「スーパーアプリ」はWeb3でこそ実現する【コラム】

ツイッター(Twitter)のバージョン2、いわゆる「スーパーアプリ」が実現することはないだろう。だが、ツイッターのロゴをドージコイン(DOGE)のマスコットの柴犬に変えたことで、イーロン・マスク氏は少なくとも正しい方向にフェイントをかけた。

スーパーアプリというアイディアは、現実というよりも夢想に近い。多くの試みが失敗に終わっている。部分的な成功例は、東南アジアやiPhone上のApp Storeに存在しているが、完全な「すべてのためのアプリ」はウィーチャット(WeChat)のみで、中国で最も人気のアプリとしてのその状況は独特だ。

ツイッターをウィーチャットのようにするためには、マスク氏はツイッター、さらには2004年以降にインターネット上で開発されたほぼすべてのサービスを再構築しなければならない。大手IT企業の「ウォールド・ガーデン」は必ずしも相互にやり取りできないからだ。

スーパーアプリを実際に開発する唯一の方法は、分散型アプリ(Dapp)を使うことだ。オープンソースアプリであるDappは、コンピューターコードを自由にするだけでなく、インターネット参加者たちのネットワーク全体を自由にするという意味でオープン、つまり開かれている。

つまり、分散型ウェブ上の開発者たちは、コンポーザブル(構成可能)なソフトウェア機能(他のオープンソースプロジェクトに簡単に統合できるコードのブロック)だけでなく、「コンポーザブルなネットワーク効果」からも恩恵を受けることができる。これは、参加者がネットワークに加える価値の合計のことで、レゴブロックのパーツのように簡単にはめることができる。

ネットワーク効果と堀

ネットワーク効果は世界有数のIT企業の中核と言える。フェイスブック、グーグル、アップルがそのトップグループで、Airbnb、ペイパル、ウーバーはトップよりは劣るものの、それでも驚異的。こうした企業の成功と、その他の多くのIT企業との違いは多くの場合、ネットワーク効果を持つものと持たざるものの違いだ。

「ネットワーク効果の堀(企業を守ってくれる競争優位性)」がプレゼン資料によく登場することも頷ける。ネットワーク効果が大きければ大きいほど、モートは広くなる。アメリカの消費者向けウェブサービス大手はこのロジックに非常に長けており、ツイッターや他のほぼどんな企業に対しても跳ね橋を下ろす理由はない。

ほぼ、と言ったのは、1つ注目すべき例外があるからだ。アップルとグーグルの利便性が組み合わさり、グーグルの検索機能はアップルの製品の隅々にまで組み込まれている。アップルは消費者向けITハードウェアのトップメーカーであり、グーグルはおそらく最も重要な消費者向けウェブ企業だろう。規制当局もターゲットとするこの関係は、両社にとって何十億ドルもの価値がある。

アップルとグーグルという例外から、1つの原則が見えてくる。宗主国が貴金属をため込んだ植民地主義の時代のように、企業がネットワークをため込む「重商主義インターネットエコノミー」では、スーパーアプリは生まれない。

規制当局の圧力と信頼

ティックトック(TikTok)の周受資(Shou Zi Chew)CEOは先月、米議会公聴会で「いかなる政府による、いかなる操作からも(ティックトックを)守っていくことを委員会と全ユーザーに約束する」と語った。周氏がそれを暗号化技術を使って証明できたとしたら、週氏の作業はどれほど簡単になるかを想像してみて欲しい。

米司法省は、検索における長年のパートナーシップに対する措置とは別に、アップルとグーグルに対する反トラストの執行措置を強化している。買収か、あるいは巧妙なアイデアによって、あるシリコンバレー大手が、複数の業界にまたがる機能を持ったスーパーアプリを開発したとして、米議会の公聴会がどんなことになるかを想像してみて欲しい。

一方、ウィーチャットは、こちらも違った種類の難しい状況に置かれている。中国政府と密接に関係し、政府広報だけでなく、検閲や監視にも使われている。

きわめて広く普及し、ユーザーにとっては欠かせない存在となっている。ウィーチャットのアカウントを凍結されることは、ときに公共インフラから切り離されることに匹敵すると言われるほどだ。

強力な国家の助けなしに、アプリがそのような力、あるいはスーパーアプリ統合を強制するために必要な影響力を手にできることは想像し難い。プライバシーや言論の自由を愛するユーザーは、そうした官民情報パートナーシップに伴う信頼の前提を疑問視して当然だ。

コンポーザブルなネットワーク効果

分散型ウェブ、あるいはWeb3は違う。パーミッションレスだ。

あるプロジェクトがアプリストアを提供し、別のプロジェクトが検索機能を提供すれば、第三者の開発者は交渉したり、許可を求めることなしに自らの機能を新しいアプリに統合できる。ある人の完成品が、別の人にとってのレゴブロックになる。組み合わせの可能性は、堀や規制当局によって制限されることはない。

このような例は豊富にある。イーサリアムブロックチェーンはDapp(分散型アプリ)間でこうしたコンポーザビリティをサポートするインフラを構築している。Dappはユニスワップ(Uniswap)のコントラクトを流動性に活用し、オンチェーンガバナンスのためにアラゴン(Aragon)のコントラクトに頼ることができる。

複数のエコシステムをまたぐDappも登場している。例えば、スクイッド(Squid)。アクセラー(Axelar)上で開発されたスクイッドは、クロスチェーンスワップをサポートするために、多くのチェーン上の分散型取引所(DEX)上の流動性を活用できる。

だが、これらのアプリは「スーパーアプリ」ではない。しかし、すべてに共通することがある。ひとつひとつは、部分の総和を上回る何かをともに作り上げる、Web3オープンソースコードの構成要素だ。他のアプリが作り上げたネットワーク効果で構成されている。

これが「コンポーザブルなネットワーク効果」と呼べる分散型ウェブの特徴だ。現在のアプリでは、それは多くの場合、流動性の形をとる。つまり、買い手と売り手のネットワークだ。

そして、コンポーザブルなネットワーク効果は、Web3のあらゆるレイヤーに存在する。イーサリアムブロックチェーンのセキュリティといった基本的なものでさえ、コンポーザブルなネットワーク効果だ。

Web3でいわゆる「スーパーアプリ」を開発すべきと言いたいわけではない。それには少し時期尚早な感じがする。

しかし、コンポーザブルなネットワーク効果は開発者を惹きつけ、いずれ、2004年のインターネットには不可能だったアプリを生み出すだろう。

ガレン・ムーア(Galen Moore)氏:相互運用可能なWeb3インフラを手がけるアクセラー(Axelar)のコンテンツ責任者。元CoinDeskのプロフェッショナル・コンテンツ・ディレクター。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:ソラナのスマートフォン「Saga」(Danny Nelson/CoinDesk)
|原文:A ‘Super App’ May Be Web3’s Super Power