ステーブルコインに変化の兆し【US市場動向】

ステーブルコイン市場では、すでに意義深いシフトが始まった可能性がある。

時価総額で他を圧倒してステーブルコイン界のトップに立つ、米ドルに連動するテザー(USDT)をめぐっては、長年にわたり、ドルの準備金で完全には裏づけられていないとする疑念が渦巻いていた。その疑念は正しいものであることが判明した。

ニューヨーク州司法長官との和解の一環として、テザーはその準備金の内訳を四半期ごとに発表することとなった。それを受けて先週、会計事務所による独立した監査に言及することなく、円グラフで内訳が発表された。

テザー社の準備金内訳を示す円グラフ

グラフからは、全準備金のおよそ半分(75%に当たる「現金および現金同等物」の65%)が、必ずしも流動性がある訳ではなく、その価値を確実に維持する訳でもないコマーシャル・ペーパーの形で保有されていることが読み取れる。

より不確実な時期にもテザーの成長が継続したことは、大半の市場参加者にとって、テザーの流動性と普及率の方がその準備金よりも重要であることを示唆しているが、今回のグラフは当然ながら、多くの市場参加者を不安にさせた。

テザーは他の暗号資産に比べて、取引ペアとしてずっと重要な役割を担っており、流通量もずっと多い。

ステーブルコインの供給の増加を示すグラフ
出典:Coin Metrics

その状況に変化が起こる可能性がある。データサイトのskew.comによれば、取引高でトップ5に入る暗号資産デリバティブ取引所であるFTXと、その子会社で個人投資家向けのサービスを展開するブロックフォリオ(Blockfolio)では先週から、トップ2のステーブルコイン「USDC」でユーザーがアカウントに資金を入れられるようになった。

一方、フェイスブックが主導する「ディエム(旧リブラ)」は、米ドルにペグされたステーブルコインを立ち上げるために、シルバーゲイト銀行(Silvergate Bank)と連携を開始した。

ブロックチェーンベースの電子マネーの利便性をすべてのフェイスブックユーザーに届けることを目指した、元々のプロジェクトのグローバルな野心からは程遠いものとなった。

ディエムのネットワークは許可型で、承認された参加者だけにアクセス可能となるもの。どれほどの範囲に影響が及ぶかはまだ不透明だ。しかし、アメリカの銀行がステーブルコインを発行するのは初という点で、意義深い。

(そもそもあまり強くなかった)準備金による裏づけへの信頼が弱まっているにも関わらず、テザーはこれからもしばらくは、ステーブルコイン市場を席巻し続けるだろう。

しかし、データによれば、シフトの兆しも見える。2020年の下半期、そして2021年はこれまでのところ、時価総額でテザーに次ぐ4つのステーブルコインの供給量の増加が、市場リーダーであるテザーのものを優に上回っている。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Crypto Long & Short: Why Tesla’s Reversal Is Good for Bitcoin