ダッパーラボに対する判決、プライベートブロックチェーンに逆風【コラム】

2月22日に発表された、ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所のビクター・マレロ(Victor Marrero)判事による64ページに及ぶ意見書の中には、ハウィー・テスト(Howey Test:投資商品が証券にあたるかどうかのテスト)の適用例としてこの先有名になるであろう事例が含まれていた。

「NBA Top Shot」は投資契約

ダッパーラボ(Dapper Labs)とそのCEOが、自分たちに対する未登録証券販売に関する告発を棄却するよう求める申し立てを却下する中で、裁判所は1つの教訓を提供した。自社のプライベートブロックチェーンとマーケットプレースを使ってNFTを売り込むなら、事前に優秀なコンプライアンス専門の弁護士を雇っておいた方が良さそうだ。

有名なハウィー・テストに照らして、NFTが投資契約に当たるかどうかを判断する最初の事例と裁判所も認めるこの一件に関して、マレロ判事は、棄却の申し立てを退け、ダッパーラボに対する集団訴訟の続行を許可した。

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プライベートブロックチェーンネットワークの利用や、ネットワークの創業者が支えるネイティブトークンの存在など、他のいくつかのNFTプロジェクトと共通するいくつかの特徴が焦点となった。

ダッパーラボが手がける人気NFTコレクション「NBA Top Shots」は、利益の見込みを伴って一般の人たちに提供される投資契約であると裁判所は判断した。この点と、NFTの金銭的成功が、ダッパーラボの自社プラットフォームの成功と関係するという点がハウィー・テストの要件の2つを満たした。ハウィー・テストは、特定の資産が米証券取引委員会(SEC)の管轄に当たるかどうかを判断するためにアメリカの最高裁で使われた4つの要件からなるテストだ。

判決の詳細

マレロ判事はまず、「投資契約」は「事業者の取り組みのみから利益」が生まれる「共同事業に対して、ある人が(自分の)資産を投資する契約、取引、プログラム」という定義から意見書を始めた。

そしてNFTは「ブロックチェーン上に真正性と所有権が記録できるデジタル資産」と定義。マレロ判事によれば「モーメント(NBA Top ShotのNFT)は、素晴らしいダンクや勝敗を分けたショットなど、NBAの試合のハイライトのデジタル版動画」だ。

マレロ判事は、ダッパーラボが自社プライベートブロックチェーンをコントロールしていたことが、この事業がモーメントを売り込むことにどのように使われていたかを示しているとして次のように指摘した。

「フロー(FLOW)トークン、フローブロックチェーン、モーメントとの間の経済的現実と技術的な関わりは、原告の主張通りで、裁判所の判断を裏付けるものだ」

マレロ判事は「トレーディングのためのエコシステムを開発、維持するための会社の取り組みは、ハウィー・テストの3つ目の要件を十分に満たす」と判断した。

プライベートブロックチェーンの位置づけ

さらに「フローブロックチェーンを維持し、マーケットプレースで取引をサポートするという、ダッパーラボによる暗黙の約束がモーメントの価値を牽引した」として「ダッパーラボがプライベートブロックチェーンを作成、維持したという主張は、裁判所の結論の根幹を成す」と主張した。

マレロ判事は、ダッパーラボがモーメントの取引をイーサリアムブロックチェーンよりも高速、安価な代替オプションとしてダッパーラボが開発したフローブロックチェーンのみに制限していたことを懸念事項として指摘。

この点は、利益や取引手数料についての疑問を提起するが、技術レベルでは「ブロックチェーンをプライベートなものにすること」で、モーメントの「購入者はダッパーラボの知見と経営上の取り組み、そしてその成功の継続と存続に頼らなければならなかった」と主張。マレロ判事は原告に同意する形で、今回の件は「ビットコインなどのパブリックブロックチェーン」とはまったく違うものと判断を下した。

将来的な懸念

マレロ判事は、ダッパーラボに関して正しい判断を下した。だが、パブリックブロックチェーン上に作られたレイヤー2プラットフォームやネイティブトークンエコシステムに依存しないプラットフォームを使ってNFTを販売していたプロジェクトにとって不利益になる形で、将来、裁判所が間違った判断を下す可能性がある。それは明らかに、行き過ぎだ。

例えば、アート作品など、通常個々で売られるような固有のアイテムは、今回の判断と簡単には相容れないだろう。さらに、ダッパーラボのような企業とパートナーシップを結んで、宣伝や販売をしてもらうNFTクリエーターをめぐっても懸念が生じる。

マレロ判事はこの問題に関して、ダッパーラボ側が参照した判例は適用されないと応じた。なぜなら、判例において販売された「固有のアート作品」は「販売者と因果関係」を持っていなかったからだ。

アートNFTとの違い

アートNFTとモーメントには、別の相違点もある。アートNFTは常に、内在的な価値を持つ点だ。ダッパーラボは棄却申立ての中で、モーメントは内在的価値を持つことから、投資契約とみなされるべきではないと主張した。

マレロ判事はその主張を受け入れず、ダッパーラボの規約には、モーメントが「固有の価値や内在的価値を持たない」と複数回にわたって記されていることを指摘した。

ちなみに、メッセージアプリを手がけるKikは、ICO(新規コイン公開)を通じて数百万ドルの資金を調達したが、のちにトークンが有価証券だったと判断された。こちらも同様に、内在的価値を持たないものを販売したと判断された。「不動産と異なり、(KIN)トークンは内在的価値を持たず、需要を生み出すエコシステムがなければ利益を産まない」と、裁判所は指摘していた。

プライベートブロックチェーン上に築かれたプラットフォームが、パブリックブロックチェーン上のものとは異なる扱いを受けるべき理由は確かにある。NFTマーケットプレイスを手がけるVoiceが先日、パブリックブロックチェーンへと移行した理由もおそらく同じだろう。

RARIトークンを持つRaribleなど、ネイティブトークンを使うプラットフォームも、今回の裁判所の判断を受けて、戦略を練る必要があるかもしれない。WAXなど、NFTに特化したプライベートブロックチェーンも、プロモーターへの報酬体系を見直す必要があるかもしれない。

しかしこの先、NFTクリエーターにとって最も安全なアプローチは、プラットフォームネイティブトークンや、NFTの価値を管理する直接的手段を使わずに、パブリックブロックチェーンを使って一からプラットフォームを開発した企業とパートナーシップを組むことだ。

そして、そのようなプラットフォームを使って販売され、投資契約と判断される可能性が最も低いNFTは、新興のデジタルアートムーブメントの基盤となっているアートNFTだろう。

ポール・パライ(Paul Paray)氏:米ニュージャージー州にあるLLC(有限責任会社)ArtSwapの創業者の1人。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Markus Spiske/Unsplash(CoinDeskが加工)
|原文:Dapper Labs Ruling Dunks on Private Networks