米CoinDesk10周年:暗号資産の歴史を10年伝えてきて学んだこと【コラム】

私たちジャーナリストは恵まれた立場にいる。よく言われるように、歴史の最初の1ページを記すことができる。

CoinDeskでのキャリアほど、それを実感したことはない。暗号資産とブロックチェーンエコノミーの動向と浮き沈みを伝えてきた10年を経ても、この世界はまだ新鮮で、日々、見知らぬもののように感じる。これからもまだまだ、数多くのストーリーが生まれるだろう。

失敗を明らかに

だが、歴史の最初の1ページを記すという高尚な理想とは相反するように思えるが、暗号資産のビッグストーリーはしばしば、失敗のストーリーだ。

マウントゴックス(Mt. Gox)、The DAOのハッキング、FTXまで(暗号資産界隈には「X」を含む3文字の名前が多すぎること以外の)教訓は、この業界の過剰な夢と欲望は、繰り返し、人間の能力の制約と限界の犠牲になるということのようだ。

だが、憂鬱な気持ちになる必要はない。この失敗のパターンは、暗号資産とジャーナリズムを中心としたコミュニティの建設的な特徴を裏付けるものでもある。

暗号資産の精神は、失敗は革新的な成長に欠かせないと考えるオープンソース開発の原則の上に成り立っている。つまり、実際に資金が投じられているため、厳しい教訓は素早く処理され、迅速な反復的改善を生み出すことができる。

実際、この10年を振り返ると、時価総額(16万%上昇の1兆7700億ドル)、ウォレット数(5万6000%増加の8400万)、暗号資産規制や暗号資産イノベーションを採用した国の数(ゼロからほぼすべて)など、暗号資産業界は歴史上、例を見ないほどのスピードで成長してきた。とはいえ、最も熱心な推進者たちが予測したような形で経済を変容させることはできていないが。

公共財についての新しい考え方

ジャーナリズムの精神、少なくともジャーナリストが大切にしているものも似たような考え方に基づいている。

「血が流れればトップニュースになる」という報道の世界の古い格言は、他人の痛みを満足げに伝える記者たちの姿だけを表しているものではない。失敗を明らかにすることがジャーナリストの高い使命という意味でもある。つまり、公共の利益や関心にかかわる、人間のあらゆる取り組みに透明性と説明責任をもたらすという意味だ。

こうした使命は、暗号資産コミュニティの使命と一致する。ジャーナリストが埋もれていた失敗を明らかにすればするほど、業界は失敗からより素早く学び、方向を修正して、より強くなれる。

暗号資産関連のジャーナリストにとって、透明性と説明責任を求める姿勢は、(大手でも小規模なメディアでも、疎かにされてしまうことがあるが)メディアは「第4の権力」という古くてロマンチックな考え方に新しい役割を加えるものだ。

従来の仕組みの中でジャーナリストは、政府をはじめ、権力者たちの責任を問い、権力者たちが自身の利益を追求することで、安全や経済の繁栄、環境の持続可能性といった公共の利益が損なわれないよう目を光らせてきた。

暗号資産の世界には、公共の利益(公共財)についての新しい考え方が存在する。つまり、ブロックチェーンは、マイニングプール、ベンチャーキャピタリスト、取引所、規制当局など、中央集権化されたパワーによるコントロールから自由であるべきという考え方だ。暗号資産ジャーナリストは、曖昧だが重要な方法で、分散化の理想を守ることが求められている。

豊富なストーリー

あらゆるメディアには欠陥がある。その多くはひどいものだ。しかし、優れたメディアは、透明性と説明責任を通して公共財を守るというコミットメントをその中核に据えるだろう。その点において私は、敵対的で多くの場合、有害なソーシャルメディアの群衆による、容赦のない、そして根拠もない批判や陰謀論を受けても、高い水準を維持してきたチームを率いていることを誇りに思う。

イアン・アリソン(Ian Allison)とトレーシー・ワン(Tracy Wang)が、FTX破綻のきっかけとなった報道に対して、由緒あるジョージ・ポルク賞を受賞した4月14日は、2人やCoinDeskにとってだけ記念すべき1日となったわけではない。暗号資産業界全体にとって大切な1日となった。

ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポスト、AP通信といった大手メディアの記者と並んだCoinDeskの2人の記者は、暗号資産コミュニティが悪者を炙り出し、パブリックブロックチェーンを分散化したままに保つことがいかに重要なことなのかを示してくれた。

とはいえ、こうした高い目的を追い求めることに対して、賞を与えられるジャーナリストはほんの一握りだ。それ以外の人たちは何を原動力としているのだろうか? その答えは、重要なニュースを伝えることで得られるスリルだ。

暗号資産が私たちに投げかけるニュースは、すごいものばかりだ。

人間のストーリー

CoinDeskの記者の多くは、私がジャーナリズム学校の卒業生たちに大手メディアではなく、CoinDeskに加わってくれるよう誘う時に伝える考え方を共有している。

暗号資産は、ルネサンス期にメディチ家が銀行を中心とした通貨モデルを作って以来の、金融におけるビッグストーリーだという考え方だ。もちろん、大袈裟すぎると考え、暗号資産テクノロジーが世界を変革する可能性について懐疑的な記者もいる(だからこそCoinDeskは考え方が多様で、一段と強いものになっている)。

そして考え方の違いはあっても、CoinDeskの記者たちは日夜、ストーリーを追い求めている。一部の「暗号資産のまわし者」と決めつける声は気にしない。なぜなら、ストーリーは本当に興味深いものだから。

暗号資産が成功するかどうかは別として、何世紀も続いてきた通貨システムを変革し、組織構造やコミュニティのガバナンスを再構築し、Web2の専制を転覆させるという大胆な目標に取り組んでいる事実が、暗号資産を限りなく魅力的なものにしている。

そこから生まれてくるものは、メカニカルなテクノロジーのストーリーや、数学や暗号技術の精密さのストーリーではなく、人間そのもの、その夢や成功、そして失敗のストーリーだ。CoinDeskの10年の取材は、暗号資産のストーリーが持つ、シェークスピアのような幅広さを明らかにしている。

刻まれてきた歴史

2014年のマウントゴックスの破綻、2016年のThe DAOのハッキング、2022年のFTXの破綻の他にも、CoinDeskの10年の歩みの中にはさまざまなドラマがあった。

例えば、2015年のヴィタリック・ブテリン氏によるイーサリアムブロックチェーンの立ち上げ。推進派にとっては、ティム・バーナーズ=リー氏によるワールド・ワイド・ウェブ(World Wide Web)の立ち上げに並ぶ瞬間であり、批判者にとっては、ブテリン氏のアイデアに魅せられた人たちからお金をむしり取ろうとする企みだ。

2017年にはブロック戦争があった。非主流派コミュニティの破壊的な内輪揉めと捉えることも、企業の利益の濫用から公共財を守った一般市民、つまりユーザーの勝利のストーリーと見ることもできる。

2018年のICO(新規コイン公開)ブームは、一般的には過剰な投機と損失の典型例だが、同時に、時代を先取りした、新しく包括的な資本市場に対する希望のストーリーと見ることもできる。

2019年には、フェイスブックのリブラが登場した。多くの人が考えたように欠陥を抱えていたが、政策立案者たちは、暗号資産のイノベーションが自分たちの立場を揺さぶるものであることをついに認識した。

2020年には、ミームトークンが台頭。批判的な人たちは、ミームを業界の軽薄さの表れと捉えており、クリエイティビティの素晴らしい表出であり、新しいコミュニケーションシステムがアイデアやカルチャーを作り出していることを認識できずにいる。

2021年には、エルサルバドルがビットコインを法定通貨として採用。この動きをどう捉えるかは別として、暗号資産が国家に根ざした通貨と権力についての根本的な考え方に異議を申し立てる存在であることを思い起こさせた。

お金、権力、クリエイティビティと独立を求める人間の戦い──暗号資産の歴史の序章はそれらが彩っている。そしてCoinDeskがこの10年伝えてきたことだ。

次の10年、暗号資産はどうなるのだろうか?

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Ian Suarez/CoinDesk
|原文:CoinDesk Turns 10: What We Learned From Reporting a Decade of Crypto History