SECの取り締まり、本当に的外れなのか?【オピニオン】

暗号資産の世界は、時間の経過が速いと言われる。ジャーナリストほど、それを実感している人はいないだろう。起きていることほとんどすべてを把握しておくことが仕事であり、わずか数日、目を離しただけでもう追いつけないと感じられるほどだ。

FTX破綻以降、私は数カ月にわたって容赦ない現実を生きてきた。休日はほとんどなかった。先日、やっと数日の休みをとって、家族とゆっくり過ごせたことには心から感謝している。

しかし、休みを取るタイミングを間違えたようだ。

休暇中、例外的な出来事が起きた。OrdinalによるビットコインNFTの台頭は興味深く、大きな影響をもたらす可能性がある。別のタイミングなら、最も大きなニュースになっていただろう。

しかし今、最も注目されているニュースは、SEC(米証券取引委員会)による取り締まり。多くの人は、暗号資産業界全体を排除するための強引な取り組みの一環と解釈している。新たに、登録投資顧問(RIA)が既存の多くの暗号資産カストディサービスを利用できなくするような新しいルールが提案されたとのニュースも届いた。

詐欺師たちが何百億ドルもの資産を盗んだり、吹き飛ばしてしまったことを受けて、SECはその取り締まりの大部分を、暗号資産のベテランの多くが「良い人たち」と考えている組織や、2021年から2022年にかけて傍若無人に振る舞っていたサービスよりもはるかに危険性が低いと思われるサービスに集中させている。この現実は、アメリカの暗号資産や金融にまつわる規制パターンについて、多くの難しい教訓を教えてくれる。

目をつけられたクラーケンとBUSD

特にSECに和解金として3000万ドル(約40億円)を支払い、アメリカでのステーキングサービスの停止に応じた大手取引所クラーケン(Kraken)に対する取り締まりにそのことが顕著に表れている。

多くの人にとって、クラーケンへの取り締まりは、ひどく見当外れに思えている。クラーケンは10年にわたって、暗号資産エコシステムの柱となっており、一貫して誠実な企業であり続けていた。

問題となったツールは、理想的な仕組みではなかったかもしれない。ステーキングユーザーにとって、手数料ベースのわかりやすい仕組みにはなっていなかったため、「証券」として攻撃されやすかったようだ。

しかし、提供されていたサービスは基本的には堅実で、エコシステムにとって有用なものだった。昨年破綻したセルシウス・ネットワーク(Celsius Network)やボイジャー・デジタル(Voyager Digital)などの「レンディングプラットフォーム」とは完全に別物だった。

ステーブルコインの曖昧さ

ステーブルコインのバイナンスUSD(BUSD)に対する取り締まりは、やや的外れ感は薄い。SECは、バイナンスブランドのステーブルコインであるBUSDを発行するパクソス(Paxos)を告発すると報じられている。SECはBUSDを未登録の証券を見なしている。

パクソスは、BUSDの発行を一時停止すると発表。最大級のオフショア暗号資産取引所であるバイナンスは、あまり規制を受けておらず、クラーケンほどの正統性はない。しかしバイナンスも過去5年間、おおむね良い組織であり続けてきた。

さらに言えばBUSDは、「ステーブルコイン」というコンセプトにまつわる曖昧さの被害者かもしれない。

規制当局も、暗号資産関係者も、アルゴリズムによる価格安定化という問題の多いアイデアをもとにしたステーブルコインのテラUSD(UST)が劇的に下落した昨年春の出来事にまだトラウマを負っているようだ。しかしBUSDは、裏付けのあるステーブルコインであり、銀行に預けられたドルによって換金が保証されている。

不平不満ではなく内省自省を

そうなると、何か政治的な意図があるのでは、と考えるのが筋だ。SECによるこれらの取り締まりは、SECが大規模な詐欺を突き止めたり、防止することができなかった後に起きた。SECのゲンスラー委員長は最大級の詐欺師の1人、FTXの元CEOサム・バンクマン-フリード氏と異様に仲良くしていたと考える人たちもいる。

クラーケンやパクソスに対する取り締まりは、狙いやすいターゲットに対する執行行為による見せしめと捉えずにはいられない。SECを離れる予定のヘスター・ピアース(Hester Pierce)理事も同じ意見だ。

だがSECが事後的に、強引な取り締まりをしていることを嘆いても意味はない。SECは権力を持っており、その体制がすぐに変わる可能性は低い。

昨年は確かに、多くの恥ずかしくなるような詐欺師や、ダメージを与えるペテン師が暗号資産の世界に存在した。ブルームバーグのコラムニスト、マット・レヴィン(Matt Levine)氏が指摘したとおり、ひとたび人々がお金を失えば、的外れの規制に対する最も妥当な反論でさえ、聞き流されてしまう。

2021年のバブルによって、投資家、開発者、メディアが、個人投資家の投資熱を煽り、後日、詐欺師と判明した人たちをヒーローのように扱ったことは否定できない。お金の匂いは、批判的思考を鈍らせ、陶酔状態を生んでしまった。

SECによる取り締まりは、実質的には罪のない組織に多くの的外れな負担を課す可能性が高い。だが暗号資産業界全体としては、まだまだ内省し、自らの責任を考え、次に暗号資産ブームが到来したときに、最前線に存在する詐欺師をいかにうまく排除できるかを自問する必要がある。

明らかに、私たちは規制当局に頼ることはできない。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:ゲーリー・ゲンスラーSEC委員長(CoinDesk)
|原文:Is the SEC Really the Bad Guy?