市場から消えるイーサリアム──取引所保有額が5年ぶりの低水準【Krakenリサーチ】

9月のイーサリアム(ETH)は4000ドル回復が短命に終わり、一時最大で35%のマイナスを記録した。結局、9月はマイナス13%で取引を終えた。ビットコイン同様に中国による暗号資産(仮想通貨)取引サービスの全面禁止などヘッドラインに悩まされた形だ。

しかし、ビットコインと同様に、イーサリアムの長期保有者の数は増加傾向だ。クラーケン・インテリジェンスは、市場に出回るイーサリアムの数が減少することで、年末にかけて上昇相場の再開が期待できる展開となるとみている。

5年ぶりの低水準

取引所が保有するイーサリアム(ETH)とビットコイン(BTC)をみてみると、7月に高水準を記録して以降、徐々に減少傾向にある。7月に高水準を記録した当時は、双方とも年初来の安値をつけていたころだ。

(出典:Kraken Intelligence「取引所のビットコイン保有量(緑)と取引所のイーサリアム保有量(青)」)

DeFi(分散型金融サービス)など新たなイノベーションが席巻する暗号資産業界だが、未だに取引高の多くは、クラーケンなど中央集権型の取引所が占めている。一般的に、取引所の保有量が減るということは、すぐに円やドルなどに交換しようとする投資家が減っていることを意味する。そうした投資家は、長期保有を計画してコールドウォレット(オフラインのウォレット)に暗号資産を移動する。つまり、すぐに売り圧力となる暗号資産が減ることを意味する。

とりわけ取引所が保有するイーサリアムは、9月30日に約5年ぶりの低水準となる1079万ETHまで下がった。同月25日にビットコインは4カ月ぶりの低水準となる1569万BTCをつけたが、売り圧力はイーサリアムの方が急激に下がっている。

今月のバーン(燃焼)

8月5日のロンドンハードフォークで導入された改善案「イーサリアムEIP1559」への注目度が、マーケットで高まっている。

EIP-1559のモデルは、「基本手数料(base fee)」という概念を導入し、取引の優先度を上げるために基本手数料とは別にマイナーに「チップ(Tip)」を支払う選択肢を与えた。肝は、基本手数料の部分はマイナーには支払われず、バーン(焼却)のために使われるという点だ。

どのくらいのイーサがバーンされたかは、イーサリアムの需給に関わる話であるため、マーケット関係者の間で新たな投資材料となっている。

(出典:Kraken Intelligence「EIP-1559とイーサリアム発行量)

EIP-1559導入後、新たに発行された77万ETHの53%にあたる41万ETHがバーンされた。つまり、イーサリアムの純発行額は、EIP-1559がなかった場合の半分未満となっている。

現在、毎分平均して5ETHがバーンされていることになる。

ETHのバーン額をプロジェクト順にみていくと、9月はNFT(ノンファンジブル・トークン)や分散型取引所(DEX)系が上位を占めた。

(出典:Kraken Intelligence「プロジェクト別イーサリアムのバーン額」)

世界最大のNFTマーケットプレイスであるOpenSea(オープンシー)は全体の15%以上を占めた。

NFTやDEXからの需要が低下することがあれば、バーン額も減少することになる。この結果、イーサリアムの「デフレ度合い(他の資産に対する相対的な価値の上昇)」が下がる可能性を意識することも重要になるだろう。


千野剛司:クラーケン・ジャパン(Kraken Japan)代表──慶應義塾大学卒業後、2006年東京証券取引所に入社。2008年の金融危機以降、債務不履行管理プロセスの改良プロジェクトに参画し、日本取引所グループの清算決済分野の経営企画を担当。2016年よりPwC JapanのCEO Officeにて、リーダーシップチームの戦略的な議論をサポート。2018年に暗号資産取引所「Kraken」を運営するPayward, Inc.(米国)に入社し、2020年3月より現職。オックスフォード大学経営学修士(MBA)修了。

※本稿において意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、所属組織の見解を示すものではありません。


|編集・構成:佐藤茂
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