シンプルな5つのステップで暗号資産規制を:ビットゴーCEO【オピニオン】

FTX破綻によって、暗号資産(仮想通貨)規制がついに、2023年のアメリカにおける立法の議題になることは確実となった。2022年に提案された法案は6つ。内容が多岐にわたるものもあれば、コンプライアンスや投資家保護などの特定の問題にフォーカスしたものもあった。

混乱が広がっているのは明らか。証券取引委員会(SEC)と商品先物取引委員会(CFTC)は主導権をめぐって争っている。多くの意見が聞こえてくる。最も声高な意見の中には、規制ゼロを求める声もある。その声は業界関係者からも、規制はむしろ暗号資産を認めることになると懸念する反対派の議員からも寄せられている。

私としては、包括的な暗号資産規制を希望している。アメリカには世界でも、とりわけパワフルな金融市場が存在しており、その主な理由は規制にある。規制が暗号資産市場を強いものにしてくれる。

しかし伝統的金融に対する規制体制は一挙に整備されたわけではない。何十年もかけて、FTX破綻のような大惨事に対応する形で多くのルールが作られ、進化してきた。

暗号資産業界はまだ初期段階にあるが、FTXで見られた問題はなじみのある問題だ。クアドリガCX(QuadrigaCX)やマウントゴックス(Mt.Gox)ですでに見てきた問題。このような損失を防ぐために、今からでも規制当局による監視を始めることができる。

暗号資産の知識をそれほど必要としない、5つの穏当で良識あるステップを紹介しよう。

1. ステーブルコインの準備資産

ステーブルコインは暗号資産エコシステムで重要な役割を果たしている。暗号資産よりもボラティリティが低く、日常的な取引に実用的に使えるはずだ。しかし、実際にはそれほど安定していない。

ステーブルコインは裏付け資産と1対1で交換できることになっているが、発行事業者に流通しているステーブルコインと同価の準備資産の保有を義務付ける法的要件は存在しない。これが問題だ。ステーブルコインがペッグを失えば、保有者が引き出しに殺到し、銀行の取り付け騒ぎのような状況が起こる可能性がある。

2022年5月にterraUSDで起こったことがまさにそれだ。terraUSDは、準備資産に裏付けられていなかった。テラ(Terra)ブロックチェーンのネイティブ暗号資産テラ(LUNA)の供給量とリンクしたアルゴリズムに基づいた取引に依存していた。

皮肉なことにFTXの創業者サム・バンクマン-フリード氏は現在、terraUSDの市場操作で取り調べを受けているが、terraUSDの下落こそが、FTXにおける同氏の不正行為を明らかにすることにつながった危機のきっかけだった。

とはいえ、そんなことを理解していなくても、ステーブルコインが米ドルで裏付けられているなら、流通するステーブルコインと同価のドルを準備資産として保有する必要があることは理解できるだろう。

ステーブルコイン発行事業者に対して、連邦預金保険公社(FDIC)の保証を受けた銀行に1対1で準備資産を保管することを義務付けるべきだ。

準備資産の四半期ごとの監査と、発行・焼却のリアルタイムの報告も義務とするべき。さらに、準備資産のサイズに応じて、保管する銀行を分散化し、安全性や健全性を確保することも求める必要がある。

2. トレーディングとカストディの分離

顧客が取引所に資産を預けるという市場構造は根本的な欠陥を抱えている。暗号資産について知らなくても、これが得策ではない理由はわかるだろう。ナスダックがSECにカストディアン(資産の保管・管理事業者)になりたいと提案したらどうなるだろう。そんなことはあり得ない。

預け入れられた資産に手をつけてしまうことが簡単にできすぎるという問題だけではない。どんなに正直者だとしても、カウンターパーティーリスクの問題がある。

取引所の多くは、さまざまな形態のレンディングも行っている。アービトラージやマーケットメイキング、トレーディング、ヘッジングも行っている。取引所のカウンターパーティーリスクは、その取引所のリスクと参加している市場のリスクの総和であり、リスクを測ることは不可能だ。

FTX破綻から学ぶことがあるとすれば、資産は外部の資格を持ち、規制され、保険に加入したカストディアンによって保管されるべきだ。これにより、取引所が管理している準備資産の検証にチェック&バランス(抑制と均衡)が生まれる。

