

最も古いステーブルコインであるUSDTは、時価総額が最大のステーブルコインで発行額は138億ドルにのぼる。暗号資産全体でも5位の規模を誇る。トレーダーはしばしば、裁定取引のチャンスを活かすため、取引所への資金の迅速な移動にUSDTを使っている。

USDTを発行しているテザー社は現在、姉妹会社の暗号資産取引所、ビットフィネックス(Bitfinex)とともに、資金の不正流用の疑いでニューヨーク州検事総長事務局の捜査を受けている。

テザー社は2019年4月、USDTの74%のみが「現金および現金同等物」によって裏付けられていると公表した。同社はその後、2019年11月に、2017年のビットコインバブルについてUSDTを非難した学術論文への反論の中で、USDTは再び完全に裏付けられていると述べた。

いずれにしても、ベリヤコフ氏によると、オピアムのCDSはテザーの支払い能力に大きく影響される暗号資産取引所にとってヘッジとして機能するという。

CDSはまた、DeFi(分散型金融)アプリケーションに一般的な、希少な出来事による「ロングテールリスク」に対する保険としても機能し、USDコイン(USDC)、バイナンスUSD(BUSD)、ダイ(DAI)でもまもなく利用可能になるはずとベリヤコフ氏は語った。

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸、佐藤茂
画像:Shutterstocck
原文:New Crypto Derivatives Let You Bet on (or Against) Tether’s Solvency