NFTでつながるスポーツファンコミュニティ

ラッパーのジャ・ルール、元NFL(アメフト)選手ティキ・バーバー、俳優のジェリー・フェレーラに共通するのは?実は彼らは皆、スポーツ、ギャンブル、それらに関連するあらゆるものに夢中な人たちから成るNFT(非代替性トークン)を基盤にしたクラブ「Knights of Degen」のメンバーなのだ。

スポーツとギャンブル好きの「騎士」

「時は2088年。有名で古風なスポーツバー『Degen Tavern』には、スポーツに賭け、NFTを取引し、本来の自分でいるために、スポーツファンたちが騎士の格好をして集まっている」とクラブのウェブサイトには書かれている。

暗号資産(仮想通貨)業界ではよくあることだが、馴染みのない人にとって、前述の描写はちんぷんかんぷんに聞こえるかもしれない。そこで共同創設者のドリュー・オースティン(Drew Austin)氏が、もっとわかりやすく説明してくれた。

「ラスベガスのスポーツバーに行ったとして、そこでの理想的な体験はどんな感じ?」とオースティン氏は尋ねる。「くつろいで、友達と会話をし、飲んだり食べたり、スポーツの試合に賭けることだろう」

Knights of Degenのゴールは、そのような仲良くお酒を楽しむスポーツバーでの体験を、オンラインと実世界の両方で再現すること。

仕組みはこうだ。合計で8888個の「騎士」NFTがある。宇宙人やロボット、殴りたくなるような男が、「騎士」として描かれている。このNFTを買うとクラブに加入でき、特典も手に入る。(当記事執筆時点では、最も安いもので0.23ETH、385ドル相当)

オースティン氏がこのNFTを思いついたのは、新型コロナウイルスのパンデミックの真っ只中。友達と同じ話題について繰り返し話していることに気がついた。スポーツ、暗号資産、NFT、賭けごと、そしてさらにスポーツと賭けごとだ。そこでオースティン氏は、「同じような会話をしている人たちが、他にもいるはずだ」と気づいたのだ。

似たような人たちは、確かにいた。2018年にNFTに手を出した暗号資産起業家のオースティン氏によれば、Knights of Degenコミュニティが抱えるメンバーは約3000人。Knightsの売り上げは合計1000万ドルで、14人のチームの給料を払ったり、多くのイベントやパーティー、メンバー向けの特典に使われている。

スポーツファンには夢のよう

メンバーの1人セルソ・ポルト(Celso Porto)氏は40歳で2児の父。セールスとマーケティングの仕事をしている。「これが私の生き方なんだ。日曜日にアメフトを見て、友達とチャットをして」と、ポルト氏は語った。

Knights of Degenは、自分と同類の仲間たちのように感じられた。全米プロバスケットボール(NBA)チーム、ニューヨーク・ニックスの熱狂的ファンのポルト氏は自分でも驚くことに、有名人とバスケについて語り合ったり、元NFL選手たちと(オンラインで)一緒に試合観戦をしたりすることになったのだ。

「(チャットアプリ)ディスコードで、ジェリー(・フェラーラ)とニックスについて話をできるようになったのか、という感じだ」とポルト氏。「ディスコードのイベントは最高だ」と語ってくれた。

独自のスポーツイベントを作り出すこともある。2022年4月16日に開催されたイベントでは、ファンがチームを動かし、メンバーを決定し、プレーの指示までする「ファン・コントロールド・フットボール(Fan Controlled Football)」の第2シーズンの初戦に携わった。

Knights of Degenは1つのチームを部分的に保有しているため、NFT保有者たちが、事実上のゼネラルマネージャーのように振る舞うことができる。Knights of Degenのメンバーの多くは、実際に試合に参加。「皆がモバイルアプリを出して、一緒にプレーの指示を出していたんだ」と、ポルト氏は振り返った。

チームのクオーターバックやオフェンスコーディネーターともリアルタイムで連絡ができた。「私たちのチームのクオーターバックが私にメッセージを伝えてくるので、それを私がコミュニティに伝えた」とポルト氏。アメフトファンにとっては、夢のような体験だ。

Knights of Degenの試合相手は、「Bored Ape Yacht Club」だった。NFTプロジェクト同士が、Web3が現実に出現した試合で対決したのである。

Knights of Degenのメンバーたちはディスコードで交流することが多いが、実際に会うこともある。ニューヨークで開かれたNFTカンファレンス「NFT.NYC」やラスベガス、さらにはNFLの頂上決戦「スーパーボウル」でもパーティーが開かれた。

「ほとんどあらゆる主要なスポーツイベント、主要NFTイベントに参加している」と、オースティン氏は語った。

目指すはディズニー

前述のファン・コントロールド・フットボールのチームは、より壮大な戦略の一部だ。「暗号資産投資家のための、分散型ディズニーのようなものを築き上げたいのだ」と、オースティン氏。

ディズニーは、明確なブランドアイデンティティと知的財産を持ち、テーマパークからスポーツ専門TVネットワークのESPN、『スター・ウォーズ』までを抱え、多岐に成功している。

Knights of Degenは今、2つのスポーツチームを所有している。前述のフットーボールチームと、イギリスのサッカーチームだ。ポルト氏が出演する『The Knight Shift』など、オンラインでの番組作りを行なったり、プレーして稼げるゲームナイトも主催している。

しかし、アメフトだけで終わりではない。Knights of Degenはクラフトビール醸造を手がけるBronx Breweryと連携して、「Degen Haze」という初のビールも発売予定だ。

地元レストランと共に、ソースの制作にも取り組んでいる。オースティン氏によれば、「好きなものにウォッカソースを合わせたもの」で、次のNFLシーズンには、50を超える都市で宅配で頼めるよう準備中だ。

目指すのは、オンラインとオフラインの架け橋。「今では友達と食べたり飲んだり、試合観戦したり、試合結果に賭けたりできるが、大規模にデジタルの友達と同じようにできるようにする」のが目標だと、オースティン氏は語ってくれた。

暗号資産エコシステムの様々な分野については、懐疑的になる理由が山ほどある。あまりにも多くが戯言なのだ。しかし、暗号資産が得意なことが1つある。コミュニティを作り上げ、結束させることだ。

刺激的なコミュニティもあれば、有害なものもあるが、どんなコミュニティでも人々がつながっていて、積極的な関わりがあり、情熱的だ。コミュニティメンバーの唯一の共通点が、猿の絵だけだとしても、それは変わらない。

しかし、スポーツやギャンブルなど、すでに仲間達をつなぐ要素が存在する場合には、Web3がそのコミュニティを一段と強くしてくれるのだ。

コミュニティ的な雰囲気が大好きなポルト氏は、Knights of Degenに加わったことを、自分への滅多にないプレゼントと考えている。「あらゆることを子供達のためにしているから、今度は私の番だ」と、笑いながら語ってくれた。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Knights of Degen/OpenSea(BeFunkyが加工)
|原文:The Degens’ Sports Club