ハリウッド映画のような巧妙さ──ヨーロッパで広がる「リップディール詐欺」とは

まだ未成熟で、規制が不十分な暗号資産業界は、エクスプロイト(脆弱性を突いた攻撃)やハッキング、価格操作などの犯罪が蔓延している。なかには数秒で、何億ドルもの被害が出るものもあり、犯人の身元は通常、偽のオンラインIDによって隠されている。

対面の暗号資産詐欺

だから、巧妙な詐欺師の一団が、数週間から数か月をかけてブロックチェーンプロジェクトの幹部に接触し、夢のある手の込んだ投資話を展開し、レストランで直接会ってミーティングまで行い、最終的に数百万ドルの暗号資産を持ち逃げして、それきり行方をくらましてしまうという話は、かなり奇抜でまるでハリウッド映画のシナリオのようだ。

しかし、被害者や当局への取材によると、ローマ、バルセロナ、アムステルダム、ブリュッセルなど、ヨーロッパ中の都市で、このした詐欺が複数回起きている。

時間をかけた暗号資産詐欺だ。

被害者および被害者とやり取りしたドイツの警察官によれば、この事件はオーストリアとイタリアの当局が捜査している。

警察はこうした暗号資産詐欺を「リップディール」と呼んでいる。魅力的なオファーで被害者には多額の利益が約束されるが、最終的には資産を失ってしまう。

詐欺の手口

被害者が語る詐欺師たちとのやり取りは驚くほど似ている。詐欺師は投資エージェントを装い、レストランやホテルのロビーで被害者と会い、資産を持っている証拠を要求する。被害者は正規のものに思える(だが、詐欺師が選んだ)暗号資産ウォレットを設定し、ウォレットに資金を送る。資金が送金されると、詐欺師たちはなぜかウォレットから資産を引き出してしまう。

詐欺師たちは被害者の秘密鍵を手に入れるか、ウォレットのセキュリティ上の欠陥を悪用していると考えられている。

これまでのところ最も有名な被害者は、Web3ゲームエンジンWebaverseの共同創業者アハド・シャムズ(Ahad Shams)氏。ローマのホテルのロビーで投資家を装った詐欺師と会った後、400万ドル(約5億4000万円)を失ったと2月にツイッターで明かした。

最近では、コイン・パブリッシャーズ(Coin Publishers)のCEO、クリス・ハンター(Chris Hunter)氏も被害にあった。彼はスペインのバルセロナで同様の被害にあったことを公表した。

同様の詐欺の被害にあった複数の人々によれば、当局は各事件の関連性について捜査している。

リップディール詐欺団

米CoinDeskが取材したドイツの警察官は、ドイツではこの詐欺に関して捜査が行われていると聞いていないが、シャムズ氏の事件は、リップディール詐欺団を追っているオーストリアの特別捜査官から伝えられたと語った。

オーストリア当局は2022年11月、4人に対して詐欺を働き、暗号資産を盗んだとして、ローマで逮捕され、ウィーンに送還されたオーストリア人に有罪判決を出した。この事件の詳細もシャムズ氏とハンター氏の状況と似ている。

こうした詐欺団のメンバーを捕まえることが難しいのは、複数の国をまたいで活動しているため、動きを追跡することが困難だからだ。

詐欺団に関するヨーロッパ全体での「データベースのようなものが、国、そしてヨーロッパのレベルで欠けている」とドイツの警察官は語った。

また別の人物によれば、ドイツ当局は2021年、別のリップディール詐欺の被害者がアムステルダムで被害にあった後に、捜査に関して連絡をしたようだ。

別の被害者によれば、イタリア当局もローマで起こった似たような事件について捜査している。

不信感を募らせる被害者

詐欺師たちが被害者のウォレットから資産を盗んだ方法は解明されていない。レストランに隠しカメラがあったのではと疑う人もいれば、催眠術をかけられたのではとまで考える人もいる。

テクノロジーニュースサイト「The Register」によれば、被害者の一部は、チャットアプリのテレグラムでグループを作り、詐欺師たちの情報を共有し、共通点がないかを探っている。

The Registerの記事が公開されて以来、被害者のふりをした詐欺師が被害者のテレグラムグループに入り込み、何を知っているのか、どの国の当局に通報したのかといった情報を集めているのではないかと疑っている人もいる。

企業、警察、暗号資産業界、ひいては人に対する信頼の多くをすでに失ってしまった被害者の間には、大きな不信感が広がっている。

米CoinDeskの取材に応じた他の被害者や、被害に遭いかけた人たちも、シャムズ氏やハンター氏が公表した経験と同様のことを経験したと語る。そうした人たちによれば、ローマで詐欺師が選んだレストランに出かけると、詐欺師は特定のテーブルに座ることを求めたようだ。

ほとんどの被害者の話に共通しているのは、詐欺師たちが「ジョセフ・サフラ(Joseph Safra)」という人物と仕事をしていると語っていた点だ。

ドイツの警察官は、似たような詐欺に気をつけるよう警告ために取材に応じたと語った。

オンライン上の犯罪者だけでも十分恐ろしかったのに、暗号資産詐欺の舞台は実世界にも広がっているようだ。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:DALL-E/CoinDesk
|原文:Crypto Con Artists Leave Trail of ‘Rip Deal’ Victims From Amsterdam to Rome