コインベースCEOの「政治色を持たない」方針──米社会で問われる企業の本質と価値

コインベースCEOの「政治色を持たない」方針──米社会で問われる企業の本質と価値

働き方や暮らし方が大きく変わる今、社会や従業員の生活において企業はどんな役割を果たすべきか?アメリカの企業経営者は新たな課題に直面している。

大手暗号資産(仮想通貨)取引所コインベース(Coinbase)の共同創業者兼CEOのブライアン・アームストロング氏は先週、「世界のためにオープンな金融システム」を作るという同社のミッションに集中することを強調し、政治的な問題は同社内の議論から遠ざける方針を公開した。

この方針が提起する問題はきわめて大きい。そしてタイミングも、進化する社会における資本主義の役割について、すでに起きている構造転換と合っている。

提起された問題を見てみよう。明確な答えはない。

■その1. 暗号資産の精神とは?

アームストロングCEOは、コインベースは「政治色のないカルチャー」を持つと述べた。二極化が進む今の時代のなかで、これはそもそもどういう意味だろうか? 政治色がないということでさえ、政治的姿勢と捉えられる可能性がある。

さらに「世界中の人々に経済的自由」をもたらすことをミッションとする企業が、改革も求める活動や政治活動を企業に持ち込まないようにと述べたとき、暗号資産の精神がこれほどまでに制度化・組織化されていることを知るだろう。

■その2. 雇用契約とは?

雇用契約とはなんだろうか? ある人は生産活動に対する金銭的な報酬と答えるだろう。報酬と交換に自分の「時間」を提供することと答える人もいるだろう。

後者の場合、企業はその時間に労働者が何をするかを決めることはできるのだろうか?

■その3. 企業のミッションを決める権利とは?

企業は自社のミッションを定義する権利を持つのだろうか? 答えは間違いなく「YES」のように思えるが、その先には、企業は従業員が大切に思うテーマや出来事を無視する権利を持つのだろうかという疑問が生まれる。この点でこの問題はより対立的なものになる。

■その4. 企業は誰に対して責任を持つ?

一つ前の疑問とも関連するが、企業の責任とは株主に対するものだろうか、それとも従業員に対するものだろうか?

アームストロングCEOは、集中することがミッション達成に重要な役割を果たし、それは株主が期待する権利を持つものと考えている。しかし、知識や知能をベースとする企業は、従業員に大きく依存している。

私たちは、なにかの製品の製造工場について議論しているわけではない。専門的な人材とインスピレーションが重要で、モチベーションを持った人々によって提供されるような環境について議論している。

だから、アームストロングCEOの責任は、従業員に対するものだと主張する人もいるだろう。なぜなら、それが同社をより収益性の高いものにし、株主をハッピーにするからだ。

他にもたくさんの問題がある。

IBMのグローバル経営者スタディ

今回の問題を強調するかのように、IBMは9月末に「グローバル経営層スタディ」の最新版を発表した。プレスリリースは以下のように書いている(強調は筆者による)。

「進行中のIBV(IBM’s Institute for Business Value)消費者調査によると、従業員が雇用主に抱く期待はパンデミックの間にシフトした──従業員は今、新しい方法で仕事をするために必要なスキルだけでなく、雇用主が従業員の身体的、感情的健康をサポートすることに積極的な役割を果たすことを期待している

これは、たとえミッションがどんなものだろうと、「ミッション」に集中することとは一致しない。そして従業員が企業の成功に果たす重要な役割を浮き彫りにしている。次もプレスリリースからの抜粋だ。

調査に参加した企業は、進みつつあるトランスフォーメーションにおいて従業員の果たす重要な役割をより明確に目にしている」

ミレニアル世代が主導する、新しいホリスティックな社会を提唱する人たちの発言ではない。レガシーな大企業を代表するIBMのプレスリリースであり、効率を重視する経営の考え方がいかに変化したかを示している。

アームストロングCEOの立場に賛成、あるいは反対するにかかわらず、特に今年中の上場が噂されているなかで、こうした議論を提起した彼の勇敢さは認めなければならないだろう。

アームストロングCEOの方針は、単なる企業ポリシーの表明にとどまらない。さまざまな問題が浮上しているなかで、ビジネスに苦戦している企業に対して、従業員が明確な説明を求め、新たな問題を顕在化させる可能性が高い。

つまり、従業員と雇用主の間の「社会的契約」の考え方の再評価、そして暗黙の了解を明文化する必要性の是非につながるかもしれない。さらには、企業の本質や価値の意味をめぐる論争の引き金になる可能性もある。

自分たちで認識できる以上にいろいろな点で難しい時代だ。モラルや期待に現れる変化は、予期以上に深いものになるだろう。

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸、佐藤茂
画像:Shutterstock
原文:Crypto Long & Short: Coinbase’s ‘Apolitical’ Stance Isn’t Nearly as Simple as It Sounds

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