取引所への十分なデューデリジェンスが2023年の業界を左右する【オピニオン】

暗号資産業界は2022年、多くを失ったがこの先は強く、良いものとして復活するとの楽観的な見方も広がっている。

デジタル・アセット・リサーチ(Digital Asset Research:DAR)のCEOで、デジタル資産分野のアナリストであるダグ・シュウェンク(Doug Schwenk)氏によると、そのような楽観主義の理由の1つは、リスクを意識した投資と十分なデューデリジェンスだ。

毎月、取引所の精査を実施

「価格が常に上昇していた際には、一般的にはリスクマネジメントを無視してしまいがちだった。テラ/ルナ(Terra/Luna)やFTX、スリー・アローズ・キャピタル(Three Arrows Capital)、セルシウス・ネットワーク(Celsius Network)、ブロックファイ(BlockFi)の破綻に伴って、業界にはリスクマネジメントに再び重点を置く動きが広がっている」(シュウェンク氏)

この5年間、DARは投資家に対してカウンターパーティーの精査を行うよう呼びかけてきた。

DARは無料サービスとして、暗号資産取引所の精査を毎月行っている。1月は450を超える取引所を精査し、「精査済み」のお墨付きを次の18の取引所に与えた。

バイナンスUS(Binance.US)、ビットバンク(bitbank)、ビットフィネックス(Bitfinex)、ビットフライヤー(bitFlyer)、ビットソー(Bitso)、ビットスタンプ(Bitstamp)、ビットトレックス(Bittrex)、BTCマーケッツ(BTC Markets)、CEX.IO、コインベース(Coinbase)、コインチェック(Coincheck)、クロスタワー(CrossTower)、ジェミニ(Gemini)、イットビット(itBit)、クラーケン(Kraken)、LMAX、オーケーコイン(Okcoin)、ザイフ(Zaif)。

また、将来「精査済み」リストに含まれる可能性のある「ウォッチリスト取引所」として、10の取引所をあげた。

バイナンス(Binance)、ビットルー(Bitrue)、コインエックス(CoinEx)、コインタイガー(CoinTiger)、クリプトドットコム(Crypto.com)、ゲート.io(Gate.io)、フォビ(Huobi)、クーコイン(KuCoin)、LATOKEN、フェメックス(Phemex)。

透明性への期待

DARのメイン事業は、機関投資家と連携して、暗号資産の投資チャンスについて詳細なデューデリジェンスを実施すること。

シュウェンク氏によると、現在、多くの機関投資家がDARの取引所精査やカウンターパーティー・デリジェンスのサービスを利用している。1回に1カ所や2カ所のカウンターパーティーを精査するのではなく、10以上を精査することが多く、多くの投資家が複数の取引所を利用することで、カウンターパーティーリスクの分散を検討していることがわかる。

「業界は複数の課題を抱えており、業界としての基準を引き上げるチャンスと考えている。主要な課題の1つは、カウンターパーティーの未熟さ。中央集権型取引所は成長するにつれて、その多くがつまずいている。私たちが望むほど、十分に整備されていない」(シュウェンク氏)

さらに同氏によると、暗号資産業界には多くの悪人が存在する。しかし、未熟なものと悪質なものを見分けることは、お金を失ったあと、振り返ってみて初めて可能になることが多い。

業界を成熟させ、暗号資産への信頼を高めるための方法は、透明性にある。2022年の数々の破綻の後、投資家や消費者からの透明性への期待は一段と高まっている。

「今の業界の成熟度に対して合理的で、リスクを取っている人に必要な透明性の期待・要求を定義し、構築することに取り組んでいる。別のところに資産を保管していて、理論的には顧客の資産が分離されている場合にバイナンスで取引する方法や、差金決済取引など、現在取り組んでいる問題について、多くのソリューションが登場するだろう」(シュウェンク氏)

FTXのケース

2022年に破綻したFTXは、破綻する前、DARの精査済み取引所リストには含まれていなかった。

「FTXは私たちの精査済みリストには含まれていなかったが、うまくできたこともあれば、もっとうまくやれたかもしれないこと、あるいは見逃してしまったことがあったことは間違いない」

「FTXの公開情報に基づいたデューデリジェンスで、すぐに問題とわかることもあった。その1つは、堅固な(顧客確認とアンチマネーロンダリングの)コントロールの欠如。FTX.comでは、身元を証明せずに取引が可能で、そうなるとウォッシュトレードや市場操作、マネーロンダリングの懸念が大きくなる」

シュウェンク氏によると、暗号資産ヘッジファンドのアラメダ・リサーチ(Alameda Research)との曖昧な関係も危険信号の1つだった。FTXにアラメダとの関係を明確にさせようとする取り組みは、拒否された。

サム・バンクマン-フリード氏は結局、FTXに注力するためにアラメダ・リサーチから身を引いたが、その後も継続した両社への関与は曖昧なままだった。

「彼らはあまり率直ではなかった。私たちが正しかったことの1つは、2社への関与という矛盾をどのように管理していたかについて、明確な情報がなかったことを認識したこと。もちろん確実な結論を出すことはできなかったが、2社の関係を管理するポリシーがない状況では疑念が湧くのは当然。この問題になぜ対処しようとしていなかったのか、疑問を持たずにいられない」

他の懸念点としては、FTXのネイティブトークンFTTが実際には証券であり、FTXが証券取引法に違反していた可能性があることだ。

点滅する赤信号

DARは大手ヘッジファンドからFTXに対するデューデリジェンスを依頼された。だがアナリストがFTXに透明性を高めるよう求めると、抵抗に合った。

「機密情報と思われる多くの情報について、より高い透明性を求めた。コインベース、ジェネシス、ヒドゥン・ロード(Hidden Road)、ファルコンX(Falcon X)など、多くの中央集権型カウンターパーティーでは、同様の要求を通すことができた。FTXの回答は『デューデリジェンスに関与するつもりはまったくない。特に、貴社が聞こうとしていると想定される質問を考慮すれば、なおさらだ』というものだった」

そこでシュウェンク氏とDARは、FTX関係者との個人的な関係を利用したが、実施しようとしたデューデリジェンスは「阻まれて」しまった。

大口顧客を引き込むことに興味はあるが、適度なデューデリジェンスを拒む暗号資産取引所は「赤信号が激しく点滅」しているようなものとシュウェンク氏は語る。

「そうした場合、回答のトーン&マナーに価値ある情報が眠っている。未成熟か、何か悪いことが起きていれば、知らせてくれる。今ある情報から判断すれば、FTXは、どちらも当てはまったようだ」

「10億ドル(約1300億円)規模のヘッジファンドのCOOとして私は、金融危機を乗り切った。モルガン・スタンレーやゴールドマン・サックス、BNYメロン、リーマン・ブラザーズなどに対してデューデリジェンスを行い、内在的なリスクを理由にリーマンから距離を置いた。そのおかげで破綻に巻き込まれずに済んだ」とシュウェンク氏は振り返り、「暗号資産関係者も厳しい時期には同じような考え方を採用する必要がある」と続けた。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Better Exchange Due Diligence Could Help Define Crypto’s 2023