ステーブルコインはテラUSD崩壊後も金融システムを特徴づける:S&Pアナリスト

テラUSD(UST)の崩壊にもかかわらず、ステーブルコインは金融システムを特徴づけるものとなり得る。格付け会社S&Pグローバル・レーティングのアナリストらが23日のウェビナーで語った。

最近の市場の混乱によって、価格の安定していないステーブルコインが存在することも露呈したが、世界三大格付け会社の1つである同社のアナリストらは、価格変動が大きい暗号資産(仮想通貨)への架け橋となるステーブルコインは、国際金融や国債貿易を変容させる可能性があると考えている。

米ドルと同じ価値を持つはずだったが、今ではほぼ無価値となったUST。S&Pグローバルの主任エコノミスト、ポール・グルエンバルド(Paul Gruenwald)氏にとって、USTの劇的な暴落は、暗号資産の発行元は、伝統的金融と同じステップを踏まなければならないことを裏付ける証拠となった。

同じルール

伝統的な金融家たちは、価値を維持する能力について虚偽の約束をする通貨を冷酷に食い物にするだろうし、それは暗号資産市場でも同じこととグルエンバルド氏は指摘した。

伝統的金融にも、暗号資産にも「同じようなルールが適用される。信頼が重要であることは同じ」であり、ドルに連動する資産は「その仕組みを信頼できるものにするために、裏付けとなるポートフォリオに、高品質の流動性の高い米ドル資産を持つ必要がある」と同氏は語った。

USTのようなアルゴリズム型モデルはほぼ終わりと述べたのはS&Pのモハメド・ダマク(Mohamed Damak)氏。

「人々はある程度、こうしたタイプのステーブルコインをステーブル(安定している)とは呼べないことを認識したと思う」とダマク氏。実際の資産を通じて価値を確保しているコインでさえも「裏付けとなる資産の質や、監査が誰によって、どれくらいの頻度で行われているかが異なるため、すべてが同じわけではない」。

しかし、ステーブルコインにはまだ未来がある。伝統的銀行システムを使った国際決済はあまりに時間がかかり、コストも高くつくからなおさらだと、S&Pで中国の金融機関の格付けを担当するハリー・フー(Harry Hu)氏は指摘した。

「ステーブルコインはシステム全体に浸透したものになる可能性を持っている。その主な理由は、伝統的金融がイノベーションに遅れをとっているから」(フー氏)

一方、ダマク氏はまた、独自の中央銀行デジタル通貨(CBDC)を発行する国は、貿易の方法を変えることができるとも考えている。

「例えば、A国は、B国がA国のCBDCを国際取引に使用するという条件で、B国の金融インフラ開発をサポートするなら、現在の国際貿易のあり方が変わることは間違いない」(ダマク氏)

今後の課題

これらの分析は、将来的にはデジタル資産が金融システムに必要不可欠な存在になることを示している。規制当局が2008年のような金融危機を引き起こしかねない、あらゆるリスクを根絶しようとするなか、成功にはコストも伴うだろう。

「ステーブルコイン業界が今後、信頼性を確保するには、バランスシート上の資産に対する外部機関による、信頼できる、定期的な監査が必要となるだろう」とグルエンバルド氏は述べた。そうすれば、投資家はステーブルコインには裏付けとなる資産があることを確認できる。

一部のステーブルコイン発行元はすでに、自発的に監査を行っているが、同氏は共和党のパット・トゥーミー上院議員が提案した、監査を義務付ける法案にも触れた。

消費者保護の規制を設けることもできるだろう。暴落した場合、大口保有者の「クジラ」が好条件で取引し、小規模な投資家がそのコスト負担を強いられることを防ぐためだ。

「ステーブルコインの保有者全員が、法定通貨への換金において平等に扱われている訳ではない(中略)条件が不公平になり、システムが操作される危険性が生まれる」(フー氏)

フー氏によると、現行システムでは、暗号資産が暴落したとしても、内部アクセスが可能な人は額面どおりの価格で取引でき、裁定取引のチャンスが生まれる。規制当局は防止する必要があるだろう。

|翻訳:山口晶子
|編集:増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Stablecoins Could Still Dominate Post-Terra, S&P Says