マスク氏とツイッター:ソーシャルメディアが抱えるジレンマ【コラム】

イーロン・マスク氏がツイッターを買収する。

いや、今回は本気だ。本当に。たぶん。

インターネットの一角では、イーロン・マスク氏がツイッターを買収する意向を改めて示したことが、祝福されている。しかし、その理由は心配になるようなものだ。

マスク氏がツイッターをユーザーにとってより良い会社にしてくれるからではなく、政敵に対する武器として、440億ドルの新しいおもちゃを使う(と一部の人は考えている)からだ。

「イーロンが新しいボスになることをあまり快く思わないツイッタースタッフ。

マスクは今や、リベラルたちを手中に収めた」

リベラルを手中に収めることが、善か悪かはひとまず脇に置いておこう。真の問題は、ことによると1人の人間が、これほど重要な公開の対話の場をコントロールできてしまうということだ。

マスク氏は誰がツイッターを使えるか、使えないかを決定する個人的権力を持つことになるかもしれない。そうなれば、アメリカだけでなく世界中で、市民の意見に大きな影響力を行使できる。市民にとっても、企業としてのツイッターにとっても、これは悲惨な事態となり得る。だからこそ、買収が実現しないかもしれないのだが。

ツイッターのようなサービスは、少し常軌を逸したビリオネアによる乗っ取りなどを含め、単一障害点を持つべきでないというのが、極めて大切なポイントだ。

多くの専門家は少なくとも理論的には、ツイッターのような中央集権型でコントロールされた「プラットフォーム」から、プラットフォームを超えた移動ややり取りを可能にする開かれた「プロトコル」へのシフトを支持している。EメールやRSSフィードが、現在のデジタルコミュニケーションにもたらしているメリットと同じことだ。

しかし、そもそもあなたは、「イーロン・マスクってもうツイッターを買収したんじゃなかった?」と思っているかもしれない。

確かに混乱させられる展開だ。マスク氏は最初、4月にツイッター買収の意向を表明した。上場企業が運営するソーシャルメディアサイトで、特定の人がブロックされたり、追放されたりすることに憤りを感じていたからだ。

その後、買収提案を撤回。おそらく株式市場が低迷したからだが、もしかしたらそもそも買収提案が、150億ドル近くのテスラ株売却を目立たなくするための作戦であり、雇っていた弁護士が無能だったからかもしれない。正直言って、はっきりしないのだ。

マスク氏は買収協議を終わらせるために、ボットについて薄っぺらな主張でツイッターを提訴し、今月には審理が開始される予定だったが、もしかしたらついに、自らの弁護士の無能さに気づいたのかもしれない。当初の提案通りの440億ドルで買収する意向を改めて表明し、ツイッター株は4日、25%近くも高騰した。

皮肉なことに今回は、マスク氏の真剣さを信じる理由がある。ツイッターで表明したのではなく、ツイッターに書簡を送り、それをツイッターが米証券取引委員会(SEC)に提出したのだ。

「編集上の」問題

では、プロトコルとプラットフォームに話を戻そう。ツイッターをはじめとするソーシャルメディアサイトが直面している根本的な問題は、彼らが少しずつ、ドナルド・トランプがツイートするのを許すのかといった大きな問題も含めて、編集上の決定を行うことを迫られている、ということだ。ちなみにマスク氏は、トランプ元大統領のツイッター復帰を認めると発言した。

マスク氏は、ワクチンやその他の新型コロナウイルス対策に対する懐疑論への取り締まりを含め、ツイッターの「検閲」を批判している。

マスク氏が、コンテンツモデレーションをしっかりと理解していないと思わせる理由があるのだが、それはある程度、もっともなことだろう。彼はどうやら、できる限りモデレーションを最小限に抑えたいのだ。

しかし、ツイッターが企業である限り、2つの理由からそれは難しい。

まず、好むと好まざるとに関わらず、ツイッターは自社サービスを通じてどんなコンテンツが閲覧可能かをコントロールする力を持っている。それはつまり、少なくとも、子供を搾取したり、暴力を助長するようなコンテンツをブロックする法的、倫理的責任を負うということだ。究極的には、人間がその線引きをする必要がある。

次に、上場していようがなかろうが、ツイッターは営利企業であり、特定の人物、行動、コンテンツをブロックすることが事業全体にとって良いと判断したのだ。

例えば、合法性を別にして、トランプ元大統領を追放することで、ユーザーの大部分にとって、ツイッターはより良い場となった。そして、マスク氏はおそらく、巨額の買収額の元を取るために、ツイッターの収益を必要とするだろう。つまり実際にもう手を引けない状況になれば、現状を変えようとする彼の意欲も萎んでしまうかもしれないのだ。

言論の自由

このような状況は、無制限な言論の自由を約束するツイッターやその他企業にとって、深刻なジレンマを生む。この問題は、「言論の自由党の中の言論の自由派閥」から、現状のようなプラットフォームへとツイッターが凋落していくところを見ていなければならなかった創業者の元CEOジャック・ドーシー氏にとっても、痛みを伴うポイントであった。

マスク氏が買収を発表する前、ドーシー氏はマスク氏に対して、ツイッターを劇的に新しい形に作り替えるよう働きかけていた。

「ツイッターはプロトコルとしてスタートした」と、ドーシー氏は3月、マスク氏にメッセージを送った。「企業になるべきではなかったのだ。それがそもそもの過ちだった」と。

幅広く受け入れられたソーシャルメディアプロトコルは、モデレーションとコンテンツのホスティングを分離することで、コンテンツモデレーションのジレンマを解決しようとする。

異なるクライアントが、同じ一連の投稿に、異なるフィルタリングやランキングアルゴリズムを適応できるようにする、ということだ。Eメールサービスによって、スパムの振り分け方が異なるのと同様である。

これによって、異なるアルゴリズムに基づいて、異なるビジネスモデルを試すことができる。そうすれば、ツイッターやその他のコンテンツホスト企業は、物議を醸す際どい問題に対して責任を負うことなく、最小限のコンテンツモデレーションだけを行えば良い。

しかし、それを実現するための現実的な道筋はあるだろうか?ドーシー氏は2019年、ツイッターがブルー・スカイ(Blue Sky)と呼ばれる、「ソーシャルメディアのオープンで分散型の規格」を作るための「少人数のチーム」を立ち上げると発表。ツイッターは信頼できるプロトコルを導入する影響力や規模を持っているが、この件に関して、あまりアップデートはない。

ワールド・ワイド・ウェブ・コンソーシアム(W3C)を通じて企業が連携して規格に取り組むという、より物議を醸しそうなやり方は、何年もほとんど動きがない。

簡単に言って、企業はウォールドガーデンを築くことが、ソーシャルメディアから利益を出す最善の方法と結論づけたのだ。

オープンソーシャル規格を生み出すために、ブロックチェーンを使うという道もあるが、実際的にはウェブ3コミュニティは、ツイッターやW3Cと同じくらい成果を生み出せてはいない。

ブロックチェーンベースのオープンソーシャルレイヤーを作るための、最も有名な試みは、あまり構想の良くないもので、流行語に乗っかった金儲けの企みとあまり変わらないものとなっている。レンズ・プロトコル(Lens Protocol)など、より信頼できるプロジェクトもあるが、それらを拡大させることは、長く先の見えないプロセスだ。

しばらくの間は、これまでよりもさらに、イーロン・マスク氏の世界に多くの人が暮らすことになりそうだ。おそらく。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Soumyabrata Roy / Shutterstock.com
|原文:Elon Musk, Twitter and the Social-Media Double Bind