キャッシュレス大国・スウェーデン、銀行界がデジタル通貨構想に懸念

キャッシュレス大国と言われるスウェーデンの銀行界から、国が研究開発を進めるデジタル通貨に対する懸念の声が高まっているという。

スウェーデンの銀行業界は、同国が開発を検討している中央銀行デジタル通貨(CBDC)「eクローナ」が銀行のシステムを根本的に変えることになるとする懸念を表面したと、ロイターが1月5日に報じた。

ロイターによると、同国の銀行界は、国民がお金を預金口座からeクローナに移した場合、銀行は資金不足に陥り、流動性をホールセール市場(大口顧客を対象とした市場)に依存する事態を招く可能性があると主張しているという。

スウェーデンの中央銀行のリクスバンク(Riksbank=スウェーデン国立銀行)は現在、同国の中央銀行デジタル通貨(CBDC)「eクローナ」を中心とするデジタル決済の推進を検討している。ペール・ボールンド(Per Bolund)金融市場大臣は昨年末、リクスバンク・ファイナンス委員会がデジタル通貨への移行の検討を開始したと発表。検討作業は2022年11月まで続く。

銀行収益の悪化、金融安定性のき損

スカンジナビア・エンスキルダ銀行(SEB)のマシ・ヤズディ(Masih Yazdi)最高財務責任者(CFO)は、銀行にとっては債務負担が大きくなり、収益が悪化する恐れがあるとした上で、金融安定性を損なうリスクもあると語ったという。

スウェーデン銀行協会(Swedish Bankers Association)の顧問を務めるリカード・エリクソン(Rickard Eriksson)氏は、リクスバンクは預金不足を補うために銀行に資金を貸し出すのか、それとも単に資金を保有するだけなのかと疑問を投げかける。

前者の場合は、住宅ローンや企業向けローンは中央銀行のリスク選好度に依存することになるかもしれない。

「リクスバンクは、こうしたことについて深く検討したこともなく、良い解決策に達したこともないと思う」とエリクソン氏はロイターに語った。

スカンジナビア・エンスキルダ銀行のヤズディCEOは、リクスバンクは金融政策のみならず、プライバシーの分野にも手を広げることになると強調する。ブロックチェーンを使ったeクローナは、現金と違って追跡可能だ。

eクローナを推進する中央銀行

一方のリクスバンクはeクローナを推進する方針を維持している。

昨年10月、リクスバンクのステファン・イングベス(Stefan Ingves)総裁は、政府に対して法定通貨の概念を見直し、eクローナ導入に向けた法整備を求めている。

「法定通貨としてデジタル国家通貨が存在すべきだ。リクスバンクが発行するeクローナがそれに相当する」とイングベス総裁は当時、経済レポートに記している。

翻訳:新井朝子
編集:増田隆幸、佐藤茂
写真:Swedish krona(Shutterstock)
原文:Swedish Bankers Air Concerns Over E-Krona Digital Currency Plan