ゲーム業界はWeb3を必要としているのか、ゲーマーはどうか?【コラム】

数カ月も弱気相場が続いているが、その前は18カ月近く、強気相場が続いていた。盛り上がりの中心は、NFT(ノンファンジブル・トークン)だった。そして同時に、Web3ゲームに関して注目すべきストーリーも生まれた。

「クリプトキティーズ(CryptoKitties)」などの初期の成功例をもとにWeb3ゲームは、NFTの希少性、暗号資産(仮想通貨)のインセンティブ性、そしてメタバースの実用性を最終的に融合させる究極の目標となった。

だが、暗号資産の歴史の中で最も顕著な強気相場から1年半が過ぎた今、Web3ゲームは多くの人が予想した姿にはなっていない。

ゲーム業界が大きく変化することはなく、市場にWeb3ゲームの輝かしい成功例は存在しない。Web3ゲームの未来は今でも輝いているが、どこを間違えたのかを理解しなければ、輝かしい未来はやって来ない。具体的には、我々は平均以下の製品を、それらを必要としていない業界とゲーマーに押し付けていた。

ゲームに暗号資産は必要ない

従来のゲーム業界は絶好調。2022年の市場規模は2220億ドル(約30兆円)。今後4年間だけで約50%の成長が予想されている。ここにWeb3は考慮されていない。

ゲームのイノベーションは、Unrealなどのゲームエンジン、AR(拡張現実)ソフトウェア、VR(仮想現実)ハードウェアなどによって猛烈な勢いで進んでいる。

一方、Web3のイノベーションのペースを考えると、現在のインフラをAAAゲーム(莫大な開発費を投じた大作)に対応できる演算能力にまでスケーリングすることはできない。

これは驚くようなことでもなければ、Web3が求めるレベルまで永遠にスケーリングしないことを意味するわけでもない。しかしこれは、暗号資産業界は業界のインフラニーズに合わないテクノロジーを市場にもたらそうとしていたことを示している。

我々はWeb3ゲームが爆発的な成功を収めることを望んでいた。だが現実には、ゲーム業界はまだブロックチェーンテクノロジーを必要としてはいない。

ゲーマーは必要としているかも

Web3ゲームを支持する最も一般的な議論は、上記の理由からインフラの能力に焦点をあてていない。むしろ、Web3ゲームの評価は、ゲーマーに、リッチで、完璧なゲーム体験を提供することにかかっている。例えば、以下のようなものだ。

「ブロックチェーンテクノロジーを基盤としたゲームは、ゲーマーに真の資産所有、経済的チャンス、ゲームメーカーとのクリエイティブなフィードバックループなどをもたらす」

ゲームの歴史は、ゲーマーが愛する業界に騙されたと感じた事例で溢れている。Web3の主権とコラボレーションの原則は、ゲーマーが時間とコミットメントを注いだゲームから、より多くの恩恵を受け取る方法を提供できる。

そうしたストーリーにも関わらず、前回の強気相場の始まり以来、Web3ゲームの最も声高な批判者は、ゲームメーカーではなく、ゲーマーだった。がっかりするようなゲームのクオリティから、あからさまな詐欺まで、あらゆる理由でWeb3ゲーム支持者に辛辣な批判を浴びせてきた。

ゲーマーとWeb3が、コアな価値の部分で同じ方向を向いていたとすれば、なぜその関係はここまで緊張したものになったのだろうか?

ゲームのクオリティ

最も成功したWeb3ゲームは何かと問われれば、その答えはおそらく「アクシー・インフィニティ(Axie Infinity)」「DeFiキングダム(DeFi Kingdoms)」「ウルフ・ゲーム(Wold Game)」などだろう。

これらのゲームは、強気相場の間にきわめて大きな注目(と資本)を集めた。しかし現実にはこれらのゲームは、デザインとゲームミフィケーションのうわべをまとったDeFi(分散型金融)アプリに過ぎなかった。

牧場を舞台としたRPG「スターデューバレー(Stardew Valley)」のようなゲームが持つ忠実さ、シナリオ、美しさに慣れた従来のゲーマーなら、「DeFiキングダムはゲームの未来」と言われれば間違いなく苛立つだろう。

強気相場の間に市場に展開されたほぼすべてのWeb3ゲームは、ゲーム開発においてよく知られたルールに違反していた。体験を過度に金融化してはいけない、というルールだ。

ゲーマーは過去に、この点について明確に意思表明している。2012年、ディアブロIII(Diablo III)は、ゲーム内にオークションハウスがあり、開発元のブリザード(Blizzard)に取引の一部がキックバックされる仕組みになっていた。ゲーマーはこの仕組みに激しく抵抗し、次のアップデートでは完全に削除された。

教訓はきわめてシンプルだ。ゲーマーはゲームの内容とクオリティより、収益化が優先されることを嫌う。ほぼすべてのWeb3ゲームは、実は金融アプリケーションだった。そしてゲーマーはそれにすぐに気づいていた。

ただし、例外があったことも指摘しておこう。NFTトレーディングカードゲームだ。トレーディングカードゲームのWeb3バージョンは、かなり成功を収めた。従来のカードゲームにもトレーディング、売買、希少性など、基本的に金融的な要素があったからだろう。

Web3は、コンセプト的にはゲーマーが求めていることからズレているわけではない。だがゲーマーがWeb3のメリットを考え始める前に、何よりもまずゲームの内容とクオリティが優先されなければならない。

次なるレベル

最近の弱気相場で、ゲーマーは痛手を負わなかった。Web3はゲーマーの日々の暮らしに大きな影響を与えておらず、愛するゲームやゲームメーカーの優先順位のシフトに対処する必要はなかった。

しかし、ゲームのエコシステムも、Web3のエコシステムもイノベーションが続く。Web3インフラがWeb2の能力に追いつくにつれて、ブロックチェーン基盤のゲームは市場に再び登場するだろう。そうしたゲームはゲーマーコミュニティを引きつける必要がある。

ゲーマーは何よりも、楽しく美しいゲームを求めている。ストーリーに没頭したい。経済的な仕掛けを常に思い起こさせられることは、没頭を妨げ、ゲーム体験を台無しにする。

Web3ゲームが成功するためには、何よりもプレーが楽しいものでなければならない。簡単に聞こえるだろうが、Web3ゲームの最新事例を見ると、まだまだ学ぶべきことは多いようだ。

エベレット・マジー(Everett Muzzy)氏は、暗号資産プロジェクトやWeb3参入を進める企業にマーケティングやリクルーティングサービスなどを提供するセロトニン(Serotonin)のコンテンツ・コミュニティ・ソーシャル担当バイスプレジデント。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:The Gaming Industry Doesn’t Need Web3, but Gamers Might