アフリカ最大国のお金とクリプト事情:ナイジェリアで唯一稼働するビットコイン・ライトニングノードを動かす「Megasley」の正体

アフリカ大陸で最大の経済規模を誇るナイジェリアで、同国では唯一稼働可能な「ビットコイン・ライトニングノード」の稼働がスタートした。中古で手に入れたディーゼル発電機と、HP製のノートPCを使い、ビットコインブロックチェーンのセカンドレイヤーで決済を行うためのノードが1月から、同国最大の都市・ラゴスで動き始めた。

この取り組みを開始したのは、ツイッターやテレグラムで「Megasley」のユーザーネームを持つナイジェリア南部で生まれ育った20代。「アフリカン ビットコイナー(African Bitcoiners)」というグループに所属し、仲間と共同でナイジェリア南部のラゴスにライトニングネットワークのノードを立ち上げたと、Megasleyは話す。

Megasleyが利用している中古のディーゼル発電機/写真:Megasley提供

ビットコインの詐欺被害者がノードを動かす

ライトニングネットワークは、ビットコインブロックチェーンのレイヤー2ソリューション。ビットコインブロックチェーンのブロック処理には時間がかかるため、一度に少数の取引しか実行できない。ライトニングネットワークは、取引をより効率的に行うため、ユーザーが作る少額取引チャネルを活用する。このネットワーク上のノードは、チャネルを開閉したり、送金の実行・中断を行う。効率的なルートで送金を中継できれば、手数料から報酬を得ることができる。

Megasleyがビットコインを知ったのは2015年。きっかけはビットコインの投資詐欺にあったことだった。それでも2021年には、仕事の報酬をビットコインで受け取るようになり、ビットコインについて多くを学ぶようになった。

「ビットコインの普及はナイジェリアを含むアフリカの各国で広がり、そのペースは増しているだろう。脆弱なアフリカの法定通貨、信頼できる伝統的金融機関の不在、簡単に海外送金することすらできない環境と、ビットコインがアフリカ中で普及する理由は明らかだ」とMegasley。

「アフリカに住む僕たちには、ビットコインのような分散型デジタル通貨を必要とする理由があるし、ビットコインから受ける恩恵は世界の他の地域よりも大きいのだと思う」

高インフレと不安定な法定通貨に揺れるWeb3都市:ラゴス

ナイジェリアのGDPは4420億ドル(2021年)で、アフリカ大陸に存在する55カ国の中では最大。南アフリカが4180億ドルで2番目に大きく、4030億ドルのエジプトがその後を追う(Statistaのデータ)。ナイジェリアの首都は内陸にあるアブジャだが、同国の経済と金融をけん引しているのがラゴス市。

過去5年、暗号資産(仮想通貨)取引所やブロックチェーンを活用したスタートアップが多く設立され、アフリカの「Web3のハブ」になろうとしているのがギニア湾に面した都市、ラゴスだ。

2022年には、同国に拠点を置く暗号資産取引サービスや、ブロックチェーンを活用した決済サービスを開発するスタートアップが相次いで大型の資金調達ラウンドを行った。決済サービスのBitmama、暗号資産取引とウォレットのYellow Card、ブロックチェーン上で金融サービスを展開するCanza Financeなどが、ベンチャーキャピタルの投資意欲を強めた。

「暗号資産の冬」と呼ばれる弱気相場が続いた昨年、ナイジェリアはWeb3経済におけるプレゼンスをさらに強めたかたちだ。

Megasleyが述べるように、ナイジェリアはアフリカ最大の経済国とは言え、日本や欧米に存在する金融基盤は整備されておらず、多くの国民が金融サービスを受けることができない状況が続いている。世界銀行が昨年まとめた報告書によると、ナイジェリアの約2億人の人口に対して、銀行口座を通じた基本的な金融サービスを受けることができない「Unbanked」と呼ばれる人の数は6400万人に上る。

