ハイパーインフレ、その時ビットコインは?【コラム】

ツイッターは最近、コインベースの元最高技術責任者バラジ・スリニバサン(Balaji Srinivasan)氏が、アメリカのインフレのせいで1ビットコイン(BTC)がわずか90日で(2023年6月15日までに)100万ドル(約1億3200万円)になるという、ジェームズ・メドロック(James Medlock)氏からの賭けに応じたことで盛り上がっていた。

100万ドルの賭け

賭けの内容は、90日経ったら、スリニバサン氏はメドロック氏に100万ドルを、メドロック氏はスリニバサン氏に1BTCを送る、というものだ。

マーケティングの一環のようにも思える。実際にそうだ。スリニバサン氏自身も「お金を稼ぐための賭け」ではなく、イデオロギー的な賭けと認めている。量的緩和政策と差し迫るハイパーインフレの恐ろしさについての警告だ。

賭けの前にスルニバサン氏は、アメリカの衰退について優れたツイートをした人に1000ドル相当のビットコインを支払う「BitSignal」キャンペーンを開始。スリニバサン氏とその支持者たちは警鐘を鳴らした。金融崩壊の時は近いと。

そしてアメリカの金融市場は20日朝、低調なスタートを切った。ジェイソン・カラカニス(Jason Calacanis)氏などのベンチャーキャピタリストはさまざまな反応を見せた。

カラカニス氏はこの賭けを「素晴らしい」と称えた。関心が高まることでビットコイン価格が引き上げられる可能性が高いからだ。しかし同時に、銀行の取り付け騒ぎを起こしてしまわないよう、スルニバサン氏に警告した。

ハイパーインフレの意味

どちらにしても私はここで、公言しよう。アメリカのハイパーインフレのせいで、ビットコインが2023年6月15日に100万ドルになることはないだろう。ちなみにこれは、金融に関するアドバイスではない。

私は、賭けそのものに注目する代わりに、ハイパーインフレがどのようなものかに注目したい。ビットコインが100万ドルになったら、どうなるだろうか。

まず、アメリカのハイパーインフレはグローバル経済にとって壊滅的なものになる。それがすべてだ。

影響は本当に計り知れない。アメリカは、アメリカ以外の世界にとって安定性の指標だ。アメリカのハイパーインフレはおそらく、それ以外のすべての地域でのハイパーインフレを意味するだろう。

だが、少なくともビットコインがあるはずだ。

現状、1ビットコインと引き換えに、約2万8000ドルを受け取ることができる。ビットコインが100万ドルになるハイパーインフレでは、1ビットコインの価値は今の35倍になる。ビットコインを保有している人にとっては、うれしい展開だろう。

しかし、保有するビットコインのドル建ての価値が35倍になると考えてはいけない。パン、ガソリン、お米、ステーキ、フライパン、電気…。すべての価格が35倍になると考えるべきだ。ビットコインだけではない。

準備不足のエコシステム

さらに明らかな問題がある。ビットコインをどのようにして使うのかだ。

エルサルバドルのビットコインビーチやグアテマラのビットコインレイクのような循環型ビットコイン経済エコシステムの中に暮らしているなら、地元経済を支えるインフラが整っているのでおそらく大丈夫だろう。

しかし、何百万人のビットコイナーがいて、ビットコインでの支払いに対応する企業が何千もあって、ビットコインとドルを交換してくれる取引所が何百もあったとしても、それで十分だろうか?

おそらく足りないだろう。

ビットコインは何十億ものビットコイナー、何百万もの企業に使われる必要がある。ハイパーインフレ前にビットコインを持っていなかった人たちは、どこでビットコインを手に入れるのだろうか?

取引所は突然のハイパーインフレを生き残ることができるのだろうか?

生き残るかもしれない。人々はモノやサービスの支払いオプションとして、幅広くビットコインを受け入れ始めるかもしれない。所有物と交換にビットコインを手に入れる人もいるかもしれない。だがまだ誰にもわからない。

重要なことは、ビットコインは現在、突然の世界的インフレから私たちを救ってはくれないということ。エコシステムが十分に整備されていないからだ。より多くのビットコイナー、ビットコインでの支払いに対応する多くの会社、多くのビットコイン企業、多くのライトニング・ネットワーク企業、さらに多くのマイニングが必要だ。

ハイパービットコイン化の前に

どれほど多くのビットコイナーが必要だろうか? 企業がビットコイン取引できるようにするために、どれほど多くのBTCPayサーバーを設置する必要があるだろうか? どれほど多くのライトニングチェンネルを開く必要があるのだろうか? どれほど多くのASICでビットコインマイニングをする必要があるだろうか? どれほど多くの開発者が必要だろうか?

もっと多くだ。ビットコインでは、すべてがまだ足りていない。

ハイパービットコイン化とは、ビットコインが主要な国際通貨となるポスト政府管理通貨の世界を形容する言葉だ。マネーを改善するために、ビットコイナーはハイパービットコイン化を望んでいる。「マネーを直せば、世界も直せる」だ。

しかし、エコシステムの準備が整う前にハイパービットコイン化が起きれば、私たちを救ってくれる可能性があるビットコインを実際には使うことができないかもしれない。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:A Sudden Onset of Hyperinflation: What Will Happen to Bitcoin?