ローカルビットコインに捧ぐ──ビットコインを“公共の利益”として維持するための教訓【コラム】

有名なピア・ツー・ピア(P2P)暗号資産(仮想通貨)取引所のローカルビットコイン(LocalBitcoins)は2月9日、財政上の理由からサービスを停止すると発表した。業界にとって大きな損失だ。

フィンランドの首都ヘルシンキにある同社は2012年、ジェレミアス・カンガス(Jeremias Kangas)氏によって設立され、徐々に使われなくなっていたが、それでもビットコイン(BTC)の「サーキュラーエコノミー」の大切な一部となっていた。そしておそらく、オンチェーン決済の促進や、ビットコインの普及に必要な基本インフラの保護・開発について、今のビットコインコミュニティに対する警鐘となるかもしれない。

不安定な地域における頼みの綱

ローカルビットコインは、ユーザーに他のユーザーとほぼ直接的に取引する方法を提供する数少ない取引所だった。仲介者としてビットコインを預かることで取引を促進、つまり、ビットコインが本来持つP2P構造に仲介機能をプラスし、ユーザーが買い手や売り手を見つけることをサポートした。

ローカルビットコインでは通常、ビットコイン価格にプレミアム(割り増し金)が課されていたが、資本統制や経済的不安定さ、金融面での孤立や制裁に直面している地域においては、プレミアムは支払う価値のあるものだった。

暗号資産メディアのディクリプト(Decrypt)は先日、ベネズエラにローカルビットコインがもたらしたメリットについて、感動的なストーリーを掲載。ベネズエラは原油は豊富だが、アメリカの制裁を受けてグローバル経済からほぼ遮断された、政治的に不安定な国であり、暗号資産普及が進んだ地域になっている。

「ローカルビットコインは、2017〜2019年にかけてベネズエラでビットコインが広く使われていた主な理由だった」と、分散型決済ソリューションを手がけるダッシュ(Dash)のビジネス開発責任者アーネスト・コンテラス(Ernesto Contreras)氏は語った。

ロシア制裁の影響

銀行や、マネーグラムなどの送金事業者が対応できなかった時にもローカルビットコインは国内/国際取引に対応していた。アメリカで登記されているPaxfulやイギリスのUpholdなど、ローカルビットコインのライバルや、ほとんどの中央集権型取引所は、制裁や政治的リスクを理由にベネズエラから撤退していた。

ローカルビットコインのデータによると、2020年には、ロシア、ベネズエラ、コロンビアが取引高の41%を占めた。ロシアはその後、ウクライナ侵攻後の経済制裁によって、サービス対象から外された。制裁の必要性はさておき、これがローカルビットコインのサービス停止の理由かもしれない。

社会からから疎外されたような人たちでさえもオンチェーンで資産を移動できる場合のみ、誰でも自由に取引できると一般市民は確信できる。おそらく、それが暗号資産が提供できる最大の(あるいは唯一)の善かもしれない。

身元確認の甘さと規制遵守

ローカルビットコインはここ数年、政治的プレッシャーにさらされてきた。その1つの要因は、身元確認手続きの緩さだ。同社は2015年、ニューヨーク州で暗号資産ビジネスを運営するために取得が義務付けられたビットライセンス(BitLicense)の取得に失敗した。

2016年には、ローカルビットコインを使い、アンチマネーロンダリング法に違反したとして、2人が告発された。同様の事件はその後も続いた。

2019年には、ローカルビットコインは違法な暗号資産が向かう「お気に入り」の行き先となっていると指摘した分析企業サイファートレース(CipherTrace)のレポートと、フィンランドでの新しい規制を受けて、フィンランド金融監督当局の規制を遵守する形で、現金の使用禁止と顧客確認(KYC)の手続きを導入した。

このようなコンプライアンスの仕組みが導入される以前、ローカルビットコインはオンチェーンでのプライバシーを高めたい人たちにとって便利な場所だった。しかし仕組みの導入後も、必要最低限のサービスがネイティブ・ビットコインエコノミーを支えていた。ビットコインのアーキテクチャに基づいて英数字で表されるアドレスを使って取引を行い、互いの「信頼」を確立するという理想だ。

ローカルビットコインが参加させ、認証したユーザーは、189カ国にもわたっている。2018年のピーク時には、1週間に2400ビットコインが取引された。しかし2021年までには、1週間の平均取引高は1000ビットコインに減り、先週の取引高はわずか283ビットコインにとどまった。

ローカルビットコインのゆっくりとした凋落には、いくつかの原因が考えられれる。ユーザーインターフェイスは必要最低限。長年にわたり、対応する暗号資産は「ビットコインだけ」で、他の暗号資産保有者の利用は制限されていた。そしてドージコイン(DOGE)やカルダノ(ADA)に対応した時には逆に「ビットコイナー」を遠ざけることになった。

企業であることの制約

弱気相場も間違いなく、収益に悪影響を与えた。しかし私は、ローカルビットコインの経営陣が同意しなかったとしても、同社が失敗した理由はシンプルに企業だったからだと考えている。

ローカルビットコインは法律の対象になることで、2012年の設立当初にカンガス氏が思い描いていたとは思えない、送金事業者へと変わった。成熟とも呼べるプロセスについて、責めを負うべき人はいない。同社は現在、約50人のスタッフを抱えているとされ、他人の生活がかかっている場合、イデオロギー的なコミットメントを超えて、厳しい決断を下す必要がある。それには、潮時の判断も含まれる。

ローカルビットコインは、ベネズエラでは顧客確認の手続きを持たないHodlHodlやノンカストディアルなBisqなどのP2Pプラットフォームとの競争に直面していた。もちろん、こうしたプラットフォームはすべて、米ドル連動型ステーブルコインなど、多くの暗号資産に対応したバイナンスが2019年、P2Pに参入したことで霞んでしまった。さらに、公式名称なしでスタートしたように思えるバイナンスのP2P取引は暗号資産メディアのディクリプトによると、「P2P市場での取引高を監査するための透明性に関するポリシーを持っていない」。

ビットコインには、人々のプライバシーを保護する完全なP2Pサービスが必要だ。これはローカルビットコインがかつて独占していたニッチ分野だ。今回のニュースに教訓があるとすれば、企業はこのようなサービスを持続可能な形で提供できないということ。そして法を回避することも、BTC-eやシルクロード、その他数えきれないほどの「非企業」組織の破綻が示してきたとおり、長期的には現実的ではない。

イーサリアムを参考に

そこで私はビットコイナーに対して、イーサリアムブロックチェーンを見習って、すべての人にとって開かれたものであるべきインフラの重要な部分を「公共の利益」として開発し、資金を集め、維持することの意味を真剣に考えることを提案したい。

イーサリアムは完璧ではないが、開発者コミュニティは分散型組織やプロトコル・メンテナンスの新しいモデルに挑戦し、大なり小なり成功を収めている。今、ビットコインコミュニティでは、ビットコインNFTという、非金融系のユースケースが登場し、ここ数年見られなかったほどの手数料収入をマイナーにもたらし、オープンプロトコルの正しい利用方法について疑問が提起されている。

ビットコインブロックチェーン自体は、ユーザーが取引できる方法をいつまでも安定して提供できるだろう。しかしコミュニティ、いや、世界は、人々が互いにやりとりできるプラットフォームを必要としている。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:T. Schneider / Shutterstock.com
|原文:An Ode to LocalBitcoins (and a Lesson About Maintaining Bitcoin’s Public Goods)