バイナンス提訴は「大きなミス」か、規制の明確さをもたらすか

米証券取引委員会(SEC)がバイナンス(Binance)を提訴したことは、もし他の国々が暗号資産業界の発展を認め、それが最終的に伝統的な銀行セクターをリプレースするなら、大きな誤算となり得る。ビアンコ・リサーチ(Bianco Research)の創業者兼社長のジム・ビアンコ(Jim Bianco)氏はそう語った。

雇用とイノベーションを奪う

「暗号資産が次の金融システムの青写真なら、今回の提訴は大きなミス」とビアンコ氏はCoinDeskに述べ、バイナンスに対する措置は、米議員らが「暗号資産を(アメリカから)追い出す」ためのもう1つの試みだと続けた。

6月5日、SECは未登録の証券とステーキングサービスを提供し、米証券法に違反している疑いがあるとしてバイナンスを提訴した。

3月には、同様にジャスティン・サン(Justin Sun)氏とトロン財団、ビットトレント財団、レインベリー(旧ビットトレント)を提訴している。

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CoinDeskへの声明でバイナンスの広報担当者は、今年初めにSECからの警告である「ウェルス通知(Wells Notice)」を受け取り、最終的に訴訟に至ったことを認めた。米暗号資産取引所コインベース(Coinbase)も3月に、未登録証券の提供の疑いで取り締まりを受ける可能性があるとの警告を受けている。

コインベースは引き続きアメリカでの運営に注力しているが、このことがきっかけで、カナダやセーシェルなど、他国でのビジネスを強化した。コインベースの株価は、バイナンス提訴のニュースを受けて5日、10%下落した。

決済とコンプライアンスのインフラを提供するBanxaの米国CEO兼最高法務責任者リチャード・マイコ(Richard Mico)氏は「規制の明確さに欠ける状況が続いているため、デジタル資産ベンチャーがより友好的な法域へとアメリカを離れ、米国での雇用とイノベーションを奪うリスクが生まれている」と述べた。

提訴を歓迎する声も

SECのバイナンス提訴は、業界に対する一層の規制を示すものだが、一部の専門家はSECの提訴を歓迎している。

SEC認可の取引プラットフォームとカストディアンを傘下に持つプロメシウム(Prometheum)の共同CEO兼共同創業者アーロン・カプラン(Aaron Kaplan)氏は「SECのこの有意義な行動は、暗号資産のための規制された市場インフラに向けたアメリカでのシフトの始まりのシグナルであり、最終的に業界の前進に貢献するはずだ」と述べた。

「競争環境はかなり違ったものになるだろうが、アメリカの投資家に真の利益をもたらし、イノベーションの拡大を可能にするはずだと期待している」(カプラン氏)

「SECがアメリカでバイナンスに対して行った提訴は、正当なものであるのみならず、いくぶん遅すぎたようにも思える」と語るのはリスク管理プラットフォームLibertify.comの創業者スティーブ・ローゼンブラム(Steve Rosenblum)氏。

「バイナンスは運営上の透明性の欠如が指摘され、批判を集めていた。同社の幹部にはほとんどアクセスできないようで、懸念をさらに助長している」(ローゼンブラム氏)

同様に、IDベースのレイヤー1ブロックチェーン、Swisstronikの共同創業者ヴァレリー・ブリザティウク(Valerii Brizhatiuk)氏は「バイナンスのようなプレイヤーは、幅広い機能、製品、投資サービスを持っている。グローバルなユーザーベースをサポートし、一方でアメリカの規制を遵守して、これらの製品やサービスを提供することは、ときに困難を伴う可能性がある」と語った。

|翻訳:coindesk JAPAN
|編集:増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Binance Lawsuit Could Be ‘Huge Mistake’ or Bring Needed Clarity to U.S. Crypto Industry