ビットコイン、FTXショックで中期レンジを下抜け──復調余地はあるか?【bitbankレポート】

10月の米雇用統計で失業率が上昇したことを受けて、12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ幅縮小期待が台頭し、11月のビットコイン(BTC)は2万1000ドルを回復して始まった。

一方、FTXの姉妹企業でヘッジファンドのアラメダ・リサーチの保有資産が、FTXが独自に発行するFTTトークン(以後FTT)で大半が占められていたことが2日にリークされると、バイナンスのCZこと、チャンポン・ジャオCEOが、同社が保有するFTTを売却すると発表。これを受けてFTT主導でビットコインも上値を重くした。

アラメダは、当初25ドル付近で取引されていたFTTを22ドルで買い支えるとしていたが、8日にFTTがあっさりと同防衛ラインを割り込み大暴落を演じると、ビットコインも連れ安となり、それまでの年初来安値(約1万7700ドル)を更新し1万5700ドル近辺まで下落した。

これにより、ビットコインは6月から続いたレンジの下限を下抜けしたわけだが、10日に発表された10月の米消費者物価指数(CPI)が市場予想を下回ると、米国債利回りが急低下し、ビットコインは大幅反発を演じた。もっとも、FTT急落と顧客からの大量出金要請に耐えきれなくなったFTXは14日にNYでチャプター11(連邦破産法11条)の破産申請書を提出すると、出資や買収といった形で同社と繋がりのあった企業に影響が波及し、買いは続かずだった。

その後、混乱の最中にFTXから資金を不正に引き出したハッカーが、盗難したイーサリアム(ETH)の売却を始めたことで、実質的な市場への売り圧力を生み、ビットコインはイーサリアムに連れ安で9日の安値をわずかに割り込む場面もあったが、来年の夏に半減期を控えるライトコイン(LTC)相場の急伸に連れ高となり、窮地をなんとか脱した。

ビットコイン 対ドル日足チャート/bitbank(Glassnodeより作成)

テラショックとセルシウスショックに続き、今年3度目のショックが起きたわけだが、FTXは過去の著名な不正流出事件の被害額を圧倒的に上回る、1兆円超の資金不足と言われている他、関連企業への影響や、今後、各国の規制にも大きな影響を与え得る出来事となった。

一方、ビットコイン相場の動きを見ると、FTXショックの影響はそれほど大きくなかったことがわかる。安値ベースでの今年の3大ショック後の相場の下落率は、それぞれ約-23%、-30%、-11%となっており、業界への潜在的インパクトと比例していないようにうかがえる。これを「相場は下げ足りない」と見るか否か、率直に言って難しいところだ。

ビットコイン 対ドル日足チャート/bitbank(Glassnodeより作成)

ただ、セルシウスショック以降のビットコイン相場は徐々にボラティリティが低下し、先月も指摘の通り、短期かつ投機的な取引も細り、長期的な弱気相場により潜在的な売り圧力も減っていたことが指摘される。

また、セルシウスショックをきっかけに投資信託からの大量の資金流出が起きており、6月を境にかなりの投資家が市場からエグジットしたことで、FTXショックの相場への影響が限定された可能性も否定できない。

Purpose Bitcoin ETF、The Bitcoin Fund、CoinShares Bitcoin ETFのビットコイン保有残高チャート/bitbank(Glassnodeより作成)

また、FTXショックという業界を震撼させるイベントの直後でも米CPIの低下にビットコイン相場が反応し、反発していたことにも注目したい。

今年の夏までは積極的な利上げを推し進める姿勢を崩さなかったFRBメンバーだったが、足元では利上げペースについて慎重論が増えてきており、11月のFOMC(米連邦公開市場委員会)議事要旨では過半数の会合参加者が、近々、利上げペースを縮小することが適切であると合意していた。

それ以外にも、ターミナルレートについて具体的な発言や、利下げが開始できるタイミングについての発言も出始めており、FRBの積極的な利上げのサイクルは一つの潮目を迎えていると言える。市場の予想通り、12月のFOMCでの利上げ幅が50ベーシスポイントに縮小されれば、市場の注目は一層ターミナルレートの水準に向かい、リスク選好度は上向くと指摘される。

4カ月続いたレンジを下抜けしたビットコインだが、足元の水準から復調する余地は、依然、残されていると見ている。


長谷川友哉ビットバンク(bitbank)マーケット・アナリスト──英大学院修了後、金融機関出身者からなるベンチャーでFinTech業界と仮想通貨市場のアナリストとして従事。2019年よりビットバンク株式会社にてマーケットアナリスト。国内主要金融メディアへのコメント提供、海外メディアへの寄稿実績多数。


|編集・構成:増田隆幸
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※編集部より:当初、執筆者のお名前を誤って掲載しておりました。誠に申し訳ありません。訂正して更新いたしました。