インフレとビットコインを考えると、BTCの真の価値が見えてくる【コラム】

インフレとビットコインを考えると、BTCの真の価値が見えてくる【コラム】

久しぶりに、暗号資産(仮想通貨)以外の話題で騒がしい1週間だった。

多くが話題にしていたのは、次のようなこと。

・バイデン大統領が、公職者ローン返済免除プログラムによって、学生ローンの返済を免除。

・米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が、金融政策の課題を話し合うシンポジウム「ジャクソンホール会議」で、各国の中央銀行トップらと議論。

・クレディ・スイス(Credit Suisse)の短期金利ストラテジストを務めるゾルタン・ポズサー(Zoltan Pozsar)氏が、『戦争と金利(War and Interest Rate)』と題されたリサーチ文書の中で、「大国間で展開中の経済戦争は、ランダムなもので直線的なものではない」と述べて、私たちを怯え上がらせている。

一方、ビットコイン(BTC)がインフレヘッジかどうかを話題にしている人はいない。ありがた(くな)いことに、みんなが話題にしていることのそれぞれが、(少なくともゆるやかに)何らかの形でインフレと関係している。

そこで私は、ビットコインがインフレヘッジかどうかについて、語っていきたいと思う。すべてはインフレに関わっているし、(ビットコインと関係ないものも)すべてはビットコインに関わっているのだから。

学生ローン返済免除はインフレを助長するか?

まずはっきりさせておきたいのだが、アメリカ政府が全員分の学生ローンの肩代わりをする訳ではない。

バイデン政権の発表は、連邦政府の学生ローンを借りていて、かつ年収が12万5000ドル未満の場合には、学生ローンの1万ドル、あるいは2万ドルの返済が免除される、というものだった。

核心的な詳細は色々あるが、これがインフレを助長するかどうかが、この記事での注目点だ。

インフレを助長するだろう、という主張は次のようなものだ。学生ローンの返済を免除することで、アメリカ国民の懐にお金が残り、彼らはそのお金をすぐに使うだろう。即座に消費行動が増大することで、さらなるインフレに大きくつながるはずだ。

一方、インフレを助長しない、という主張は次のようになる。学生ローンの返済を免除することで、アメリカ国民の懐にお金が残り、彼らはそのお金をこの先の人生でじっくりと使っていくだろう。そのようなゆるやかな消費行動の増加は、大きな形でさらなるインフレにつながることはない。

私は個人的に、学生ローン返済免除がすぐにインフレを助長することはない、という主張の方がお気に入りだ。確かに、新型コロナウイルスのパンデミックに対する給付金支給は、すぐにインフレをもたらしたが、3200ドルの小切手を手渡すのと、ローンの返済額が1万ドル減額されるという公式の手紙を送るのとでは、心理的に重要な違いがある。

学生ローン返済免除は、パウエル議長の負担を軽減する?

おそらく、そんなことはないだろう。むしろ、逆のはずだ。バイデン政権による学生ローン返済免除は、表面的にあからさまにインフレを助長するものではないが、FRBのパウエル議長は、80年代に金利を20%まで上げることでインフレを抑え込んだボルカー元FRB議長ほど極端な政策をしないまでも、「大いなる安定期」をもたらしたとして評価されるボルカー元議長のような功績を残そうと探っているようだ。

パウエル議長は26日、ジャクソンホール会議の場で、各国中央銀行トップやエコノミスト、アメリカ国民に対して、「金融引き締め策を時期尚早に緩めることを、歴史は警告している」と発言。

結局のところは、「方針は転換しないままで行く。また方針転換してしまったら、もう信じてもらえなっくなってしまうだろうから」と言ったのに等しい。

パウエル議長(およびFRB)は、信頼を獲得しようとも必死だ。CoinDeskのアダム・B・レヴィーン(Adam B. Levine)記者は先日、鋭く次のように指摘した。

「(金利に関するFRBの)決定は、インフレに対処するのに必要な金利よりはるかに低いままとなることを、歴史は示唆している。1番最近で今と同じようなインフレ水準となった1970年代から80年代にかけての大半において、FRBが設定した金利は8%〜20%と、現在FRBが示唆する金利より何倍も高かった。

つまり、中央銀行と市場が互いに駆け引きをするような展開だが、実際には、提案された解決策が何の解決にもならないのに、問題を解決しようと真剣になっているふりをしているだけのことなのかもしれないのだ」

アダム・レヴィーン氏が自らの推測を組み立てるのに使っているのが「テイラー・ルール」と呼ばれるもの。中央銀行がインフレに効果的に対処できるような水準に金利を設定するのに使われる目安だ。

レヴィーン氏の見立てによれば、テイラー・ルールでは、長期的なインフレ率の高まりが引き起こす行動の変化に対処する出発点として、9%以上になる必要があると示唆される。私もレヴィーン氏の意見に賛成で、市場がもはや政策決定者たちを信じてはいないと感じている。

パウエル議長は苦境に陥っているのだ。

戦争はインフレを助長するか?

