アート界はNFTを過小評価している【オピニオン】

アート界はNFTを過小評価している【オピニオン】

「これはアートか? 確かに魅力的な人たちだが『アーティスト』という肩書きには値しない。ペテン、詐欺で、アートの歴史と美の伝統を危険にさらしている」

2022年にNFTについて行われた議論のように聞こえるかもしれないが、これは実際は、今ではあらゆる美術館にコレクションされているアール・ブリュット(アウトサイダー・アート)について1940年代に行われた議論だ。

現在のアート市場は、NFTを批判し、一時的ブーム、あるいはバブルと見なしている点で当時と似ている。さらにNFT市場の突然の下落、FTXによる詐欺、教育不足、一部の暗号資産支持者の傲慢さも、アートの世界がNFTにバブル以上の意味を見出すことができない要因となっている。

だが、そのような考えは間違っている。一般的な認識とは異なり、NFTはアートではない。しばしばNFTの事例として取り上げられる、セレブが大金を出しているJPEG画像はなくなっていくだろう。しかし、アート作品が本物であることを証明できるテクノロジーは残るはずだ。

デジタルアート、クリプトマネー、ブロックチェーンテクノロジーの融合によって、アートのエコシステムに深い構造的変化が生まれるだろう。

コレクターは、ブロックチェーン上に登録されていない作品を購入しなくなる。アーティストは、作品を自らもっとコントロールできるようになり、再販された場合にロイヤリティを獲得できるようになる。より多くのコレクターが、透明性のある市場に集まり、アート市場はより規制された、より良いものになる。

アーティストのの変化

アーティストの役割について考えてみよう。すべての作品が、アーティストによってブロックチェーン上に登録されることは、あり得ない話ではない。そのような作品が取引された場合、アーティストはロイヤリティを獲得できるだけでなく、新しい所有者が誰かを知ることもできる。

アーティストは、作品の宣伝や本物であることの証明に関してギャラリーに大きく依存することなく、もっと独立して仕事ができるようになる。その結果、アーティストが作品から得られる収入は増える。

伝統的には、アーティストとギャラリーは収益を半々で分けてきた。NFTの世界では、アーティストが90%受け取っており、このどこか中間に落ち着くことになるだろう。さらにアーティストやその相続人はロイヤリティ収入を受け取ることができる。

アーティストはさらに、新しい収入源も手にする。例えば、コミュニティの一部を、追加サービスや独自コンテンツ、優先アクセスなどを提供できる有料のメンバーシップ制にできる。

権力構造の変化

このようなコミッションの変化に伴って、権力構造にも変化が訪れるだろう。1930年代のエンターテイメント業界と同じように、アートの世界の権力も、流通側(ギャラリー)からクリエーター(アーティスト)へとシフトするはずだ。

アーティストがより独立性を持つことには、責任も伴う。コレクターがアーティストと直接やりとりする世界では、アーティストが作品作りに忙しい時には誰が作品の販売を行うのか?

新しい体制を支えるためには、アーティストは起業家精神を身につけ、新しいタスクをこなせるようになる必要がある。

多くのスタッフを雇う人もいれば、販売、宣伝、サポートなどを引き受けるギャラリーと喜んで取引をする人もいるだろう(こうした仕事は、現在、ギャラリーが担っている仕事だ)。だがいずれにせよ、権力構造は変化する。

新しいアートシステムの発展によって最も影響を受けるのはコレクターだ。仲介業者の役割が縮小するため、アーティストとより密接で直接的なやり取りが可能になる。

すべての作品がブロックチェーンに登録されれば、コレクターは現在価格、過去の価格など、比較対象となる価格を知ることができ、今よりも安心して作品を購入できるようになるだろう。

作品の真贋に関する情報がより明確でアクセスしやすくなるため、多くのコレクターが市場に参入するはずだ。伝統的市場で作品を販売することは現在きわめて困難で、常に仲介業者を必要とする。NFTを使えば、販売プロセスははるかにシンプルになり、取引スピードもはるかに速くなる。つまり、投資リターンをより簡単に得られるようになる。

変化に抵抗するアート市場

そうなると、アート市場はまったく様相の異なるものとなり、現在の主要プレーヤーはすべていなくなるのだろうか? そんなことはない。アートの世界の変化には、時間がかかるからだ。またアート市場の聖域は、すでに確立した関係性に依存しているため、そのまま残るはずだからだ。

だがいずれ、ピカソの作品が人気NFTアーティストのBeepleの作品に取って代わられ、美術学修士プログラムの卒業生は主にデジタルアーティストになるのだろうか? こちらもノーだ。絵画がなくなることはなく、デジタルアートは市場の中で小さなシェアを占め続けるだろう。

現在のNFTブームの中で、有名美術館のコレクションにまで登り詰めるものは、ほんの一握り。残りの大半の作品は、バブル前と同じくらいの状態に戻っていくだろう。

NFTとブロックチェーンテクノロジーの強みは、より良いアート市場、より公平で平等、民主的な市場へのシフトへの貢献だ。より魅力的で、排他性は小さくなり、透明性のある市場は、新規参入者の多くを買い手へと変化させるだろう。

アート関連の組織は、NFTやその基盤となっているテクノロジーがもたらす機能から、大きな恩恵を受けることができる。コミュニティとより強く関わりを持ち、参加やガバナンスへの関与を通じて、コミュニティに所有権を渡すこともできる。

もちろん、アート業界の変化の可能性を快く思っている人ばかりではない。しかし、兆候はもう見えている。伝統的アート業界がゆっくりと廃れていくというノストラダムス的予言は早すぎるだけかもしれない。私たちは、新しい時代に入っていくだけだ。アートの世界はそのことを受け入れ、ウェブ開発者と伝統的なアート関連の組織が連携していく時だ。

マグナス・レッシュ(Magnus Resch)氏:イェール大学で芸術経済学を教えている。共著に「How To Create And Sell NFTs. A Guide For All Artists」。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像: Anton_Ivanov / Shutterstock.com
|原文:The Art World Underestimates the Power of NFTs

おすすめ記事: