Play-to-Earnゲームの犯罪利用に警戒を【コラム】

ゲームをして稼ぐことができるPlay-to-Earn(P2E)は、ブロックチェーンのユースケースの中でも人気のあるものの1つだが、詐欺やマネーロンダリングのリスクも高い。とりわけ、「暗号資産の冬」が終われば、そのリスクはなおさら高まるだろう。

多くの暗号資産エコシステムと同様に、P2Eのトークンもここ数カ月でその価値を大きく下げているが、金融規制当局は注視し続けるべきだ。時に「GameFi」とも呼ばれるP2Eの世界は、メタバースの登場に伴って浮上してくる金融犯罪の複雑さを垣間見せてくれるのだから。

P2Eゲームに潜む金融犯罪リスク

ブロックチェーン分析企業のエリプティック(Elliptic)は先日、メタバースのエコシステムの成長に伴って登場してくる金融犯罪の種類を説明する優れたレポートを発表した。(私は数年前、シンクタンクでの研究及び、個人的なコンサル業務において、エリプティックと仕事をしたことがある)

メタバースがその支持者が目指す通りバーチャルなインタラクティブ世界になるとしたら、ゲームと暗号資産の組み合わせは、富を求める善人にとっても悪人にとっても、その活動経路を広げる存在となるだろう。

オンラインゲームにおけるバーチャルマネーは新しいものではない。しかし、P2E・暗号資産ゲームは、ゲームの外で簡単に売却できるトークンを提供することによって、実世界の金融とのつながりを加えている。

多くの場合、ゲーマーはあまり知られていないP2Eゲームで獲得したトークンを、中央集権型あるいは分散型取引所で、より流動性のあるERC-20トークン、とりわけステーブルコインに替えることができる。さらにそれを、好きな法定通貨とも交換できるのだ。

P2Eゲームの登場以前から、アンチマネーロンダリングの専門家たちは、オンラインゲームにまつわる違法金融行為のリスクに警鐘を鳴らしてきた。

国際的なセキュリティ問題に特化したイギリスのシンクタンク、英国王立防衛安全保障研究所は2009年、ユーザーが(バーチャルマネー、ツール、洋服などの)インゲームアイテムを実世界の通貨と交換する方法を見つければ、そのようなアイテムは、違法な資産をロンダリングしようとする犯罪者にとって、魅力的なものとなるだろうと指摘する。

伝統的オンラインゲームにおいては、ゲームアイテムを取引するには、ゲームのプラットフォーム外の未認可の流通市場にアクセスしなければいけなかった。そのような市場は多くの場合、ダークネット上にあり、アクセスにはTorなどの特別なブラウザが必要だ。

一方、暗号資産ゲームの場合、獲得したバーチャルマネーやアイテムはブロックチェーン上で作成され、ブロックチェーン資産が販売される場所で、比較的自由に取引可能だ。

P2Eプラットフォームは、プレイヤーがトークンを獲得したり、利用したりするゲームモデルという点で、大いに異なっている。多くのゲームは、NFT(ノン・ファンジブル・トークン)という形でデジタルのコレクション品を提供する。

ポケモンGOのように、モバイルアプリでのアクティビティを地理位置情報や拡張現実と組み合わせ、ゲーマーが実際に特定の場所に行き、ゲームをしなければならないようになっているゲームもある。

トークンを無料配布するようなゲームも存在する。例えば、ダウンロード可能なモバイルアプリという形で提供され、暗号資産取引所ビットトレックス(Bittrex)のCEOが共同創業者に名を連ねる「Coin Hunt World」では、最初に暗号資産を持っていなくても参加できる。様々なタスクを完了することで、プレイヤーがビットコイン(BTC)やイーサ(ETH)を獲得することが可能だ。このゲームのビジネスモデルは、ユーザーをゲームに引き込み、有料広告を見せることのようだ。

規制当局の対応

分散型アプリデータを提供するDappRadarによれば、 現在提供されているP2E・暗号資産ゲームの数は1000を超える。何十万人ものユーザーを抱え、何億ドル相当もの暗号資産が注がれているゲームもあるが、大半はユーザー数がほとんどゼロで、資産もない。

この現象は、開発者たちが何千もの新しい暗号資産を開発しながら、そのほとんどがすぐに価値を失った2017年の新規コイン公開(CIO)ブームを彷彿とさせる。その多くが、まったくの詐欺だったのだ。

