NFTゲームの報酬トークン、フィリピンで支払い受け入れ広まる

NFTゲームの報酬トークン、フィリピンで支払い受け入れ広まる

フィリピンの首都、マニラにあるショッピングモール「SM Aura」の中に、「ベイクビー(Bakebe)」と呼ばれる一風変わった共同ベイキングスペースがある。

ケーキの焼き方を教えるアプリを使う香港のコンセプトショップから着想を得た空間だ。スペースに入ると、バービーのドリームハウスから飛び出たような電動ミキサーの一群がお出迎え。ピンクのフロスティングで彩られた壁には、大きなガラス瓶が並び、そこには粒チョコレートや、トッピング用のカラフルなチョコレート、ミニメレンゲ、クッキーが詰まっている。

魔法のようなベイクビー体験の仕上げには、魔法のようなインターネット通貨でお支払いだ。

ベイクビーの親会社であるネクストペリエンス・グループ(Nextperience Group)は、子供の誕生日からチームビルディングイベントに至るまで、想像力に富んだビジネスのラインナップを抱えている。

同社は7月中旬、イーサリアム基盤のユーティリティトークン「ラブ・ポーション(SLP)」での支払い対応を開始。それ以降、収益で合計15万フィリピンペソ(約33万円)相当となる、50件のオンライン予約を処理した。

SLPは、ブロックチェーンゲーム「アクシー・インフィニティ(Axie Infinity)」発のERC-20トークンで、ゲーム内で獲得できる報酬は、多くのフィリピン人の家計を支える存在となっている。

同社の共同創業者兼CEOのニッコ・ケ(Nikko Que)氏は、マニラが7月末に再びロックダウンを余儀なくされなければ、ずっと多くのセールスが見込めたはずだと考えている。

しかも同社は、SLPに対応している唯一の企業ではない。ソーシャルメディアでサッと調べれば、新しいスニーカーから自動車関連サービス、新型コロナウイルス検査、ドリンクや食べ物、オンラインのフィットネスコーチまで、SLPを使ってフィリピンで買える様々なモノやサービスの広告が続々と出てくる。

「SLPの作成や獲得は、多くの人にとって日常的な作業となっているため、日常的な通貨として使えれば便利だ」と、ケ氏のビジネスパートナー、ジョセフ・ムーア(Joseph Moore)氏は話す。

SLPでの支払いに対応する企業

獲得にかかる労力という観点から、顧客はSLPの価値を評価していると、 ベイクビーのスタッフは語る。例えば、ベイキング体験の価格が150SLPならば、「1日ゲームをして獲得できるのと同等だ」という感じだ。

フィリピンに暮らす私は、実世界でのアイテムとの比較でSLPの価値を測る傾向も目にしている。プレイヤーコミュニティは、フィリピンペソや米ドルでSLPがどれほどの価値があるかについてはあまり気にかけていないようだ。

私のある友人は、アクシーを初めてプレイした日、数時間で「チキン・ジョイ」3食分のSLPを獲得したと興奮気味に話してくれた。「チキン・ジョイ」とは、フィリピンで人気のファストフードメニューで、すべてのフィリピン人が即座に理解できる、非常に分かりやすい価値単位だろう。

SLPの基礎知識

アクシー・インフィニティにおけるSLPの目的を説明するためには、ノンファンジブル・トークン(NFT)であるアクシーの基礎を説明する必要がある。アクシーは繁殖能力を持つNFTで、大人のアクシーに子作りのムードに入ってもらうためには、SLPがロマンティックな音楽とキャンドルのような働きをするのだ。

SLPを獲得するために、アクシーのオーナーは互いのアクシーを戦わせる。勝者には、賞金としてデジタルな媚薬として使えるSLPが与えられるのだ。しかし、アクシーの繁殖に興味がない場合には、苦労して獲得したSLPを、別の暗号資産と交換に開かれた市場で売却できる。

一部の国々では、SLPの取引高は非常に高く、進歩的なプラットフォームは、ユーザーが現地通貨とSLPを交換できるようにしている。ここフィリピンでは、現地企業の多くがさらに一歩踏み込み、モノやサービスに対する支払い手段としてSLPを受け入れている。

SLPによる支払いは、「Ronin」と呼ばれる専用ウォレットで行われる。このウォレットを使えば、ユーザーは1日に無料で100回の取引を行うことが可能だ。

支払い時は企業が個別で対応する。バイナンスでSLP価格を確認して、顧客にタイムリーなレートを提供する。「得することもあれば、損することもある」というアプローチを採用している一部の企業の場合には、その月のSLPの最安値と最高値の中間当たりで固定の価格を決めることもある。

「フィリピンでは、Roninウォレットを持つ人の数は、クレジットカードを所有する人の数より多い」と、ケ氏は大袈裟に話す。フィリピンにおけるアクシーの成長はここ数カ月、高速で進んでいるが、Roninの普及率は少なくともまだ、それほどではない。

しかし、Roninが幅広く普及するのも時間の問題かもしれない。Roninウォレット間での送金は間違いなく、非銀行利用者層にとってオンライン支払いの便利な方法だ。

フィリピンの中央銀行が思い描いていた形とは違うだろうが、「デジタルが多く現金の少ない社会」に2023年までになるという、同行の目標に向けた大きな一歩である。

ボラティリティ

批判的な人たちは、知名度が低くボラティリティの高いインゲーム報酬トークンが、支払いのために幅広く使われるというアイディアを笑うだろう。IMF(国際通貨基金)が、ビットコイン(BTC)を法定通貨とするエルサルバドルの決断を批判するなど、最近はそんな話がよく聞こえてくる。