ポズサー氏は、戦争がインフレを助長すると考えていると、前述のリサーチ文書で明言している。この文書は全文を読む価値があるが、下記に要約しておこう。

供給が需要を上回っているのは、a)アメリカでの安価な移民労働力、b)中国からの安価なモノ、c)ロシア産の安価な天然ガス、がインフレ率の低さを支えていた世界から、a)移民排斥的な政策によってアメリカでの賃金圧力が上昇、b)中国のゼロコロナ政策で安価なモノの流れに打撃、c)ロシアの対ウクライナ戦争でヨーロッパの天然ガス価格が高騰したことによって、インフレ率が高まった世界へと移行したからだ。

注目すべき部分を、ここに引用しておこう。「国家のリーダーの方が、中央銀行のリーダーよりも重要となる、(中略)戦争経済へようこそ。

ビットコインは救世主か?

インフレは解決していないので、暗号資産(仮想通貨)の中でも期待のインフレヘッジ、ビットコインへと話を移そう。インフレを助長するような要因がまだ存在するなか、投資家たちは自らを守る最善の方法を検討している。ビットコインはその方法となるだろうか?

私には確信が持てない。市場の観点からは、まったくそんなことはない。最近のことを思い出してみても、ビットコインは株価と相関関係を持って値動きしてきた。

株式はインフレヘッジとなるはずではない。ゴールド(金)やコモディティなどのよりリスクの低い資産がインフレヘッジとなるはずなのだ。つまり、ビットコイン価格が株価を追って(あるいは先導して)いることから、ビットコインはインフレヘッジには見えないのだ。

ここで、検討すべき2つのポイントがある。

まず、インフレはもしかしたら、モノの価格が上がることではなく、通貨の価値が下がることなのではないか。何らかのバージョンの次のチャートが、ビットコイン界隈ではとても人気だ。

前年比グローバルM2とビットコイン価格
出典:@mrblonde_macro

流通するお金の量を示すグローバルM2(現金通貨+預金通貨+準通貨+譲渡性預金)が前年比で変化するにつれ、ビットコイン価格もそれを追っているように見える。

つまり、エコノミーが通貨を流通させるに伴って、追加の通貨供給が既存の通貨の価値を薄めるために、ビットコイン価格が上昇するのだ。つまりこれは、ビットコインは通貨の価値の低下(流通する通貨の価値の希薄化)に対するヘッジだという考えを支えることになる。

しかし、データがこの考えを強力に裏付けるものだと、私には確信できない。確かに、上記のチャートには目に見える関係性があるが、アメリカのM2とビットコインの価値の30カ月ローリング相関係数は、マイナスから若干プラスへと転じている(下記2つのチャートを参照)。

統計的には、これでは何もわからない。インフレヘッジとしての最後の到達地点に向かう中、ビットコインが時とともに成熟しているための動きなのだろうか?アメリカ経済が全世界の経済を代弁しないことはわかっているが、それでもこのような関係なのだ。

アメリカのM2の前年比での変化(橙)とビットコイン時価総額の前年比での変化(緑)
出典:FRED、TradingView
 前年比でのアメリカのM2の変化とビットコインの時価総額の変化の相関関係
出典:FRED、TradingView

次に、こちらはもっと具体的なものだが、「国家のリーダーの方が、中央銀行のリーダーよりも重要」な戦争経済に生きているという意見に同意するならば、ビットコインはおそらく、「国家のリーダー」と切り離された存在であるという理由から、投資対象として適しているだろう。

ビットコイン価格が、国家のリーダーたちの行動から影響を受けないと言っている訳ではなく、ビットコインは国家が発行するのではなく、a)特定の国家を必要とせず、b)禁止する中国に抵抗できるほどのレジリエンスを持つ広範なネットワークだと言いたいのだ。

ビットコインがインフレヘッジのように振る舞わなくなったとしても、通貨と国家の分離に賭ける方法として機能するという良さがあるのかもしれない。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Inflation Hedge or Not, Bitcoin’s True Value Is Separation of Money and State

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