トレーディングとカストディが切り離されていれば、FTXの準備資産が部分的な状態になっていたことをもっと早く見つけられたかもしれない。破産申請後に起きた資産のハッキングや盗難も防げただろう。

3.取引所を100%デジタル化

暗号資産と、法定通貨あるいはオフチェーン資産との直接取引を禁止する。そうすれば、すべての取引所をオンチェーンで監査でき、実際に機能するプルーフ・オブ・リザーブが可能になる。

現在、プルーフ・オブ・リザーブは透明性を提供しているものの、支払い能力を見極めるための完全なソリューションにはなっていない。2つの理由がある。

まず、デジタルの形で表すことができない法定通貨の準備資産には適用できない。2つ目に、債務がないことの証明もできない。本来、これは最も重要なことだ。

FTXは法定通貨と暗号資産を準備資産としていたが、負債が準備資産をはるかに上回っていた。規制を受けたステーブルコインとして、デジタルな形で法定通貨を表した純粋な暗号資産取引所なら、リアルタイムであらゆる項目に対してプルーフ・オブ・リザーブを行うことが可能だったはずだ。

負債についても、決済と清算をすべてデジタルにすれば、コンプライアンスを織り込んだ、かなり堅固で効率的なシステムを作ることができるだろう。

取引所は現在、他に選択肢がないため、ハイブリッドな方法でビジネスを構築している。旧来的な形態をすべて排除し、すべてデジタルな環境でビジネスが構築できれば、はるかにパワフルなものになるだろう。

4.取引所の共同ウォレットの利用を規制

多くの暗号資産取引所は、複数の顧客の資産が単独のアドレスで管理されることになる共同ウォレットを使っている。カストディアンにとっては鍵の管理が簡単になり、オフチェーン取引も効率化できる。

デメリットは、個々の顧客が自らの取引やカウンターパーティーリスクを確認できなくなること。万一、破綻した際に自分の資産がどうなっているのかはわからなくなる。

共同ウォレットは、適格カストディアンが共同ウォレットの中でそれぞれの顧客を把握し、顧客に破産の際の保護を提供できる形で資産が分離されている場合にのみ許されるものだ。カストディアンはさらに、アンチマネーロンダリング(AML)と顧客確認(KYC)のルールにも従わなければならない。

5.デジタル時代の証券を定義

米証券取引委員会(SEC)について、最もよく聞かれる不満がこれだ。いまだに1940年代に作られた証券の定義に依存している。暗号資産業界の開発者や起業家は、ルールが自分たちにどのように適応されるかについて疑問を持っている。

SECが定義を更新し、詳細なガイダンス、良識あるルールなどを提供することはそれほど難しいのだろうか? 定義を明確にすることは、イノベーションをもたらす人と投資家を保護するうえで大きな役割を果たす。

SECは、執行をベースにするべきではないとするへスター・ピアース(Hester Peirce)理事の批判的な意見にもっと耳を傾けるべきだ。執行は明らかにSECの権限だが、まず適切なガイダンスを提供することで執行の負担をはるかに軽減できる。

FTXで起こったことは、いつの時代にも存在する金融詐欺。暗号資産やブロックチェーンテクノロジーとの関連は、規制の欠如が悪人たちに活動の場を提供したことだけだ。

現在必要なのは、投資家の壊滅的な損失を防ぐことを目的とした規制当局による基本的な監督。開発者は、規制当局の定めた要件に適応した優れたシステムをデザインする能力を十分に持っている。ラグプル(資金の持ち逃げ)などの詐欺が防止できれば、もっと繊細な問題について議論を始め、より包括的な規制フレームワークを構築できる。

私たちは今の難局を切り抜けることができる。問題を起こした取引所はFTXが初めてではない。これまでで最大規模だっただけのことだ。

ペテン師が引き起こした惨事として区切りをつけ、通常運転に戻ることもできるが、それでは次の失敗のお膳立てをするようなものだ。この機会に、成功のために進むべき方向にいくつかのシンプルなステップを踏んでいけば、より良く、より強くなることができるだろう。

マイク・ベルシェ(Mike Belshe)氏:暗号資産カストディを手がける金融サービスインフラ提供事業者ビットゴー(BitGo)のCEO。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:A 5-Pronged Approach to Sensible Crypto Regulation After FTX