P2E・暗号資産ゲームの世界で違法金融行為のリスクが高い主な理由は、誕生まもないもので、その発展が急速なため、ガバナンスや消費者保護について明確なガイドラインがほとんどないからだ。

しかし、注目している規制当局もある。例えば、タイの金融当局は2021年12月、P2E・暗号資産ゲーム/GameFiにまつわるボラティリティや詐欺のリスクを消費者に警告した。

韓国の政府も同じ月、グーグル・プレイとアップルのアップストアに対し、同国内のプラットフォームでのP2Eゲームの全面禁止を命じた。その根拠とされたのは、数ドル以上の価値を超えるゲーム報酬を禁じる法律だった。他の国々が、この2国に続いたとしても驚きではない。

多くのP2Eゲームは、オンラインギャンブリングの新バージョンと言っても差し支えなく、カジノやギャンブルに関する法律に違反していると判断される可能性が高い。

最も人気のP2Eゲームの1つ、アクシー・インフィニティ(Axie Infinity)は、違法に獲得した暗号資産をロンダリングしようとする人に、簡単に悪用されてしまう可能性がある。

ユーザーはゲームをプレイするために、アクシーと呼ばれるNFTキャラクターを購入しなければならず、これらのNFTはNFTマーケットプレースで売却可能だ。アクシー・インフィニティのルールでは、ゲーム内の他のプレイヤーのキャラクターを「借りる」ことができる。

P2Eゲームでは通常、顧客確認(KYC)プロセスは存在しないため、犯罪者が違法に手にした暗号資産をゲームに持ち込み、他のユーザーからキャラクターを借りて、違法な資金の出所を隠すのに協力してくれたユーザーへの見返りという形で、ゲーム内で獲得した報酬を山分けすることができるのだ。

キャラクターの貸し出しといったイノベーションは確かに、オンラインゲームをプレイするための無害で独創的な方法だが、金融犯罪と戦う当局から見れば、マネーロンダリングの格好の標的なのだ。

今後の課題

多くのP2EゲームがNFTを利用しているため、アンチマネーロンダリング(AML)捜査官たちが、世界的なNFTのトレンドを追跡し、P2E分野の今後を示唆するサインとして使うことが重要になるだろう。

最近の国際的調査では、NFT保有率が世界で最も高かったのはフィリピン。その後には、タイ、マレーシア、アラブ首長国連邦、ベトナムが続いている。一方、「NFTを買うことを計画している」と答えた人の割合が最も高かったのはナイジェリア。NFT(とP2E)の成長も見込まれるということだ。

P2Eゲームはまだ新しいものだが、P2Eプラットフォームを通じて大きな違法金融行為が行われるのも時間の問題だ。新アメリカ安全保障センターで北朝鮮の違法金融行為を専門にする私の同僚は1月、北朝鮮政府がP2Eソフトウェアを悪用して、暗号資産を得る可能性があると指摘した。

北朝鮮が直接P2Eを利用した事例は検知されていないが、米当局は先日、Lazarus Groupという北朝鮮のサイバー組織が、3月に発生した5億4000万ドルの暗号資産盗難の犯人であると突き止めた。

アクシー・インフィニティを支えるブロックチェーンプラットフォームをハッキングすることによって、資金が盗まれたのだ。犯行グループは、アクシー・インフィニティのシニアエンジニアに、仕事のオファーに見せかけたマルウェアをダウンロードさせるフィッシングによって、プラットフォームへのアクセスを得ていた。

暗号資産価格が低迷する間、P2Eゲームが暗号資産の世界のニッチな分野に留まったとしても、規制当局やAML対策チーム、金融犯罪捜査当局は、P2E分野での進展に目を光らせるべきだ。現在使われているゲームモデルやルールは、メタバースエコシステムで登場するより大規模なプロジェクトにも使われる可能性が高い。

金融犯罪に対処する最善の方法は、犯罪者のように考え、計画すること。メタバースは、楽しさとゲームにあふれただけの場とはならないだろう。

ヤヤ・J・ファヌジー(Yaya J. Fanusie)氏は、元CIA分析官。現在は、コンサル会社Cryptocurrency AML Strategiesで主任ストラテジストを務めるとともに、シンクタンク、新アメリカ安全保障センターでシニアフェローも務めている。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
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|原文:Watch Out for Illicit Actors Gaming Crypto Games