部分準備銀行制度は詐欺(だが天才)【コラム】

アメリカ史上2番目の規模となったファースト・リバブリック・バンクの破綻とその救済は、世界の銀行システムにおける支払い能力と流動性について深刻な疑問を提起した。

銀行は本来、退屈だが実直な事業を展開しているはずだ。顧客は銀行口座に預金を預けて安全に保管してもらい、使いたい時にはいつでも引き出しができる。そして、おおむねこのシステムは機能している。

部分準備銀行制度とは

だが銀行も利益をあげなくてはならない。アメリカの銀行のほとんどは、口座を無料、または低額の手数料で提供している。ではどうやって利益をあげるのだろうか? 言うまでもなく、顧客の預金をリスクの高い事業に貸し出して、利子を受け取ることによってだ。

実際の銀行運営は次のように行われる。まず、短期型で安全な顧客預金が銀行に預けられ、銀行はそれを将来の金銭的リターンと引き換えに、長期的でリスクの高い資産に投資する。そして顧客全員が一度に預金を引き出さないよう天に祈る。短期的預金は長期的資産に投資されて、使えなくなっているからだ。

これが「部分準備銀行制度」(銀行は顧客預金の一部のみを準備金として保有する)で、よく知られた詐欺だ。

だが詐欺には違いないが、ある意味では社会にとって有益だった。それでも、このような詐欺に関わらない選択肢があればそれに越したことはない。

ライターでコンピュータープログラマーのスティーブ・ランディ・ウォルドマン(Steve Randy Waldman)氏のブログ「Interfluidity」が、部分準備銀行制度の問題をうまく表現している。

「金融システムは、私たちが集団的行動問題を解決することに役立つ。コストとリスクが完全に公開されている投資プロジェクトばかりの世界では、ほとんどの個人は恐怖を覚えるだろう…(中略)銀行システムは、投資家と起業家の間に自らを差し挟む、詐欺と天才を重ね合わせたものだ」

つまり、どういうことだ?

簡単に言うと、銀行が短期型で低リスクの顧客預金を、長期型で高リスクの資産に投資できなければ、起業家が思いついた世界を変えるような奇抜なアイデアのほとんどは、投資による資金提供を受けられないということ。銀行は金融資本のリスク分散に一役買っている。

詐欺と天才

この天才的な仕組みに参加する銀行がなければ、長期的にリスクの高い投資を行う金融資本は、長期的にリスクの高い投資を行うことに同意する資本だけという金融システムになる。

だが、ここに詐欺が潜んでいる。銀行口座に預金する人のほとんどは、金融資本に関するこうしたソリューションを選択していることを知らない。

しかし、この天才的な仕組みは、社会にとって、ある意味では良いものだった。私たちは皆、騙されて知らないうちに生産的な投資を行ってきた。もちろん、非生産的な投資もあったが、部分準備銀行制度なしで、より生産的な投資ができたと主張することは難しいだろう。

だが、100%の準備資産を保有するカストディア銀行(Custodia Bank)やザ・ナロー銀行(The Narrow Bank)のような代替選択肢が利用可能になっていない、あるいは法律で許可されていないにもかかわらず、部分準備銀行が米政府に支えられていることは問題だ。

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部分準備の仕組みを取らない、いわゆる「ナローバンク」(国債への投資などの安全な資産運用は行うが、リスクを伴う貸付を行わない銀行)に預金をするという選択肢が与えられるべきだ。最近目撃したとおり、部分準備銀行がうまく行かなくなると、その影響は壊滅的なものになる。

ありがたいことに、銀行はナローモデルに移行しようとしているようだ。確かに部分準備銀行制度が一般的でなくなれば、利用できる資本は少なくなり、企業が資金を調達するコストは高くなるかもしれない。だが、それで良い。

高リスクで高リターンの可能性がある投資をする人たちは、「高リスクで高リターンの可能性がある投資をしたい」と明白に宣言している人たちに限定されるべき。そうでなければ詐欺だ。

現代の金融システムは「詐欺と天才」の上に成り立っている。天才は詐欺の言い訳になるだろうか?

たぶん、違う。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:米連邦準備制度理事会(FRB)の本部(AgnosticPreachersKid/Wikimedia)
|原文:Fractional Reserve Banking Is a Fraud (but It’s Genius)