メタバースの中核を担うのはゲームだ【コラム】

作家アーネスト・クラインは小説『ゲームウォーズ(原題:Ready Player One)』の中で、社会、経済、政治的対立によってボロボロとなった現実からの逃避のため、人々が大半の時間を過ごす壮大なバーチャルリアリティの世界を描いた。

デジタル通貨が法定通貨よりも安定しており、プレイヤーは想像できる限りどんな人格でも装うことのできる世界。それが現在、実際に開発が進んでいる世界なのだ。

数年もすれば、どうやってメタバース抜きで生活していたのか、と不思議に思うようになるだろう。今私たちが、インターネットについて感じているのと同じように。メタバースとは、ビデオゲーム、ソーシャルメディア、メッセージ、eコマースなど、私たちの暮らしのデジタル要素を包括的体験へと集約するものだ。

相互につながったネットワークの広範なシステムを通して、2Dのウェブサイトは、インタラクティブで没入的、そしてソーシャルな3Dのウェブスペースへと変容する。

ウェブページをスクロールする代わりに、同じコンテンツを同時に利用している他の人たちを認識できる世界に、遊び、買い物、会話、検索などを一緒に楽しむために私たちは集まっていくのだ。

メタバースには、より生産的で、社会の欠点を補うインターネットとなるチャンスがある。さらにメタバースは、驚くほどゲームに似ている。暮らすことのできる世界を開発することに長けた開発者にとっては、しっかりとした経済的チャンスも提供されるだろう。つまり、ゲーム開発者のことだ。

コミュニティが形成されていくことになるプラットフォームやバーチャル世界は、目に見えないインフラレイヤーとなっていく。ウェブサイトが現在、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)やグーグル・クラウドでホストされているのと同じことだ。

ユーザーは使いやすさ、技術的性能、コンテンツの質に基づいてメタバースプラットフォームを選択する。メタバースコンテンツの作成を極めたクリエーターや、メインストリームユーザーが自らのメタバースコンテンツを作成したり、流通させるのを簡単にするツールを開発するデベロッパーたちが、最も多くのユーザーを惹きつけ、最も価値のあるプラットフォームを築いていくだろう。

ユーザーはコンテンツ(イベント、ショー、eスポーツ)を求めて集まってくるが、共有されるゲーム体験を通じて育まれる社会的つながりを理由に留まっていく。

メタバースの可能性

実世界では文化的規範を理由に本来の人格を隠さざるを得ない人々が、オンラインで自らの個性を表現し、花開くことができる。身体的な障害と思われるものは参加の妨げにはならず、共通の言語が不在でも、コミュニケーションは可能だ。

物理的な障壁を打ち壊すことは、メタバース全体を発展させる好循環を生み出すだろう。イノベーションの中心には常にコミュニティがあり、それは共有されたデジタルスペースでも同じことだ。メタバースは個々人を満足させることができれば、その能力を完全に発揮することができるだろう。

インターネットが私たちの自由時間を奪い取っているのと同じように、メタバースは私たちがぐずぐずと大切な作業を先延ばしにするための主要な逃避先となるだろう。

気軽に空き時間にちょっと足を踏み入れることもあるが、スケジュールが許せば、(あるいは、スケジュールに余裕がないのに、実生活ややるべきことを犠牲にしても)より長時間をゆったりと過ごすことになるだろう。

しかし、メタバースは私たちが期待しているよりも平凡なものになるかもしれない。SF的、未来的、ディストピア的なバージョンの世界というよりは、ずっと現実の世界に似たものになるだろう。

IMVU、ハイ・ライズ・セカンド・ライフ(High Rise Second Life)、フォートナイトなど、すでにメタバースで時間を過ごしている人たちはおおむね、ストリートファッションのような服を買い、かなり普通な見た目の家を建てているのだ。

メタバースは現実の未来版を可能にするが、人間のマインドは、すでに一番よく知っている世界を最も彷彿とさせるような環境に暮らすことを好むのかもしれない。メタバースでは、最高の暮らしができるかもしれないが、それはすでに私たちに馴染みのある姿をしているのかもしれないのだ。

多様性とコミュニティの構築

メタバースは、あらゆるジェンダーの人にとって、同じように魅力的だ。メタバースは文化や地理的境界線を越えていく。メタバースはゲームをプレイしたい人、音楽を作りたい人、交流したい人、単に人間観察をしたい人にとっての居場所となる。

メタバースにはあらゆる人にとっての居場所があるので、この先何世代にもわたって、文化の中心地となると同時に、経済的原動力ともなるだろう。ブランドは大小を問わず、それぞれの顧客層を見つけ、デジタルでのアイデンティティを高めることができるはずだ。

メタバースで現在構築されたり、この先構築されていく新しいブランドは、今ある世界的ブランドにいつか匹敵する存在となり、さらには彼らより成功することすらできる固有のチャンスを持っている。

メタバースで現在最も有名なブランドは、Bored Ape Yacht ClubにRTFKT、GeniesやZed Runなどだ。これらのブランドが、あなたには馴染みがないかもしれないが、それこそが、私たちが言わんとしているポイントなのだ。

