暗号資産、5G、スターリンク:現代版「電流戦争」がブロックチェーンに問うこと【コラム】

米通信大手ベライゾン(Verizon)は政府から5Gアップグレードの契約を勝ち取ろうとしている。ブロックチェーンスタートアップは暗号資産マイニングのインセンティブを備えたルーターの配備を進め、イーロン・マスク氏はロシアの侵攻と戦うウクライナのために衛星ブロードバンドインターネット「スターリンク(Starlink)」を提供している。

ブロードバンドとIoT(Internet of Things:モノのインターネット)の世界は、企業、イデオロギー、先見の明のある人たちにとって、新たな戦場だ。

ソリューションが単一のものになるか、複数が並立するかはまだわからない。だが、相互運用性のための新しい技術的フレームワークのプログラムには、イデオロギーが組み込まれるだろう。

暗号資産や自由を支持する人たちは、分散化が原則として大切にされることを確実にし、分散型ユビキタスネットワークという物理学者で発明家ニコラ・テスラのビジョンを実現・拡大させるために協力しなければならない。

テスラのビジョン

1800年代後半、トーマス・エジソン、ニコラ・テスラ、ジョージ・ウェスティングハウスは、電気の未来をめぐってイデオロギーの戦いを繰り広げた。

テスラとウェスティングハウスによる、広く普及したAC(交流電流)電力システムに脅威を感じたエジソンは、DC(直流電流)発電所を建設する一方、ライバルの評判を貶める容赦ないPR作戦を展開した。

3人が自らの製品を大急ぎで市場に展開し、それを支えるインフラを整備するなか、ニューヨークなどの主要都市にアーク灯(放電灯:白熱電球の前に電灯として普及した)を設置したBrush Electricity Companyなど、周辺業界の企業もマーケットシェアをめぐって争った。

結局、ACシステムが勝利を収め、あらゆる電気の基準となった。ここに、新しいアーキテクチャを開発する人にとっての大切な教訓がある。最高のテクノロジーは広く普及した場合にのみ、勝利を収めることができる。

ACシステムを開発した後のテスラは、その後、人生の大半をワイヤレス送電による革命に費やした。世界中にワイヤレスで電力を供給するタワーを建設し、巨大な発電機から世界中のあらゆる場所に電力を届けようとした。

ロシアにある「テスラ・コイル」(Shutterstock)

J・P・モルガンをはじめとする投資家たちは当初、ACシステムでの成功をもとにテスラの取り組みを支援していたが、その後、資金提供を打ち切った。エジソンとの「電流戦争」の際に衝突した大企業から独立し、エンドユーザーに電力を供給するシステムは、当時、多くの人にとってはあまりに急進的であり、技術もまだ未完成だったためだ。

新たなフロンティア

テスラは無一文でこの世を去ったが、世界中に建設したタワーを使った、分散型ワイヤレスシステムによるユビキタスエネルギーという彼のビジョンは、科学者や起業家、世界のリーダーたちにインスピレーションを与えている。

起業家たちは、そうしたシステムを構築する際のインセンティブの仕組みを慎重に検討しつつ、新しいシステムを自らのインフラに取り込もうとする中央集権型組織に抵抗しなければならない。とりわけブロックチェーン業界は、こうした企みに抵抗するユニークなポジションにある。

イーロン・マスク氏がウクライナにスターリンクを提供していることは英雄的行為ではあるが、同氏の動きには起業家たちが注意すべき警告も含まれている。

スターリンクが配備された後、マスク氏は当初の提案を撤回し、米防総省が費用を負担しなければ提供をやめると述べた。その後、マスク氏は発言を撤回し、スターリンクの提供を続けることになったが、このような態度の転換は、地政学、利益、ビリオネアの思いつきに基づいたインセンティブの仕組みを明らかにした。そして数百万人もの無邪気な人たちは突然、そうした仕組みに縛られていることを知った。

ブロックチェーンをインフラに適用

中央集権型の既得権者と国家権力の怪しげな関係という点では、マスク氏だけが例外ではない。大手通信企業は日々、数百万人ものユーザーデータを政府組織に提供している。

ブロックチェーンテクノロジーの元祖ユースケースとしてビットコインは、社会経済的階級や出身国にかかわらず、誰もが自らのお金をカストディ(保管・管理)できるようにする。IoTデバイス、ブロードバンド、通信インフラにブロックチェーンテクノロジーを適用すれば、監視を受けずに最新のインターネット/電話サービスにアクセスできるパワーをはじめ、より普遍的なデジタルでの権利を人々にもたらすことができる。

現在の「開発者市場」において、ブロックチェーン開発者や起業家たちは、ここ数年、残念ながらこの業界を特徴づけた投機的なデジタル資産バブルではなく、通信、ブロードバンド、IoTでの展開に、もっと関心を払う必要がある。

分散型ワイヤレスネットワークのためのルーター設置でも、相互運用可能なプログラム作成でも、暗号資産コミュニティは分散化の原則をこれらの次なるフロンティアに適用し、テスラが描いたユビキタスネットワークがAC(交流電流)という世界標準と同じ規模で実現するよう、力を合わせるべきだ。

ティム・クラブチュノフスキー(Tim Kravchunovsky)氏は、分散型ワイヤレスインターネットを手がけるChirpの創業者兼CEO。コロンビア大学で修士号を取得し、ネットワークエンジニアとして20年を超える経歴を持つ。世界銀行の顧問を務めた経験もある。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Starlink, Verizon 5G and Crypto: What the New ‘War of the Currents’ Means for Decentralization