FRB、利上げ撤回はあるか──焦点はインフレから地政学的リスクへ

俳優でプロデューサーのジョエル・ヘイマン氏は24日未明、ロシアがウクライナに侵攻したことでビットコイン(BTC)が3万5000ドルを下回る1カ月ぶりの安値となり、S&P500先物も730ポイント下落した後、「プーチンFRB議長が3月の利上げ中止と量的緩和の延長を発表した」とツイッターに投稿した。

プーチン氏を米連邦準備理事会(FRB)議長と呼ぶ、ヘイマン氏の不謹慎とも言えるツイートは、地政学的な不確実性と資産市場の不安定さによって、緩和政策の巻き戻しをFRBが放棄することを望んでいる今の暗号資産市場のセンチメントを映し出している。

だが専門家はFRBが巻き戻しを撤回するとは考えていない。「FRBが3月の利上げ予定を完全に撤回することは考えにくい」とStack FundsのCOO兼共同創業者、マシュー・ディブ(Matthew Dibb)氏は述べた。「インフレ圧力がコモディティ価格の高騰からも生じることは間違いない。ロシアとウクライナは依然として、貴金属と農産物の最大の輸出国だ」。

実際、状況はFRBにとって板挟み的なものになりつつある。一方では地政学的な不確実性が金融市場の安定と経済に脅威を与え、他方では、世界的にすでに高まっているインフレ圧力にさらに拍車をかける可能性も大きい。

原油は、TradingViewのデータによると、2014年以来初めて100ドルの大台を超えた。ゴールドマン・サックスは、コモディティ価格が急上昇する条件は揃ったと見ている。

「これは最悪のシナリオで、大規模なテールリスク(想定外のリスク)だ」とトレーダーでアナリストのアレックス・クルーガー(Alex Kruger)氏は述べた。「原油や穀物の価格は、長期間、高止まりする可能性が高い」。

だがクルーガー氏は、原油と穀物はコア・インフレ率に含まれていないので、FRBはそれらの価格急騰を無視する可能性があると付け加えた。「FRBの反応を今、測ることはできない。関係者が発言し始めれば感触がつかめるだろう」。

コア・インフレ率とは、総合インフレ率から価格変動が大きい原油と食品の価格を除いたもので、より信頼性の高い指標とされている。

Stack Fundsのディブ氏は、今の問題はFRBが利上げを行うか行わないかではなく、「どの程度」行うかだと述べた。

利上げ回数は少なくなるか

予想よりも利上げ回数が少なくなり、引き締めは緩やかなものになるとの見方もある。

「予定された利上げは行われるだろう…おそらく2、3回の可能性が高い。6~9回の利上げという市場の予想が実現する可能性はほとんどない」と、デジタル資産運用会社Arcaの最高投資責任者(CIO)、ジェフ・ドーマン(Jeff Dorman)氏はコメントした。

23日時点、市場は0.25ポイントの利上げが6回あることを価格に織り込んでいた。だがロシアがウクライナに侵攻したことで、6回の利上げはないという見方が出ている。さらに、市場はすでに2024年の利下げを予想している。

引き締めが緩やかになり、焦点がインフレから地政学的リスクに移るという予想から、ロシアのウクライナ侵攻に対する最初の衝撃が落ち着けば、ビットコインや他の資産価格には、おそらく安堵感からの上昇が生まれるだろう。

「市場はすでに2024年の利下げを織り込み済みで、利上げの影響さえないことを示している」とドーマン氏は断言した。

Jarvis Labsのエコノミスト、ベン・リリー(Ben Lilly)氏は、ロシアとウクライナの緊張はFRBにとっては関心を逸らしてくれる事態と述べた。

「日ごとに、インフレ懸念への注目は小さくなる。また、一般的に地政学的な不確実性はある程度、支出を抑制する可能性がある」とリリー氏はコメントした。「紛争は実際、インフレが過熱する理由をFRBに与えることになるかもしれない」。

|翻訳:coindesk JAPAN
|編集:増田隆幸
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|原文:Russia-Ukraine War Torpedoes Bitcoin; Experts Say Fed U-Turn on Rate Hikes Unlikely