ビットコイン、この瞬間のために作られた【コラム】

シリコンバレー銀行、シルバーゲート銀行、シグネチャー銀行の破綻は市場に波紋を広げ続け、アメリカの銀行株は下落している。米オンラインブローカーのチャールズ・シュワブは13日午前、取引停止となった。

一方、ビットコイン(BTC)をはじめとする暗号資産市場は2桁台の上昇。リスクオフ環境でビットコインが上昇したのは初めてかもしれない。もしかしたら、ビットコインはまさにこの瞬間のために作られたのかもしれない。

金融危機への反発

ビットコインネットワークは、多くの勤勉な人たちが政府も金融システムも自分たちのために機能していないと感じた2008年の金融危機に対するダイレクトな反発として生み出された。

ビットコインの最初のブロックには「The Times 03/Jan/2009 Chancellor on brink of second bailout for banks(The Times 2009年1月3日 首相、銀行に対する2度目の救済措置の瀬戸際)」とのメッセージが刻まれていた。

そして今、規制当局は再び、銀行を救済しようとしている。しかもその破綻の要因は、米連邦準備制度理事会(FRB)によるアグレッシブな金融政策、銀行のお粗末なリスクマネジメントあるいは欲望にある。サトシ・ナカモトのメッセージに耳を傾けることが重要だ。

私は長年にわたって「グレート・リセット」について語ってきた。私たちが最も重要なことに関して、中央集権型組織を信頼することをやめるべきだというコンセプトだ。結局、こうした組織は、私たちより優れているわけでも、賢いわけでもない人たちによって運営されているのに、私たちに代わってすべての判断を下し、ミスをしている。

取り付け騒ぎ

ここ1週間の出来事の推移を見てみれば、中央集権化の問題がすぐに認識できるだろう。パウエルFRB議長は7日、FRBの政策について新しいアプローチを説明。これまでに予想されたよりも利上げが長く続く可能性を示唆した。長期間におよぶ高金利の予想は、すぐに債券市場に影響を与え、債券価格は劇的に下落した。

その頃、シリコンバレー銀行は顧客からの引き出しに対応するために、保有していた米国10年債の一部を購入時より20〜30%安い価格で売却することを余儀なくされた。現金不足の噂が広まり始めるとともに、取り付け騒ぎが起こり、規制当局が介入。これがさらなくパニックを引き起こした。

シリコンバレー銀行のような地方銀行がすべて破綻する可能性があるのだろうか?

部分準備銀行制度では、地方銀行の大半は預金のわずか5〜10%を準備資産として保有していれば良いため、そうしたすべての銀行に取り付け騒ぎの可能性がある。

預金者に対して日々のキャッシュフローを維持する責任を持つ銀行が、米国10年債を購入しても良いと判断したリスクマネジメント部門の責任者は誰だったのかという、もっともな疑問も浮かんでくる。

昨年、経済が低迷を始めた時、FTXやスリー・アローズ・キャピタル、テラなどの暗号資産企業の破綻の影響が伝統的金融機関に波及することを多くの人が心配していた。しかし実際には、真逆の事態が発生し、シリコンバレー銀行の破綻が暗号資産、特にステーブルコイン市場に直接的な影響を与えることになった。

USDCがドルペッグ喪失

米ドル連動型ステーブルコインの中で、時価総額でテザー(USDT)に次いで第2位のUSDコイン(USDC)は、サークルが手がけている。

サークルのモデルはシンプルだ。顧客からお金を受け取り、それと引き換えにUSDCと呼ばれるデジタル資産を渡す。そして受け取ったお金を、流動性の高い米国3カ月債(現在の利回りは4.87%)に投資する。これ以上に安全な戦略があるだろうか?

サークルは手元にある程度の現金を保持し、6つのパートナー銀行に分散させておくという合理的な判断を行った。その1つがシリコンバレー銀行だった。シリコンバレー銀行の経営破綻が明らかになるなか、サークルは同行に33億ドルを預けていたと発表。バランスシートに5%以上の穴が開くこととなった。

パニックが広まり、12日にはUSDCは0.87ドルまで下落。ドルペッグを失った。トレーダーはすばやくテザーに切り替えた(だが、テザーは準備資産や事業運営に疑問が浮かんでいる)。

私は保有資産の多くをビットコインに換えることを選んだ。どうやら多くの人が同じ行動に出たようだ。

十分な規制を受けた安全な企業と考えられているサークルは、株式公開を見据えており、USDCがドルペッグを失ったことは一大事だった。今回の事態は投資家たちに警鐘を鳴らし、「not your keys, not your coins(鍵を保有していない限り、あなたのコインではない)」という暗号資産のルールが銀行だけでなく、ステーブルコインを手がける企業も含めて、すべての中央集権型組織に当てはまることを示した。

サークルは、仮にシリコンバレー銀行の預金にアクセスできなくなったとしても、不足分は補填すると発表して、信頼の回復を試みた。12日夜までにはステーブルコイン市場は回復し、USDCと、多くのUSDCを準備資産として抱えるダイ(DAI)はドルペッグを回復した。

しかしそれで十分なのだろうか?

誰を信頼するのか?

資産価格は回復しているかもしれないが、ショックは残っている。中央集権化されたものをどうやって信じればよいのだろうか? 米連邦預金保険公社(FDIC)が保証する25万ドル以上のお金を銀行に預けたままでよいのだろうか? 保険がうまく機能しないこともあるのだろうか? 銀行と取引のある会社が発行するステーブルコインに投資を続けても大丈夫なのか?

ビットコインの強みは、人間に検証・サポートしてもらう必要がなく、演算が裏付ける分散型の形で価値を保存できるところにある。利益を生むために預金の90%を貸付に使う人もはおらず、取り付け騒ぎの可能性も、苦労して稼いだお金を債券にギャンブルのように投資される心配もない。

ビットコインはまさに今、この瞬間のために作られた。市場もそう考えているようだ。

私の考えるグレート・リセットは、ビットコインが最も価値ある資産で、究極の価値指標となる未来を前提としている。ビットコインを使って資産を保存し、日々の支払いのために一部はステーブルコインに換えることがあるかもしれないが、信頼するのは分散型の価値保存手段、つまりビットコインだけだ。

そして分散化のコンセプトは、コミュニティ運営や資源の分配、政府がコントロールすべきもの/すべきではないものの判断など、他の分野にも応用できる。大きなシフトが生まれており、ますます多くの人たちが伝統的システムから離れている。

完了までどれくらいの時間が必要かはわからないが、グレート・リセットはすでに始まっており、ビットコインがその選ばれし通貨となる。

タティアナ・コフマン(Tatiana Koffman)氏:ニュースレター「MythOf Money.com」を手がけるエンジェル投資家。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:K8/Unsplash
|原文:Bitcoin Was Built for This Moment