また、同国の法定通貨「ナイラ」は過去12か月、米ドルに対して「ナイラ安・ドル高」が続き、ドル・ナイラ相場は同期間で約8%上昇し、1ドル=450ナイラ。過去5年間では1ドル=360ナイラから約25%の上昇を記録し、ナイラ安は慢性的だ。

高インフレもナイジェリア経済を圧迫する。ロイターの報道によると、インフレ率は昨年11月までに10カ月連続して上昇し、12月にわずかながら低下。それでも同月のインフレ率は21.34%だった。

ナイジェリアの現金引き出し制限、不人気の「デジタル・ナイラ」

この状況下、ナイジェリア政府は今年1月に銀行口座の引き出し制限を導入。個人が銀行口座から引き出せる現金を、1週間あたり500,000ナイラ(1120ドル)に制限し、法人の引き出し制限額は500万ナイラ(1万800ドル)に設定した。

政府はインフレ抑制と金融犯罪を防止するためと理由づける一方で、ナイジェリアのデジタル通貨「e-Naira」の利用を拡大させるためと説明している。

e-Nairaはナイジェリアの中央銀行が2021年に試験的に導入したデジタル通貨(CBDC=Central Bank Digital Currency)だが、その利用ケースは政府が目論んだほどに増加していない。

e-Nairaの導入から現在までの間、ナイジェリアでは皮肉にもビットコインや米ドルに連動したステーブルコインを個人が利用するケースが増加している。

中国、東南アジアの次はアフリカ:リープフロッグ型のデジタル経済成長

銀行口座の普及が遅れる一方、アフリカの主要国ではスマートフォンの普及率が高く、スマホアプリが個人の消費活動の大きな基盤だ。西側諸国が築いてきた産業・金融インフラを整備するフェーズを飛び越え、スマホを軸としたデジタル経済圏を作る「リープフロッグ型経済成長」は、中国や東南アジア諸国に次いで、アフリカの国々でも顕著に見られる。

デジタルウォレットを使えば、ビットコインや他の暗号資産の取引が可能だ。このような経済・社会状況の下、アフリカ大陸における暗号資産の導入ペースは加速している。

ブロックチェーンデータ分析の米チェイナリシス社は、暗号資産の導入ペースをインデックス化し、定期的に報告書をまとめている。同社の分析結果によると、2022年に暗号資産の導入ペースが最も速かった国・地域に、ナイジェリア、ケニア、南アフリカの3か国がランクインした。

サハラ砂漠より南に位置する「サブサハラ アフリカ」地域では、個人ユーザーによる1000ドル以下の取引量が増加したと、チェイナリシスの報告書は述べている。アフリカ大陸の人口は約13億人と報告されているが、サブサハラ地域に居住する人口は大陸の全人口の8割以上を占める。

ナイジェリアの人口は現在、約2億1300万人で、人の数でもアフリカ・最大国。その巨大な国家を支えるラゴス市の人口は約1540万人で、東京都の人口(約1400万人)を上回る。

Megasleyは今年、仲間と共同でアフリカの6つの国でライトニング・ネットワークノードをそれぞれ立ち上げる計画を進める。今後2年で15カ国・15ノードを目指す。「最終的なゴールは、アフリカの全ての国にそれぞれのノードを運営すること」と、Megasleyは述べた。


佐藤  茂:ブルームバーグ(Bloomberg)、ダウ・ジョーンズ(Dow Jones & Co.)で約15年間、金融、M&A、IPO、スタートアップ、エネルギーを中心に取材、執筆。米Business Insider日本版の創設メンバー兼Managing Editor(副編集長)として参画した後、2019年2月にCoinDesk Japan・編集長に就任。2023年1月からCoinDesk Japanのアドバイザーを務める一方、アフリカ大陸のWeb3ニュース&データメディアを開発する多国籍プロジェクトに参画。

|取材・テキスト:佐藤茂
|画像:Megasley提供