USDTの時価総額増加は「疑問の余地がある」、取引高は数年来の低水準に:Kaiko

ステーブルコインのテザー(USDT)の取引高が数年来の低水準に低下しており、時価総額が過去最高に迫るところまで上昇したことは「疑問の余地がある」と暗号資産市場調査企業のカイコ(Kaiko)は5月22日に発表したレポートで述べている。

ステーブルコインの主な用途は取引であり、取引高が低下する一方で、時価総額が最近830億ドルまで増加したことは「通常のこととは思えない」とカイコは指摘した。

USDTは年初から時価総額が増加し、過去最高額の834億ドルに迫っている。増加は主にアメリカでの銀行破綻、サークルのUSDコイン(USDC)やパクソスのバイナンスドル(BUSD)といったライバルに対するアメリカの規制当局の取り締まりが要因だ。

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しかし、USDTの取引高は、弱気市場で暗号資産取引が冴えないこと、世界最大規模の取引所であるバイナンス(Binance)がUSDTを使った取引に再び手数料を導入したことが重なって、最近急激に減少している。CoinGeckoのデータによると、この週末、USDTの1日あたりの取引高は量2019年3月以降、初めて100億ドルを割った。

不思議なケース

世界第5位の会計事務所BDO Italiaが署名した保証報告書によると、発行元のテザー(Tether)社はUSDTの時価総額790億ドルに対して、米国債、ゴールド、ビットコインなど約820億ドルを保有している。

カイコのリサーチディレクター、クララ・メダリー(Clara Medalie)氏によると、取引高の減少と、取引がステーブルコインの主なユースケースであると仮定すると、時価総額の減少が想定されるという。USDCとBUSDの時価総額は、取引高に連動して減少している。

「だが、USDTにはこの傾向が見られない」(メダリー氏)

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USDTのトレンドを無視した成長について考えられる理由の1つは、規制当局が暗号資産を従来の金融システムから切り離そうとしているため、規制された取引所からオフショア取引所にシフトしていることだ。

「通常は米ドルを使用していたトレーダーは、もはやドルを選択肢として使えなくなったため、USDTに目を向けている」(メダリー氏)

もう1つの理由は、トロン(Tron)ブロックチェーンと、イーサリアムと比べて安価な取引手数料が関係しているかもしれない。USDTの大半は、トロン上で発行されており、バイナンスはトロン上で最大のUSDT保有者となっている。

「トロン、USDT、バイナンスの間には、おそらくマーケットメーカーが安価な取引手数料のためにネットワークの使用を選択し、USDTでバイナンスに流動性を供給するという関係があり得る」とメダリー氏は付け加えた。

テザー(Tether)社にコメントを求めているが、当記事執筆時点までに返答はなかった。

|翻訳:coindesk JAPAN
|編集:増田隆幸
|画像:Kaiko
|原文:Tether Trading Volume Falls to Multi-Year Lows, Market Cap Rise Is ‘Questionable:’ Kaiko