日本に2.5兆円市場は生まれるか──ケネディクスが“デジタル不動産”事業を拡大

日本に2.5兆円市場は生まれるか──ケネディクスが“デジタル不動産”事業を拡大

大規模な再開発が進む東京・渋谷にある賃貸マンションが、一部の個人投資家の間で話題となった。最低投資額は200万円で、年間の想定リターンは3.5%。大手不動産運用会社のケネディクスが手がける投資案件だ。

従来の不動産の投資信託やJ-REITと違うのは、単一の不動産に小口投資でき、取引される不動産資産(証券)はデジタル証券(セキュリティトークン)としてブロックチェーン上に記録されることだ。

J-REIT:REITは、投資家から集めた資金や借入金で商業施設やマンション、オフィスビルなどの複数の不動産を取得して、賃貸収入や売買益を投資家に分配する不動産等信託。東京証券取引所に上場されているREITは「J-REIT」と呼ばれており、個人でも投資できる。非上場のREITは「私募REIT」と呼ばれ、機関投資家しか投資できない仕組みとなっている。

新型コロナウイルスのパンデミックは世界のあらゆる業界のデジタル化を進めた。多くの投資家が「ポスト・コロナ」のさらなるデジタル化を期待し、投資戦略を練り直そうとする中、不動産を裏付け資産とするデジタルトークンを活用した金融商品は今後、個人投資家にとってよりアクセスしやすくなる。

渋谷の物件は2016年10月に建てられた10階建ての「KDXレジデンス渋谷神南」。総戸数は37戸で、1LDKと2LDKがメインだ。このビルの不動産鑑定評価額は27.4億円で、ケネディクスは今回、個人投資家から最大14億円を募集する。

(画像:「KDXレジデンス渋谷神南」の外観/ケネディクス提供)

仕組みはシンプルだ。不動産の運用を担うケネディクスが、三菱UFJ信託銀行を受託者とする不動産信託を組成して不動産証券を発行。野村證券とSBI証券が引受証券会社で、個人の投資家は、野村とSBIに証券口座を持っていれば、不動産証券を購入することができる。

不動産証券はセキュリティトークンとして、三菱UFJ信託銀行が開発したブロックチェーン基盤のプラットフォーム「プログマ(progmat)」で管理されるが、個人が特別なデジタルウォレットなどを準備する必要はない。

2年以内に100億円超の案件を計画

2.4兆円を超える資産を運用するケネディクスは、年金基金などの機関投資家を顧客に不動産投資商品を開発してきた。個人でも投資できるJ-REITの組成も行ってきたが、今後はセキュリティトークンを活用した単一不動産の投資商品を数多くそろえていく方針だ。

J-REITは通常、上場コストやほふりの維持運用コストがかかり、(規模の経済でコストを吸収するため)数百億円から数千億円のサイズが必要だが、ST(セキュリティトークン)であればコストが小さく、複数物件からなる大きなポートフォリオにする必要はない。一つの物件に限定した小規模の商品であれば、個人の投資家でも投資がしやくなる、と話すのはケネディクスでデジタル・セキュリタイゼーション推進部長を務める中尾彰宏氏。

ほふり:証券保管振替機構の略称である「ほふり」のこと。株券などの有価証券の保管や受け渡しを簡素化することを目的とする機関で、国内唯一の保管振替機関。

「単一の不動産が裏づけ資産であれば、個人は自分が何に投資しているかがよくわかる。当面は、資産性が高い東京の築浅物件を中心に、小さなサイズのものを増やしていきたい」(中尾氏)

2030年までに2.5兆円市場に

また、ケネディクスは今後、個人投資家が投資しやすい一口10万円台の商品を開発していきながら、2023年までには100億円を超える大型案件も市場に投入する計画だ。

中尾氏は、個人のライフスタイルや価値観が多様化しているなか、「賃貸マンション、オフィスビル、ホテル、商業施設などから、個人が共感・理解できるST不動産商品をそろえていけば、ST不動産を所有しようとする個人は増えていくだろう」と話す。

J-REITの市場規模は現在、誕生から20年で約20兆円。同じく非上場の私募REITは11年で約4兆円。中尾氏は、ST不動産の市場が2030年までに2.5兆円に拡大すると予測する。

「REITとは差別化された投資商品として、魅力的なST不動産商品を開発できれば、少なくとも2.5兆円市場は見えてくる」(中尾氏)

金融商品の小口化にブロックチェーン

不動産投資信託を小口化するために、なぜブロックチェーンとトークン化技術が必要なのか?

金融商品や資金を改ざんできないプログラムとして扱えば、金融業界での広い範囲の業務が自動化できる。従来の金融システムで必要だった業務コストや時間、取引決済にかかる時間を低減することができる。

例えば、証券の取引では注文・約定した後にも、照合や清算、証券振替、資金振替などの「ポストトレード」と呼ばれる業務がある。この過程には複数の機関や管理人が介在し、人手で処理する部分が残っている。

そのため、証券の約定を行っても、決済はその日から数営業日遅れて行われる。具体的には国債でも約定日から1日後、その他の証券でも約定日から2日程度がかかるのが現状だ。

デジタル証券の取引基盤を使って、改ざんできない同じ原本データを複数の会社間で共有できると、お互いの情報に間違いがないかを検証する「照合」が不要となる。照合が不要になれば、投資家の数が増えても事務負担は増えず、小口化のハードルは下がる。

さらに資金側でも同じ仕組みを実現すると、証券の約定日と決済日を同じにできる。最終的にポストトレード業務を全自動化して、業務コストの低下や必要期間の短縮化を実現できるというわけだ。

MUFGのプラットフォーム「プログマ」

三菱UFJ信託銀行のデジタル企画室で新ビジネスのプロジェクトマネージャーを務める齊藤達哉氏は、「証券をSTで発行・取引すれば、業者間のやり取りを効率化して小口化(小額化)していくことで投資家の層が広がり、また上場コスト等も不要となるため、新たな商品市場を創る機会が生まれる」と話す。

デジタル証券(ST)自体が黎明期の日本では、敢えてデジタル証券独自のチャネルをつくるよりも、現在各個人が利用している証券会社のチャネルからデジタル証券“も”売買できるようにした方が、他の証券との損益通算や特定口座等のサービスをそのまま利用できると、齊藤氏は述べる。

また、デジタル証券か否かで取引アプリや口座を切り替えて使用する面倒な手間もなくなるため、当面はより多くの個人投資家が利用しやすいだろうと説明した。

実際、ケネディクスが手がけた渋谷の賃貸マンションの案件でも、個人投資家はSBIもしくは野村證券で証券口座を持っていれば、簡単に購入することができる。投資家は、その裏側でデジタルトークンがブロックチェーン上を行き来していることを想像するのみとなる。

国内では、野村、三菱UFJ、SBI、みずほフィナンシャルグループなどがここ数年、セキュリティトークン化した証券を発行・取引する基盤と手法の開発を進めてきた。不動産証券のST化が進めば、既存の金融システムの一部をデジタル化して、より便利にするだけでなく、新たな金融商品を生む可能性がより高まっていく。

|取材・文・編集:佐藤茂
|トップ画像:渋谷のスクランブル交差点(Shutterstock)

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