しかし、どんな通貨でも「適合性」というのは非常に主観的だ。多くの国がいまだに新型コロナウイルスの影響に揺れている発展途上の地域においては、支払ってくれる客がいることを意味するなら、ボラティリティは価値のある課題だ。

ボラティリティは、ビジネスの中で先を見越して対処できるような課題だが、より広範な不況は、個々のビジネスで先取りして対処できるようなものではないからだ。

SLPでの支払いを受け入れることを選択した企業にとって、その選択は新たにお金を潤沢に持つようになり、派手に使おうと考えている顧客層に対する、抜け目ない対応だ。

平均的プレイヤーの獲得報酬が7月中旬には4000〜6000SLP(現在の価格で520ドル〜780ドル)であり、アクシーが抱える100万人のアクティブユーザーの半数以上がフィリピンにいることを考えると、この新たな顧客層は、長期的で厳しい不況の中で、大半の人たちよりも経済的に恵まれた、急速に拡大するグループである。

彼らに対応しようとする企業としては、彼らが収入を得ているのと同じ通貨でモノやサービスの支払いができるようにすることによって、競争的優位を確保できるかもしれないのだ。

代わりのオプションは、控えめに言っても面倒だ。プレイヤーはまず、ユニスワップ(Uniswap)などの分散型取引所で、SLPをイーサ(ETH)などのより使いやすい暗号資産と交換する。

次に、暗号資産と法定通貨を交換できるサービスを提供する、中央集権型で政府の規制を受けた取引所へと送金する。初期参入者の多くは、そのような複雑な手順を踏むことを厭わなかったが、難しく面倒なプロセスであったし、その都度支払わなければならない手数料についても、快く思ってはいなかった。

フィリピンにおいては、このプロセスを効率化するいくつかのソリューションが登場した。SLPとフィリピンペソの取引ペアを提供する、ブルームX(BloomX)とバイナンスP2Pである。しかし、企業が取引成立の時点で喜んでSLPでの支払いに応じれば、SLPを交換する必要性がそもそもなくなるのだ。

マリラ都市圏のある歯科クリニックでは、7月に対応を始めて以来、すでに5人の患者がSLPで支払いを行なった。

「アクシー・インフィニティーのプレイヤーコミュニティの中には、トレーディングや暗号資産関連の経験がなく、SLPを換金するのを困難に感じている奨学生たちが多くいる」と、このクリニックのスタッフ、ニッコ・アルフォンソ(Nikko Alfonso)氏は指摘する。

「奨学生」とは、自分でアクシーを買うのではなく、プレイに必要なアクシーを借りているプレイヤーのことであり、彼らは、暗号資産の扱いについてすべてを知り尽くしてはいない。「彼らに、歯を健康に保ちながらSLPを使うための方法を提供しているのだ」と、アルフォンソ氏は語った。

強固なコミュニティ

SLPでの支払いに対応している企業は、必ずしも無作為の集団という訳ではない。私が取材した企業のほぼすべてが、熱心なアクシーブリーダーであり、SLP収益のかなりの部分を、アクシーのブリーディングコストに充てている。

彼らにしてみれば、SLPがフィリピンペソに対して価値を失ったとしても、アクシー内での価値は保たれる。そもそも、アクシー内での有用性が主な目的なのだ。

紙幣、さらにはビットコインとは異なり、SLPは内在的な有用性を持つ。それはアクシーの繁殖に使えるからであり、ゴールド(金)や米、ラム酒、タバコなど、歴史上使われてきた、複数の用途を持つ「通貨としてのモノ」的な支払いツールに似ているのだ。

もちろん、アクシーの繁殖を行なっていなければ、SLPの有用性は残念賞にもならないほどだが、このことは、SLPコミュニティの信頼性と、SLPに対する、本当に有機的な需要を強調するばかりだ。

様々な企業に取材する中で、私は彼らが価格ばかりに心を囚われていないことに感銘を受けた。彼らは裁定取引のチャンスをうかがっているのではない。1日の終わりには毎日SLPを売却して、より安定した何かに交換している訳ではない。

最近のSLPの値下がりにも、彼らはほとんど気づいていなかった(5月と7月に記録した0.36ドルの史上最高値から下落し、現在は0.13ドルとなっている)し、どれほど時間がかかっても、アクシーの繁殖に必要になるか、SLP価格が回復するか、それまでSLPを保有する準備はできていると、繰り返し語ってくれた。

アクシーのSLPがゲームの外の世界で独り立ちを始めるに伴い、フィリピンの税務当局の注目も集めることとなっている。税務当局は先日、税申告の義務について注意喚起を行なった。

私の考えではそのような動きは、報酬獲得型ゲームにさらなる正当性をもたらすばかりだ。報酬獲得型ゲームは、普通の人々による暗号資産の使用を、世界でもまれに見るような形で促進している。

このような次世代のユーザーにとって、SLPはコミュニティ開発の秘薬であり、通貨の定義は流動的で、その価値は見る(保有する)人次第だということを示している。

リア・キャロン-バトラー(Leah Callon-Butler)は、CoinDeskのコラムニスト。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Axie Infinity
|原文:Some Filipino Merchants Prefer Payment in Axie’s SLP

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