歴史は繰り返す:ドットコムバブルの教訓を暗号資産投資に活かす【コラム】

「歴史は繰り返す」とよく言われるが、最近私は1990年代の投資アドバイザーとしての日々を振り返り、「確かにそのとおりだ」と感じている。

ドットコムバブル

ブロックチェーンと暗号資産投資への関心の高まりは、IT株に対する初期の需要によく似ている。インターネットがまだ新しかった「ドットコムバブル」の頃、つまり、Amazonなどの企業が台頭してきた時代を覚えているだろうか? 投資家は発展途上にあるテクノロジーに価値を見出し、莫大な富の創造とディスラプションの約をベースに株価が高騰した。

しかし、2000年代初頭のドッドコムバブル崩壊で私たちが学んだとおり、期待と現実はときに無関係なものだ。多くの投資家がすべてを失い、前回の強気市場で手に入れたものをはるかに超える損失を抱えた。大半の投資家はピーク時、あるいはピーク近くで市場に参入し、その後の反落で資金が消えていくことを見届けることとなった。

私たちは投資する際、画期的なテクノロジーをめぐる盛り上がりと、実際の商業化の見込みを区別して考える必要がある。これは特に一般的な投資家にとっては本当に難しいことだが、周囲が狂ったように盛り上がっているときには、用心深さを推奨することが仕事のファイナンシャル・アドバイザーにとっても、きわめて難しい。

1990年代には、アドバイザーの顧客の多くがIT株だけに投資したがった。分散投資はまったく意味がなかったため、顧客はアドバイザーに対する信頼を失っていた。バブルの頃、IT株を重視するナスダック総合指数は1995年の1000から、2000年3月10日のピーク時には5048まで上昇。わずか5年間で400%以上も上昇した。同じ期間にはS&P500も好調で、200%以上上昇したが、ナスダックがその2倍近い上昇を記録したことを考えれば不十分だった。

5年にもわたって顧客に、IT株バブルは一過性の「ブーム」だと言い続けることを想像して欲しい。最も信頼されるトップクラスのアドバイザーでさえも「光輝く魅力的なもの」から距離を置いて、株式と債券の分散型ポートフォリオを堅持するよう顧客を説得することは難しかった。

残念ながら、顧客の多くはアドバイザーを完全に信頼しなくなり、デイトレーダーになるか、ピーク時に880億ドル(約11兆8000億円)にまで成長した「Janus Twentyファンド」に全資金を投資するなどして、自分で何とかするようになった。このファンドはAOL、シスコ、クアルコムなど、わずか12の株式に投資していた。2002年末までに、このファンドの運用資産残高は約120億ドルに減少した。

欲しいものを少しだけ

私はアドバイザーとして、異なるアプローチを採用した。すべきではないことを伝えて顧客を遠ざけるのではなく、協調的なプロセスを築くことを大切にした。

もし顧客が他の株すべてを売って、クアルコムに全資金を投資したいと言ってきた場合、私なら「確かにクアルコムは最近、とても良い値動きをしている。クアルコムに少し投資して、他のテレコム株にも投資するのも良いかもしれません。ポートフォリオのより挑戦的な一部として、他に投資を考えている株はありませうか?」と返しただろう。顧客は自分の意見が尊重されたと感じ、私の方は顧客を最悪の敵である欲望から守ることができたはずだ。

暗号資産でも同じように感じている人がいるかもしれない。ブロックチェーンも長期的で具体的な真のユースケースを持っている。残念ながら、新しいイノベーションが顧客に普及するパターンは極端になりがちで、暗号資産ではこれが特に顕著だった。

テラ(Terra)やスリー・アローズ・キャピタル(Three Arrows Capital)、ブロックファイ(BlockFi)、セルシウス(Celsius)、FTXなどがその典型例だ。ただ暗号資産に投資するだけでなく、レバレッジも使われていた。この点を考慮し、この投機的資産クラスを避けるよう顧客に伝えていたとしても無理はない。

しかし顧客に対して、自力でやるよう伝えることは答えにはならない。顧客が暗号資産に関心を持っていれば、彼らは自力で投資するだろう。避けられなかった業界の動揺の後にわかったとおり、投資家は多くの場合、金融の専門家からアドバイスを受けたり、投資を分散化することなく、特定の取引所やトークンに激しく偏って投資していた。1つの資産に投資を集中させたことで、損失は莫大なものとなった。

アドバイザーが暗号資産に対してもっとオープンで、歓迎するようなアプローチを取ってさえいれば、そのような投資家の多くはアドバイザーに耳を貸していたはずだと私は感じている。

二元論を超えて

IT株の経験を通じて私が今言えることは、新しい資産クラスへの投資に対して保守的な態度を取ることは理解できるが、二元論にする必要はないということだ。

顧客に新しい資産クラスへの投資を実行させてあげつつ、慎重さを保つ方法はある。ドットコムバブルと、2000年代初期に続いたバブル崩壊の時と同じように、投機的資産クラスに少し投資してもらうことで、顧客の「全財産を賭けたい」という衝動に適切に対応しつつ、大規模なイノベーションには避けられない激動から守ることもできる。

こうすれば将来振り返った時に、イノベーションに伴うチャンスと興奮を味わってもらいながらも、バランスの取れた合理的な投資戦略を維持してもらうことができたと胸を張って言うことができるだろう。

ブロックチェーンテクノロジーが市場に波を起こしていることは、うまく行っているサインだ。インターネットと同じように、本質的にディスラプティブであり、昨年のような浮き沈みはプラスの変化に伴う症状だ。

今はブロックチェーンテクノロジーの初期段階だが、より広範なイノベーションに急速に近付いており、暗号資産が実世界の資産のトークン化に道を開き、投資のチャンスの分配に革命的な変化を引き起こしている。

あっという間に、ブロックチェーンはあらゆるものの一部となり、暗号資産に投資する方法が無数に存在するようになるだろう。さまざまな企業が今、テクノロジーを活用しているように、ブロックチェーンも幅広い業界に浸透し、恩恵をもたらす可能性を秘めている。

まとめると、投資家が暗号資産に投資したがることは当然であり、思慮深く、何より安全な方法で、未来のエキサイティングな可能性を支える市場に参加することは可能だ。

エリック・アーヴィン(Eric Ervin)氏:オンランプ・インベストメント(Onramp Invest)のCEO

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:History Repeats: Applying What We Know About Tech Stocks to a New Market
※編集部より:著者名を修正しました。