メタバースやウェブ3は、新しい事業運営の波の到来を告げている。ウェブ3コミュニティはある意味では、大きな企業ブランドを、コミュニティや利益のシェアに価値を置く暗号資産(仮想通貨)精神に反するものと考えている。

メタバースには、本物であることや高品質を思い起こさせるような独自ブランドが存在する。それらのブランドの多くは非常に新しいものだが、すでに真にグローバルで、過激でカルトのようなファン層を抱えている。

メタバースには、異なるやり方を試すチャンスがある。経済は人々のためになるものであるべきなのだ。その逆ではなく。これが、暗号資産の中核をなす約束だ。

最も価値のあるブランドはメタバースの中で生まれ、メタバースネイティブなものだろう。企業もそれを理解している。例えばナイキは、メタバース戦略の一環として、デジタルスニーカー企業のRTFKTを買収。

言い換えるならば、世界で最もパワフルなブランドの1つが、既存の自社ブランドでメタバースに進出するのではなく、若きメタバースネイティブ企業を買収することで、次世代インターネットでの展開を図っているのだ。

根幹はゲーム

メタバースで皆が一緒にやりそうなことのひとつは、ビデオゲームだ。最初に人々をメタバースへと惹きつける主な活動がゲームであり、何度でも繰り返しメタバースへ戻っていくのも、ゲームのためだ。

そしてある意味では、このような現実のバージョンはすでに到来している。世界中の子ども達はここ10年間、インターネットに完全に飲み込まれている。ゲームをしたり、友達と交流したり、小さなビジネスを始めたり、物品の売買を行うインタラクティブな環境で、時間を過ごしているのだ。

とりわけビデオゲームは、交流の主要形態となった。現在18歳までの子ども達を含む「メタバース世代」は、ミレニアル世代と比べても、テクノロジーに対して非常に異なった期待を持っているのだ。

彼らにとって、メタのフェイスブックは高齢者向けだ。ティックトックは面白いかもしれないが、インタラクティブさに欠ける。ネットフリックスは親と時間を過ごさなければならない時に使うもの。ユーチューブの短時間で常に存在し、コミュニティによって作られたコンテンツが、予め予定を組まれたテレビ番組に取って代わっている。

現代の若者は、親と同じくらいテクノロジー中毒に陥っているが、その消費の仕方は新しいものだ。

これから登場するメタバースゲームは、後から思いついて付加されたものでも、ミニゲームでもなく、メインディッシュなのだ。ゲームはまったく違った様相を呈するかもしれない。

すべてのゲームが、フォートナイトやValorantのように、ファーストパーソン・シューティングゲームとはならないだろう。スーパーマリオブラザーズやパックマンのような昔のゲームに似たもので遊ぶこともあるはずだ。

キャンディクラッシュのような頭を使わないゲームで時間をつぶしてやるべきことを先延ばしにしたり、シムズやセカンド・ライフのような世界を構築することもあるだろう。

メタバースで私たちがプレイするゲームは、その多くがトップレベルのゲームメーカーが開発し、私たちがもっと欲しがるような極めて高品質なものとなるだろう。ブロックチェーン上で開発されることもあるかもしれない。現在、ブロックチェーンによって可能となっているゲームは、その発展の初期段階にある。その数は非常に少なく、ブロックチェーンインフラ自体も開発途上だ。

ゲーム開発者が主役に

メタバースの中核がゲームとなるため、ゲーム開発者達がメタバースの主な設計者となる可能性が高い。ゲーム開発者達はおおむね、コンピューターサイエンスの教育プログラムの最も優秀な卒業者であることが多い。ゲーム開発は非常に複雑なものだからだ。コードを書く人達は、3Dで物事を考えなければならないのだ。

メタバースのドアノブをひねると、そのドアは大きく開く。3Dのアーキテクチャモデルだけではなく、原因と結果を伴う世界だ。ゲームの世界以外のプログラマーで、そのような世界をプログラミングする方法を知っている人は、ほとんどいない。

メタバースを構築できるような開発者達は、コーディングの学校でHTML開発者を量産するように、即座に育成することはできない。つまり、海外や新興市場などからも、ゲーム開発人材に対するより大きな需要が出てくるということだ。そうなれば、独学でゲーム開発を習得できるほど優秀な人にとっては、新たな経済的チャンスが生まれるだろう。

メタバースはある意味、急速に進化しているが、別の意味では、その進展のペースは遅々としたものに感じられる。メタバースというこの新しい環境は、堅固でカスタマイズしやすいゲームの世界から構成されていること、そのような世界は開発やテストに長時間かかるということを覚えおくのが大切だ。

メタバースへの新規参入者が相次いでいることに、私たちは希望を持っている。私たち皆が望むメタバースは、過去の技術的イノベーションに比べて、はるかに高速に進化していくだろう。

ジャニーン・ヨリオ(Janine Yorio)氏は、個人投資家向けオンライン投資プラットフォーム、リパブリック(Republic)の不動産担当責任者。
ザック・ハンゲート(Zach Hungate)氏は、メタバースイノベーション・投資企業エブリレルム(Everyrealm)のゲーム担当ディレクターを務める。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:The Metaverse Will Make Gamers of Us All